【書評】砂まみれの名将―野村克也の1140日
故・野村監督の、シダックス監督時代に焦点を当てた本だ。
ノムさんの書籍はビジネスパーソンでも大人気だし、これまでにもたくさん出ているけど、アマチュア野球時代の3年間を取り上げた本はこれくらい、ではないか。
本のエピローグに、
シダックスに別れを告げるシーンの回想がある。シダックスの創業者、志太氏による送別会のシーン。
ここで、野村監督が挨拶の途中で、人目も憚らず涙したことが描かれている。
人は人によって生かされていて、そして、その「生かされる」もまた、因果応報というか、結局のところ、人を大切にする人は、人からも大切にされるということなんだなと。
言葉にすると陳腐なんだけど、その当たり前を自分はどれだけできているのだろうか、と恥ずかしくもなった。
それと、本当の幸せはどこにあるのか、も結局のところ人生が終わってみないと分からない。
幸せもいくつもあっていいし、実際、いくつもあるのだろう。
本著の中で、たびたび、野村監督の言葉として
「シダックスでの野球が本当に楽しかった」
というフレーズが出てくる。
「シダックスで良かったんだ、シダックスが楽しかったんだ」
とも。嘘じゃないんだろう。
ノムさんを取材し続けてきた筆者は次のように解説している。
阪神の監督を追われ(形としては辞任だけれども)、野球人生ではどん底だったところに手を差し伸べたシダックスとそれに対する強い恩義を感じていた野村監督の、楽天から監督就任を打診があってからも立ち居振る舞いも、ドラマがある。
これらはすべての67歳になってからの物語だ。それまでに積み上げたものがあってこその物語とはいえ、それでも。
何かを始めるのに遅いということはない
のだ、ということを再確認させられた一冊。
大事なのは、自分が心を燃やせるものを持っているか、いなか。それがすべて。
そして、この本のエピローグに驚くべき逸話が紹介されている。シダックス監督に就任するまでの空白の11ヶ月に何があったのか。
歴史に「たら」「れば」はないけれども、結果的に阪神の監督をあのタイミングで辞めていたことはラッキーなことだった。
それは後になってから、わかること。
人生万事、塞翁が馬。
すべての現象は良くなるための変化なんだと心に刻んだ一冊。
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