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長女が最高値を付けたクリスマス

クリスマスだというのに日米の株価は急落しているようだが、年明けに大学受験を迎える長女は、今から十数年前のクリスマスのころ、人生の最高値を付けた。
くだらない親馬鹿トークだが、お日柄が良く、時間があるのでさっと書いてしまう。

絵本丸暗記少女

長女はカタコトで話せるようになってから、暇さえあれば「ほん、よんで」とせがむ子だった。
初めての子供に浮かれた私たちはどんどん絵本を買い込み、膝の上にのせて、せなけいこの「いやだいやだ」「あーんあん」のミニ絵本、「ぐりとぐら」シリーズ、「そらまめくん」シリーズ、「もこもこ」などなど、それぞれ何十回、ものによっては何百回と読み聞かせた。

さて、当時も今も、クリスマスが近づくと、本屋にはクリスマス絵本コーナーができる。
2歳の長女のために迷わず選んだのは、やなせたかしさんの「アンパンマンのサンタクロース」だった。

長女は、歩き始めたばかりのころ、赤ちゃん本舗の店内でアンパンマンの手押し車にくぎ付けになり、「買ってくれるまでテコでも動きません」モードになったこともあった。
「子育てあるある」かもしれないが、長女の場合、そんな現象は後にも先にも、そのアンパンマン手押し車だけだった。

「アンパンマンのサンタクロース」は、そんな長女の「アンパンマン愛」を直撃。お父さんとお母さんは、交代でひっきりなしに「よんで~」というリクエストに答える羽目になった。

ある日、さすがに飽きてきて「ちょっと、もう、お父さん、疲れちゃった」とこぼすと、長女がこう言った。

「じゃあ、ちっちがよんであげる」

「ちっち」は、親から「ちーちゃん」と呼ばれていた娘が、口真似するうちにニックネームとして定着した呼び名だ。
それはともかく、早期教育とか英才教育とか、そういうのを全くやっていなかったので、長女はまだひらがなも全く読めなかった。
だから私は「うんうん、ありがと。読めるようになったらな」とお礼を言った。すると、長女が

「ちっち、よめるよ!」

と、ひざから抜け出し、私と向かい合う格好で座ると、紙芝居状態で絵本を開いてこちらに向けた。

「あんぱんまんの、さんたくろーすー」
「ぱんつくりのめいじん、じゃむおじさんは、あんぱんまん、しょくぱんまん、かれーぱんまんといっしょに、くりすますのじゅんびにおおいそがしです!」

確かに、長女は、本を「読んで」くれた。
読み聞かせるうちに、内容を丸暗記してしまったのだ。
「まじか」と驚く父が見る前で、絵本は次々とめくられていく。

(サンタクロース役になったアンパンマンが調子にのってプレゼントを浪費し、困っていたら本物のサンタが助けに来るという強引なストーリー)

最後のページまで読み終わると、長女は、
「おしまい!」
と本を閉じた。

今度は何度もこちらが「読んで」とせがむ番になった。
そして、何度でも、長女は一か所も間違えず、絵本を「よんで」くれた。

この「丸暗記の紙芝居」は、その年のお正月、孫見せ興業の帰省で大人気の出し物になった。

「文字無き時代」の口承能力

これだけではただの親馬鹿想い出話になってしまうので、少々考察を(笑)

冒頭に「最高値」と書いたのは、この「絵本丸暗記」が長女の記憶力のピークだったと思うからだ。
その後、ちゃんとひらがな、カタカナを習い、漢字も読めるようになると、こんな暴力的な記憶力を発揮することはなく、いまでも暗記モノの科目が得意というわけでもない。

思うに、やみくもな暗記力が発揮できたのは、2歳の娘が「文字なき民」だったからだろう。
何千年も前、人類の大部分は「文字なき民」だった。今でも少数ながら文字を持たない人々は存在する。
そんな時代、そんな人々でも、口伝えに受け継いでいる神話や伝承を持っている。
アメリカ先住民の口承文学などについては「長い年月の間に変化していて必ずしも『有史前の缶詰』ではない」という見方があるようだが、私は「最高値」を付けたときの長女の姿をみて、「文字がなく、情報の洪水に飲み込まれなければ、人間は何世代でもエラー無しで情報をリレーできるんじゃないだろうか」と思うようになった。

人は変わらない

この季節、この長女の「アンパンマンのサンタクロース」のエピソードは、我が家の定番の「この人は昔はすごかった」ネタになっている。
そして平成最後の今年のクリスマス。
長女が嬉しそうに、親友(彼氏にあらず、女子です)からもらったプレゼントを披露してくれた。

それは、手の★ボタンを押すと、迷子になったルンバのようにアンパンマンがうろつきまわる、という、何ともいえない代物だった。
おしゃべりしながらさまようアンパンマンを、大きな受験生が、本当に嬉しそうに追いかけまわしていた。
十数年前、「ガチャンガチャン」と効果音のする手押し車を手に部屋中を暴走していたころから、この人の「アンパンマン愛」は、まったく変わっていなかった…。

おあとがよろしいようで。
ではみなさま、メリークリスマス!

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