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地方で不妊治療に挑む夫婦をAIの力で支えたい【RING HIROSHIMA】

「仕事との両立が難しい」「普通の生活が送れない」。不妊治療、特に体外受精などの高度治療を経験したことがある人なら、誰もがうなずく悩みではないだろうか。不妊治療は、とにかく患者の負担が大きい。なかでも、通院回数の多さはハードルの一つ。いざ治療が始まると、体外受精を行うその日まで週何回も通院することになる。しかも全国に618カ所ある体外受精が受けられる医療施設のうち、320施設は関東1都3県に集中。広島県でもその多くは広島市はじめ都市部にあり、中山間地域など遠方に住む人は通うだけでも一苦労。地方になればなるほど患者の負担は大きくなる。そんな地域医療の課題を解決するためエントリーしたのが、今回のチャレンジャーだ。

CHALLENGER「vivola株式会社」市川友希さん

長期化しやすい不妊治療。
ハードな通院負荷を少しでも軽くできれば…

例えば離島に住まれている方だと、都会の病院の近くにホテルを借りて、採卵期間中はずっとホテルにステイする…なんてこともあるんです。弊社で取ったアンケートによると、不妊治療の通院期間は平均2年。それだけの期間、心身ともにハードで、さらにお金の負担も大きい暮らしをすることになるんです。

そう話すのは、今回「不妊治療における通院負担を軽減するための病病連携システムスキームの構築」をテーマにエントリーした、「vivola株式会社」の市川友希さん。vivolaは、AI解析で不妊治療患者一人一人に適した医療情報を届けるなど、妊娠を望む夫婦に寄りそうサービスを開発・提供するスタートアップ企業だ。

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(不妊治療中、本人のデータと近い不妊治療成功者がどんな治療を受けたかが分かる「cocoromi」は2020年サービス・イン)

市川さんが、今回vivolaの担当者として挑戦中なのが、体外受精などの特定不妊治療ができる生殖医療専門医と、各市町にある一般的な婦人科病院、そして不妊治療中の患者を結ぶシステム「vivola online(仮)」の仕組み作りだ。体外受精を行う際は、エコーや血液検査、注射などのために、当日まで頻繁な通院が必要になる。しかし、実はこれらの通院の大半は、婦人科でも対応可能。治療の一部を、患者の地域の婦人科医と連携できれば、不妊治療中の通院負荷が大幅に軽減されることになる。

202101_vivola事業紹介

(今回の挑戦で実現したい「vivola online(仮)」のイメージ図)

「これまでヒアリングした中では、通院に片道3時間、診察と待ち時間で2時間かかる、という患者さんもいらっしゃいました。広島県でも、広島市内の病院に三次市や県外から通われる方もいると伺っています。なるべく患者さんの通院負担が減るような、システムやスキームを開発したいところです。」と市川さん。現在は、このシステムのPoC(概念実証)に協力してくれる医療施設を探している。

SECOND 松本雄真さん

周囲の声から感じた不妊治療の課題
本業での強みも生かし並走していく

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もともと、本業の弁護士のほうで医療系スタートアップ企業の顧問をしていて、自分の強みが生かせるなと思ったことが一つ。もう一つ、周囲にも不妊治療に取り組んでいる知人が増えてきており…。いろいろ話を聞くなかで、もっと不妊治療の利便性が高まるといいなとずっと思っていました。知人たちを見ていても、まさに通院の負荷、そこの課題は大きいです。

今回、市川さんのセコンドに就任したのが、東京大学卒の弁護士、松本雄真さん。チャレンジャーとセコンドのマッチングにあたり、この取り組みを第一希望にしていたという。身近な人に当事者がいるかどうかで、不妊治療への理解度は各段に上がる。

さらに松本さんは広島出身で、お父さんは医師。その人脈を生かして医師や病院の情報を提供するなど、広島の人脈や土地勘がないチャレンジャーにとってありがたい存在だ。今後、具体的に病院との連携が始まれば、法的観点でのアドバイスやレギュレーションの確認なども行っていく。

FIGHT SCHEDULE

2021.11 START!地元医師へのヒアリング
2021.12 課題の抽出①行政との連携②広い呼びかけ③広島の市場調査
2022.01 ①~③解決のための準備期間 ←NOW
2022.02 解決に向けたアクション

「2月の実証期間終了までに、PoCにご協力いただける医療施設を見つけたいと思っています。最初はご関心をいただけそうな先生に個別で相談しようとしていたんですが、もっと行政を巻き込んだり、より多く幅広い病院にアプローチして取り組みを知っていただいたり、広島の患者さんに特化して事情を把握することが必要だと感じました。」と市川さん。現在は、広島県の協力を得て広島の婦人科医・不妊治療医にプレゼンをするための準備を行っている。また、広島県内68の病院を対象に、不妊治療を受けている人へのアンケートも準備中だ。

「実は、県の担当者の皆さんのフットワークの軽さや温度感の高さに驚いています。こんなに動いていただけるんだって、本当にありがたくて。午前中にご相談したことが午後にはアポイントが取れていたり…。まるでスタートアップ企業みたいなスピード感なんです。」と市川さん。こうした連携が取りやすいのも、県の事業であるRING HIROSHIMAの強みと言えるだろう。市川さんは助成金の額以上に、行政の協力の厚さに価値を感じている。

TALK ABOUT “RING HIROSHIMA”

1対1で深くコミュニケーションが取れるセコンド制
欲を言えばもっと期間が欲しい…笑

二人が口を揃えるのは、「行政でこういう取り組みは珍しい」ということ。vivolaでは他地域の自治体や民間企業との取り組みも行っているが、今回のように1対1の「セコンド」がつき、細やかに並走することはあまりないという。「vivolaって、実は社員が3人なんです。少ない人数でやってると、どんどん視野が狭くなったり、これが正しいと思って進めていると、正しい気になっちゃう…みたいなところがあって。松本さんから貰えるフラットなアドバイスに助けられたり、仮説を変更する勇気をもらったりしています。」と市川さん。

古巣の東京大学でもさまざまなスタートアップ企業にメンターとしてアドバイスしてきた松本さんは、「専属的にセコンドをつけるっていうのが面白いですよね。これまではいろいろなプレイヤーの相談を並行して受けることが多かったので、ここまで一つの会社の取り組みを深く知ってサポートするってことはなかったです。」という。

最後に、RING HIROSHIMAへの不満があれば教えてほしいというと、二人とも「あえて言うなら期間が短いこと」だという。細かい調整などから入っていくと、実証期間の3カ月で目標を達成するのはなかなか難しい。「でも、いいことのほうが圧倒的に多いです!セコンドの人も、行政の方も、私たちと同じ目線で走ってくれるのが凄く嬉しいですね。」と市川さん。RING HIROSHIMAの期間が終了する2月までにパートナーとなる広島の医療機関を探し出し、実証実験を経て年内にサービス・インするという目標に向け、走り続ける。もちろん松本さんも、最後まで並走する覚悟だ。

EDITORS VOICE 取材を終えて

コロナ下でのスタートで、お二人は実際に会ったことあるのかな?とお聞きしてみたところ、実はこの取材の後、初めてリアルでランチをするのだとか。関係の良さを感じられる和やかな取材で、チャレンジャーとセコンドとしての繋がりが終わっても、続いていく何かを感じられる90分でした。
最後に、広島で不妊治療に取り組む医師の皆さん、ぜひvivolaの取り組みにご協力を!実は私も不妊治療の経験者で、不妊治療の通院回数の多さや待ち時間の長さは本当に負担でした。もし、この記事を読まれている方で、通院中にアンケートに出会った患者さんは、ぜひ書いて答えてあげてほしいです。どうぞよろしくお願いします。

(Text by 山根尚子)

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