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第十五話:生活習慣病をつくり出す「自己抑制心」

前回の第十四話では、「イイコ」の問題に触れ、「イイコ」を「日本社会が創り出した思考停止の産物」と紹介した。宗像は、この「イイコ」、すなわち「「自己抑制の自己イメージスクリプト」が、生活習慣病をつくり出す原因だ」と言っているので、ここで紹介しておきたい。あなたも思い当たるところがあるのではないだろうか。
* 「自己イメージスクリプト」については、また別の回にお話しするので、今回はこの言葉こだわらず、「自己抑制心」と理解し、読み飛ばしておいてほしい。

自己抑制心の背景とその影響

宗像恒次「EBMとNBMとを統合するイメージスクリプト概念」ヘルスカウンセリング学会年報第12号(2006)pp9-18、から抜粋する。

強い自己抑制心には、主に見捨てられる恐れ・怖さや、あるいは過去の課題・危機を乗り越えられなかった無力感や自己否定感がある。それにもとづいてつくられた、支援訴求ができず、自分を犠牲にしやすい自己イメージスクリプトは、悪性ストレスをつくり出し、交感神経緊張症や、好中球増多症をつくり、体内に大量の活性酸素を発生させ、細胞膜やDNAを傷つけ、潰瘍を形成したり、動脈硬化症や悪性腫瘍をつくり出す原因イメージとなっていると考えられる。

人間の行う仕事の大半がロボットに取って代わられるという未来予測の出ている現代であるが、私たちの住むこの日本は、いま、労働生産人口が減り、一人あたりの仕事量は増加の一途をたどっている。時代が加速度的に変化し続ける中で、これまでの「イイコ」は、自分の頭で考えることを望まれ、従来通りの働き方をやめ、さらに効率的に、効果的に働けと強要される。
いままで、上司には逆らってはいけないと、思考停止させて生きてきた頭で、生き残るための策を自ら考えよと言われる。それが自己責任であり、考えない者は、容赦なく首が切られる。考えるクセができていないのに、頭をどう働かせればいいのか…。それでも「イイコ」は、助けてと言えず(支援訴求ができず)、会社(社会)から見捨てられないように、自分を殺し、まわりに合わせて幽霊のように働き続ける。そんな日本人の生き方が病人を増産し、医療費を押し上げ、思考停止した政治の下、税金がますます跳ね上がり、年金は消えて泡となり、悪循環の渦に引き込まれていく。
こんな日本でいいんですか、という議論は、また別のところでしてみたい。

閑話休題。
前回も書いたが、この「イイコ」、宗像も、この論文で、「自分殺し」という強烈な表現をしているので引用しておく。

自己抑制度チェックの点数が7点以上の人は、自己抑制型、つまりは"自分殺し"の否定的な自己イメージスクリプトを持っている可能性が高い。チェック項目の背後に「不安」や「恐怖」などの感情があり、たとえば、「小さい頃に親に叱られて押し入れに閉じ込められたが、母は助けてくれなかった」などといったような「見捨てられる恐れ」や「自己否定の恐れ」のある嫌悪感情がある。自己抑制型は、自分の親の話は聞いてきたが、自分の話は親に聞いてもらえない記憶が関係している。こうした記憶は、周囲の顔色をうかがう「イイコ」を育てることになる。"自分殺し"は、日本人の特徴とも言える行動特性で、すべての年代において都市部の80%以上、郡部では90%以上が7点という調査結果を得ている。
また、自己抑制度が高くなるほど、やはり高うつ群になりやすく、筆者がこれまで扱ったうつ病患者はまず15点以上である。

この「自己抑制度チェック」というのは、ヘルスカウンセリング(ヘルスコーチング)で用いられる種々の心理テストの1つである。
なんと、この、押し入れに閉じ込められる経験は、多くの人にもあるのだろうか…。宗像は私のことを書いたのではないかと思いドキッとするほどだ。私は幼い頃、それ以外にも、玄関から外に閉め出され、鍵を開けてもらえなかった経験を幾度もしている。泣き叫んで助けを求めてもなんの応答もなく、それこそ不安や恐れで震えていた幼い自分を覚えてはいるが、当時なぜそのような目に遭ったのか、記憶は定かではない。

気づかなければ「自分殺し」をやめられない

ヘルスカウンセリング学会の主催するカウンセラー研修に通い始めた頃、宗像から言われた。「よかったねー、いまこの学びができて。知らないまま10年、この状態が続いていたら、あなたはがんになっていたよ」と。
私が宗像に出会った頃は、能面顔で、喜怒哀楽も上手く出せず、作り笑いが常態化していたように思う。先輩方からは「いつもカッコつけてるよね」なんて言われたが、私にはその意味が理解できなかった。気を許していいヘルスカウンセリングの仲間たちなのに、私は、無意識にその目を気にし、本当の自分を出せずにいたのだろう。
当時の私は、健康増進事業を手掛けて10年、研究部門を創って、人の行動(活動)と健康との関係について追及し、複数の大学や研究機関との共同研究を手掛けていた。
また、傍らでは、大企業の中間管理職として、親から教えられた「人の模範たれ」という行動規範の中で、高校時代に、その窮屈さから親を否定したにも関わらず、ずっと、その枠の中で生きていたということなのだ。


きっと、世の中には、こんな雇われ人もいっぱいいるのだろう。自分の成育歴の中で、知らず知らずに身に着けたサバイバル戦略「自分殺し」の術。あなたは、そうまでしても、この社会で生き残りたいと思うだろうか。行く末は、生活習慣病まっしぐらだということを、心に留め置いてほしい。
いまの現代医学で、そこに立ち向かうのは、大火事にバケツの水をかけているがごとし。病気になってからでは大変なんですよね。

いや、それよりも、首都東京のロックダウンが迫りくるこのいま、多くの日本人は免疫力を落としてしまってはいないだろうか。


最後に、宗像恒次著「SAT療法」P.119から引用しておく。

図4-19 ストレス反応と疾患のチャート

ストレス記憶はストレス環境に刺激されて悪性ストレスになる。悪性ストレスは副腎皮質ホルモンを分泌させて免疫力を低下させ、感染源があれば感染症を引き起こし…

自分殺しによるストレスは、新型コロナウィルスに感染するリスクを上げてしまっているかもしれません。


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