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香港と台湾の今後 2019/9/9

香港と台湾の今後について
                           福光 寛
 香港の観光客の78%が中国本土(2018年)。その数は年5100万で香港人口740万を圧倒。1997年の返還後、中国本土から香港に移り住んだ人は累計で100万。その影響もあり、不動産価格が上昇。普通語教育が広がる。つまり中国化が進んでいる。他方で、中国経済の成長により中国GDPに占める香港の比率は18.4%(1997年)から2.7%(2018年)に低下。香港は中国政府に対して、その経済力を理由にして、独自性を主張することが難しくなっている(写真は心光寺の石仏。向かって左側に元禄十三年1700年、また右側に宝永二年1705年の文字が読み取れる)。

 こうしたなか香港政府は2016年以降 民主派の議員の資格停止・民主派の政党の活動停止に踏み込み、中国政府の意向に従う姿勢を明確にしている(香港独立党の活動禁止命令、香港衆志幹部の立法会選挙出馬を認めない=基本法に反するとして立候補の資格取り消しなどが相次いだ)。そこで香港独立派は潜伏して活動を強化しているとされる。
 こうした対立と緊張の中で生じたのが、香港政府による逃亡犯条例制定の提起だった(2019年2月)=刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡す内容。
 6月 この条例への反対は大規模デモに発展した ⇒2019年9月4日 林鄭行政長官がついに撤回を言明(2003年に国家安全条例をめぐる反対運動で同様に制定断念に至った前例がある) ⇒ 2015年にすでに中国共産党に批判的な書籍を販売する書店店主などが中国公安当局に不当に拉致拘禁された前例がある。

 この間中国政府は情報操作 ⇒ ツイッター フェイスブックなどSNS上で不正アカウントを使って偽の情報を書き込みをしたとされる。また香港では親中派を動員して集会やデモを行わせ、中国本土で事業する企業に圧力をかけて中国支持を誓わせるなどの行為をし、そのことがまた反感を生んだ。⇒ 結果として中国に言いなりの行政長官への信頼が著しく低下した。中国政府からみても、香港の情勢を正確に中国政府に報告せず、つまり香港の民意を代弁できず、また香港の民意を得られない林鄭行政長官を罷免し、香港の民意を代表できる香港政府を得た方が得策ではないだろうか。

 民主派の五大要求
〇警察の暴力行為を調べる独立委員会の設置 ⇒警察(中国本土から警察官が入っている、人民解放軍出身者が混じっているなどの情報あり)による暴力が日常化している。
〇逃亡犯条例改正案の完全撤回
〇逮捕者の訴追見送り
〇デモを暴動とした政府見解の取消
〇普通選挙の導入:一人1票など普通選挙導入要求(2014年の雨傘運動(大規模デモは79日続いたが今回はそれを上回っている)でもテーマ)

 香港の中で、中国本土からの客を敵視する雰囲気も。中国本土客の減少は、ホテル宿泊客の減少、飲食店、宝飾品、化粧品の売り上げ減少につながっている。
 香港の状況が今後安定しないと、投資家がシンガポールなどに拠点を移すリスク。住民が台湾、シンガポールなどに流出するリスクが高まる。いずれにせよ、香港の経済的地位がさらに落ち込んだり、香港の景気が悪化することが考えられる。
 当面、香港政府が緊急状況規則条例を使って、立法会の同意なしに集会や通信の制限に踏み込む可能性もある。中国政府は建国70周年を迎える10月1日までに落ち着かせようと焦っている。そこで心配されているのは深圳に集結した人民武装警察投入の可能性。また香港には人民解放軍約6000人が駐留しており、これが動く可能性もある。しかし仮にそうしたことが起きれば、香港は国際都市としての位置を失うだけでなく、中国が実際の行為によって武力によって自身の国民を弾圧したことになり、先進国としては到底認められない非民主主義=独裁国家だと断定されることになり、中国が国際的に長期間孤立化することは間違いない。
 それだけでなく、当面の2020年1月の台湾総統選に決定的な影響を与えるだろう。それゆえに中国政府がこうした強硬策には踏み切らない(自制することが)と期待されている。
 他方でなお香港政府が中国政府寄りの強硬策を続けることも予想される。11月区議会選挙でも民主派の資格取り消しなどが生ずる可能性がある。取りうる選択肢の幅は狭い。
 子供や隣人、同僚そうした本来は信頼すべき関係に政治が持ち込まれ、親や隣人、同僚を告発し落とし込めるといった関係が、かつての中国では繰り返された。そうした不信に満ちた社会では、自由な言論活動は不可能だ。大きな大原則、自由な言論、思想、出版、集会、結社の自由などが、すでに香港では脅かされている。基本法を根拠に、香港の独立を掲げる結社を禁止したことは、その手始めに見える。思想の自由といったときに、それはそうした思想を自由に発言し、広げようとする自由(集会や出版など)まで含むというようには、中国政府は考えていないのではないか。思想の自由を個人の内面に限る考え方は、共産党の党内民主の考え方として出てくる。多数意見に対して、異論があった場合、それを保持してよいが、あくまでそれを内面にとどめ、その発言は下から上に上申するだけで、その普及活動などをしてはならない、というもの。対外的には、多数意見で決まったことに従えというものである。おそらく中国政府の考える思想の自由は、この党内民主の考え方の延長である。しかし、それは革命党、つまり武装革命をしようとする側が、自分の党を守るために考えられた民主の在り方である。そこで作られた限定的な民主主義の考え方を、社会全体に広げようとするところにそもそも無理がある。ただ中国は今、そうした限られた思想の自由、限定的な民主主義の考え方を香港に強制しようとしているように見える。

 並行して進む台湾情勢を確認しておこう。
 2019年6月13日 台湾の与党民進党は2020年1月の総統選の候補者として蔡英文氏(2016年5月から政権 年金改革や労働者寄りの雇用規制で保守層から反発)を選出。民進党内ではより中国に強硬な頼清徳氏よりは、独立に慎重な蔡氏が支持された。これに対して対中国融和路線をとる国民党は、鴻海精密工業創業者の郭台銘(テリーゴウ)氏ではなく、より人気の高い高雄市長韓国瑜氏を候補者に選出している(7月15日)。外省人ながら庶民層の支持が熱いとのこと。逆に郭氏は成功者であること、資金力に物を言わせた手法が一般庶民の反感を買ったとされる。ただ国民党の候補者となった韓氏の対中国のスタンス、民主主義に対するスタンスは曖昧である。
 この総統選に絡んで、香港で中国が人民武装警察の投入など強硬策に動けば短期的に香港を収束できても、台湾国内の対中国懸念を拡大し、対中国の態度があいまいな韓氏には不利に、明確に民主主義を掲げる蔡氏に有利に働くとの観測がもっぱらである。

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