
連続起業家がアメリカで1.2億人の糖尿病患者向けの食品を創る理由
この度、新しいチャレンジをするに当たって、前回創業した企業をKDDIに売却してから、米国で新しい事業を始めるまでの約3年半の出来事をまとめました。多くが今振り返るともどかしく、四苦八苦した日々の記録ですが、この経験が誰かの役に立てれば嬉しいです。
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僕はこの先何がやりたいんだろう?
アドテクノロジーを使った不正な広告取引の検証という自分の中では大義があると思える会社を、創業から3年でKDDIグループに売却したのが2017年でした。
このM&Aを経て、KDDIのアセットを活用して強固な顧客基盤を形成し、後任のCEOを育成するという2つの役割を果たしたあとに何か新しいチャレンジがしたいなと漠然と考えていました。
今まで無我夢中でやってきた会社の「次」を始めて意識したときに、「僕はこの先何がやりたいんだろう?」というシンプルな疑問が浮かびました。
起業家として創業して3年で自分の会社を大きな会社に売却することができた経験はありがたいものでしたが、その一方で次はより長い時間をかけて大きな課題を解決したいという欲望を感じました。
そして実はこの時にすでに解決したい課題はすぐそばにありました。それはとても個人的な経験を遡るなかで見つかった課題です。
妻の死
僕は過去に前妻を癌で亡くしています。前妻の癌は見つかった時にはすでに後期のステージで、また前妻の年齢が若いこともあって進行のスピードが早いものでした。
外科治療で完全に切除することができず、抗がん剤治療をおこなったものの根治は難しいと医師から言われている状況でした。僕たちは必然的に医療以外の治療方法に目を向けることになり、抗がん剤治療とともに食事療法を行っていました。妻の健康を維持するのに必要な栄養を日々文献をもとに調べ、最適な食事を用意する日々を送っていました。同時に、栄養バランスを気にして献立を組み立て、買い物をし、料理を作るということがどれほど大変かということを身をもって感じました。
この時に、特定の疾患を持つ人が食事療法を継続的に続けることの大変さと、一方で食事療法により多くの患者が手軽にアクセスできるようになれば大きな健康価値をもたらすことができるのではないか、という思いが頭に強く刻み込まれました。
とはいえ、妻の死への落胆やそれでも自分のやっているビジネスを成功させなくてはいけないプレッシャーなどで当時はその思いに目を向ける時間はありませんでした。
それが時を経て、「僕はこの先何がやりたいんだろう?」という疑問とつながりました。
じゃあ何を作ればいいんだろう?
自分の強みはモノ作りだと思っていたので、何か新しい食品プロダクトをつくって人々の健康に貢献できるのではないかと感じました。
あまりにも自分がやっていた領域とかけ離れていたので、それからずいぶんと決心がつかずにいました。合理的に考えれば今までと親和性のあるアドテクや、少なくともテックを中心としたB2Bビジネスの方が成功確率は高いだろうという考えがなんども押し留めました。
しかしこのとき既に僕の中では、
食事療法により多くの患者が手軽にアクセスできるようにするというミッションが強く芽生えていました。
そして、気がつけばいろいろな産地を巡って食材を探しを始めていました。
そしてインスピレーションが湧いたのが石川で漁船に乗せてもらった時に定置網を引き上げている時でした。海藻がかかっては不要のものとして打ち捨てられていました。そしてその漁の帰り際に、道の駅に寄った時に見知らぬ様々な海藻が食材として並んでいることに気がつきました。
海藻という資源の多様性と、未だ活用されていない様を目の当たりにし、何かここに機会があるのではと思いリサーチを始めました。
海藻の持つ栄養素の中で、特定の慢性疾患の患者に価値があり、かつ短期的に効果の実証ができる健康価値がないかをリサーチしていたところ、カナダの大学のリサーチで、海藻に含まれるポリフェノール、アルギン酸、フコキサンチンの成分が血糖値のコントロールに優位に価値がみられたというものが見つかりました。このデータから高血糖が課題になる糖尿病の方には健康価値があるのではないかと仮説がたちました。
参考:https://www.magispharma.it/media/gdue/download/it/15531554685c93458c3ca26.pdf
さまざまな食材の探索を経て、「糖尿病の方に向けて血糖値コントロールを手軽に実現できる商品を作る」というコンセプトがようやく見つかりました。実はこの時点ですでに約1年ほどの月日が経っていました。
そこから手探りながらブランドと商品を作り始めました。
また、日本を初期のマーケットにせずに、ボーン・グローバルで戦うことができるアメリカから商品の提供を開始しようと決めていたのでアメリカ x D2C x 食品製造 など多くの領域を必死で学びながら開発を進めていきました。
アメリカのマーケットの大きな可能性は、下記の2つです。
1. 糖尿病大国であること(人口の1/3=1億人以上が糖尿病 or 糖尿病予備軍)
2. 新規性の高い商品が普及するスピードが早く、普及した時に規模が圧倒的であること
まだ商品も何もないときに「糖尿病向けの新しい食品をアメリカ向けに作っています」というと、「へー、意外なことやるんだね。」で話が終わってしまう感じで、商品のコンセプトしかない状態なのでこちらもそれ以上の熱量で話すことができずに、とにかくもどかしくて情けない気持ちでした。とにかくまずは商品で語れるようになりたいと思いました。前職でやってきたように小規模にプロダクトをローンチし、ユーザーテストを行って商品を改良するイテレーションを回していくために、アメリカでテストできる商品を開発することにしました。
商品開発の苦闘
パウダー飲料であれば、製造コストが安くレシピ作りも複雑でなく簡単にできるとベンダーからアドバイスを受け、海藻パウダーと抹茶や、ターメリック、生姜などの健康価値の高い原材料を混合させてミルクなどに溶かして飲めるパウダー飲料を作ることにしました。
実際にはまったく簡単ではなく、物作りは想定以上に時間と労力ががかかることを痛感することになりました。
全く土地勘のない中での原料探し、輸出まわりの手続き、FDAのパッケージレギュレーション、食品製造、全てが未知でとにかく人に聞いて回って得た情報を調べてなんとかやるべきことが見えてくるというのを繰り返していました。次のステップが見えない中で、いったいいつ商品が完成するんだろうと胃がキリキリする日々でした。
そしてようやく、半年ほどすぎた頃最初の商品とブランドをテストローンチすることができました。
Teatisというブランド名の由来は、ギリシャ神話の女神Thetisからきています(英語で発音しやすいように綴りを変更しました)。Thetisは海の女神であり、かつ神々を苦難から救った救済者として描かれています。うちのブランドは、糖尿病の方を苦難から救う救済者たりたい、かつ海藻の原料を利用しているので、海のイメージを含めたかったので、それらのイメージが一致してこのブランド名を付けました。
カスタマーからのフィードバック
この商品の提供を通してカスタマーにインタビューした結果として、下記の当初想定していた仮説が正しいことがわかりました。
1. 医療ではなく食事で健康を維持したい
2. 健康にいい食事を自分で毎日用意するのは手間がかかりすぎるし、十分な調理スキルを持っていないケースもある
調べると、2.については一般的な成人の糖尿病2型の人が食事でセルフケアするには平均一日2.5時間ほどかかるという論文もありました。この時間には献立を作り、買い物をし、調理する時間などが含まれます。
参考:https://spectrum.diabetesjournals.org/content/31/3/267
一方で、商品に対してのネガティブなフィードバックで一番多かったものは味が飲みにくいというものでした。
砂糖などは全く加えずにナチュラルで体に良い原料だけ作っていたのですが、「まずい、もういっぱい」の青汁理論は今ターゲットにしているカスタマーには当てはまらないことを学びました。
ただし血糖値が下がるのを実感したというフィードバックは多く、商品評価も4/5以上でした。(まずい、飲めない。商品評価 1/5みたいなものもある中ですので、血糖値が下がるのを実感した人は高い評価をしてくれていました)
なかでも、Willさんというテキサスに住んでいる糖尿病2型のカスタマーの方が、このように言ってくださったことが嬉しく商品の方向性は合っているのではないかと感じさせてくれました。
"この商品を飲むようになってから、今まで気になっていた午前中の血糖値の高さが大きく軽減しました。毎年私の誕生日には、孫がケーキを持ってお祝いに来てくれるんだけど、今までケーキを食べることでさらに血糖値が高まるのが怖くて心からは楽しめなかったわ。でも今年はこの商品を朝飲んでいたので心から楽しむことができたのよ。"
(Willさんはうちのカスタマーボイスとしてビデオも送ってくれました)
また、商品を山口の診療所の院長の方が院内で試して血糖値の変化をモニターしたデータを提供してくれました。食後30分後の血糖値が商品を飲んだ時には優位に下がっているデータを確認することができ、健康価値について自信を持つことができました。
社運をかけた新製品開発のキックオフ
一言で表すと、糖尿病の方に100%最適化されたミールリプレイスメント、というのが僕の目指している新製品の価値です。
この新製品を開発するに至ったのは、下記3点の理由からです。
- 朝の血糖値を下げたいというニーズを持った方が多く、朝ごはん代わりにプロテインシェイクに加えて飲んでいるユースケースを発見した
- 糖尿病の方に最適化されたミールリプレイスメントの商品がない
栄養構成の点で既存のミールリプレイスメントの製品は、多くの糖質(加糖)、炭水化物が含まれており、糖尿病の人に向くものではありませんし、血糖値ケアという価値を狙っている既存商品も存在しませんでした。
- より美味しい商品をつくる = チョコレート味のシェイク
ミールリプレイスメントの糖尿病の方向けの潜在的なマーケットはアメリカでは$5B=5000億円程度(全体のミールリプレイスメントのマーケットに対して、糖尿病の人口が1/3なので、1/3を掛けたもので見積もってます)の広大なマーケットがあります。またそれを包含するマーケットしては糖尿病の方向けのマーケットが$300B=30兆円程度あります。(算出の方法は上記と同様のロジックです)
コンセプトが固まり、開発を進行させていきました。商品のパッケージはとにかく多くの人に褒めてもらえる自信作です。
味については、糖分ゼロでありながら美味しいものにしたいと思い、何回も試作を重ねました。完成間近のプロトタイプをカスタマーに送って試してもらったところ、下記のようなフィードバックをもらい一安心しました。
"最後にチョコレート味の飲み物はいつだったか思い出せないけど、これはちょうどいい甘さでチョコレートのテイストがとてもよかった!一番驚いたのは、朝これを飲んだ後、昼ごはんまでしっかりと満足感が続いて間食を全くしたくならなかったこと!発売が楽しみ!"
また、ほぼコンセプトしかない状態の時点で、バルクオムCEOの野口さんや、ママリの元CTOの島田さんやメルカリUSのファイナンス責任者の内田さん、Momentumの共同創業者・初期エンジェルの大久保、木村くん、松隈さんなど、エンジェル兼D2C全般(マーケティング)・テック・ファイナンスという強力な武器を持っている方々がエンジェルとして入ってくれました。
これが当時のPitch Deck第一号です。
(公開しますのでよかったらみてみてください)
新製品のローンチ
そして話は現在となり、今日から商品のプレオーダーを開始しました。
僕はこれから長い歳月をかけて、"A Tasty Habit For People With Diabetes" というミッションを実現することを通して、世界規模の食品ブランドを作ることを目指しています。
最後に
イグジットを経験した連続起業家が再度起業するときに、「強くてニューゲーム」と表現されることがスタートアップ界隈ではあると思いますが、自分は全く強くなってないなと長いこと感じていました。ですが改めて過去の自分と今の自分を見比べてみると、課題の解決に対しての筋道をより長期的なスパンで考えられていると感じました。
課題解決の時間軸を長く捉えられる。今まで5年だったものさしが、20年のものさしに伸びる。その変化が「強くて」の源泉になる
のかもしれない、そうであることを証明したいと今は思っています。
そのためにも、食事療法により多くの患者が手軽にアクセスできるようにすることで、糖尿病の課題をグローバルに解決していきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
冒頭にも書いた通り、このブログに共感してくださった方とお話ししたいです。どうかお気軽にFacebook のDMか、tak@teatismeal.comまでご連絡ください。
また、今年の末ごろにシードラウンドを開始する予定ですので、スタートアップ投資に携わっている方で興味があるという方がいらっしゃいましたら是非ご連絡いただきたいです。事業の壁打ちから先んじてお話しを進めさせていただきたいなと思います。
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