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デザイナーのキャリアを振り返って思うこと

デザイナーとして働きはじめて今年で16年目になる。

これまで4つの会社で正社員として働き、昨年2月に独立しフリーランスになった。今は主に教育事業を扱う2つの事業会社でUIデザイナーとして働いている。

これまでと働き方が大きく変わった一年だったけど、やりがいある仕事と優秀なチームメンバーにも恵まれたおかげで充実した日々を送ることが出来ている。

今でこそ仕事をしている時が一番楽しいとさえ思えるようになったがデザイナーとしてのスタートは散々なものだった。

グラフィックデザイナーを志し美大進学を目指すも予備校の成績はずっと底辺。一浪してギリギリ関西にある私立の美大に滑り込めたものの、在学中はこれといった活動や目立った成績も残せず、就職活動も苦戦。デザイナーになる前からグラフィックデザインで食っていけるほどの能力は自分には無いと思い込んでいた。

グラフィックデザイナー職での就職は諦め、運良く入れたゲーム会社でCGデザイナーとして働き3年が経った頃、ひょんなキッカケで同社を辞めて独立するという先輩と知り合い意気投合。先輩が立ち上げる会社でグラフィックデザイナーとして働かないかと誘って貰った。

思わぬきっかけでグラフィックデザイナーとして働けるチャンスが訪れ、勢いまかせで転職したものの、現実はやっぱりそんなに甘くはなかった。

手を動かせど動かせど、一向にデザインを仕上げられない毎日。提案前はいつも徹夜だし、徹夜も1日で済めばまだ良い方で、(今では考えられないけども)高熱を出し泣きながら3日間徹夜してなんとか間に合わせた時もあった。

こんな調子で毎回必死に提案までこぎつけても、返ってくるのは沢山の厳しいフィードバック。会社の立ち上げ当初は、先輩の看板で仕事の依頼が来る事が多かったため、クライアントからの期待値も高く、転職してからの数年は先輩のフォロー無しには仕事を完遂できない事が殆どだった。

とある案件では、いつまで経ってもクライアントを納得させる提案ができず、ついには完全に信頼を失ってしまい、先輩に泣きつき担当を変わってもらった事があった。しかし一度失った信頼を取り戻す作業は容易ではなく、自分の案件も回しながら僕のケツ拭きまでやるはめになった先輩の頭に大きな10円ハゲが出来てしまったこともあった。

27歳で転職し、30歳目前になっても尚独り立ちが出来ず、まともな戦力として会社に貢献できない日々。新規案件の打ち合わせの時はまたきつい毎日がやってくるんだなぁと考えてしまいいつも憂鬱だったし、内心本当に怖かった。いっそ地元に帰って別の仕事に転職しようかと考えた事も何度もあった。

30歳を過ぎた頃、ようやく仕事のコツのようなモノが掴めてきて、以降突然開花したよう独り立ちして仕事を回せるようになった。

スマホの登場により、グラフィックデザインから徐々にUIデザイン案件の比重が大きくなり、スマホアプリやtoB向けの管理システムのUIデザインなどにも幅広く携わることが出来た。リーマンショックで会社がリアルに傾きそうな経営危機の瞬間も目の当たりにした。

結局この会社には7年半の期間在籍した。思い返せば精神的にキツかった思い出も多かったりはするが、それでもこの期間で得られた経験は退職後から今に至るまで、そしてこの先もデザイナーとして生きていく上でとてもとても貴重な財産になったと思う。

ここで得られた経験を具体的にあげると大きく2つ。

1つ目は、僕を誘ってくれた先輩の仕事を間近で見れたこと。

仕事が出来ないにも関わらず、その癖自分の主張だけはしっかりしてくる扱いが難しいタイプの人間だった僕を決して見捨てず、怒らず、時には夜中に自宅にまで押しかけてきてまで熱心に丁寧にデザインや仕事の進め方のアドバイスしてくれた。

前職でデザイン部門のマネージャーをしてた時の振る舞いや問題解決の方法は全てこの先輩のトレースだ。愚痴を言わず、起こった問題をどう解決するかにだけフォーカスする姿勢を間近で見てきた経験はその後の僕の大きな糧となった。

2つ目は、トライ&エラーを死ぬほど繰り返せたこと。

来る日も来る日もデザインに向き合えこと、そして数え切れないトライ&エラーを繰り返せたことで、デザインをする上で大切なアイデアの引き出しや表現のセオリーみたいなものを一通り習得することができた。業界のトップクオリティと比較されるとキツいけど、今ではある程度どんな案件にも対応できる自負はある。

土壇場で踏み止まれる力も身に付いたし、少々の事ではあまり焦らなくなった。提案を外してしまうことは今でもあるが、何がダメでどう修正すれば良いのか、問題を特定して解決策を考える思考にすぐに切り替えられるようにもなったと思う。

退職してからもそれなりの経験をしてきて、その積み重ねで今がある。今でこそ独立してデザインで食ってけるようになったが、デザイナーとしてここまでくるのに16年かかったとも言える。デザイントレースを繰り返せばデザインスキルは身につくかもしれないが、現場での仕事というのは予想外の連続だ。その時々でどう動くかを判断し、メンバーからの信頼を得られるようになるにはやはり相応の経験も必要だと思う。

経験を積むというのは決して楽な事ばかりではない。思い返すと色んな幸運に恵まれたなと思う一方、それらを乗り越えられた要因が自分の中にもあるとすれば、それはどんな時でも自分の現状のアウトプットに決して満足しなかった事だ。誰にどんな厳しいことを言われても、「やっぱそうだよな、まだ甘いよな、もっと良いもの作れるよな」と心の中でずっと思い続けられたことだ。

それができたのは予備校時代含めて周りに優秀な人間が沢山いる環境の中で、凄まじい劣等感を感じながらド底辺から上を目指して、そのキャリアをスタートさせたからかもしれない。

周りを見渡しても、信頼して一緒に仕事ができる人というのは皆それなりの経験を積んできているし、今まさに高い山を越えようと必死に頑張ってる人には一緒に寄り添い力を貸してあげたいと思う。 


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