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ビッグバン Big Bang

 W.A.Thomas, The  Securities Market, Philip Allan: 1989.  これはわずか2年後に、飯田隆、稲富信博、小林襄治共訳「イギリスの証券市場」東洋経済新報社1991年という翻訳がでている。この短期間での出版の背景にあったのは、ビッグバンとよばれる証券市場改革への日本社会の高い関心である。ここではトーマスの記述を頼りにそのビッグバンについてまとめてみる。

 1986年10月のイギリスの証券市場改革=ビッグバンとは何だったのか。1979年2月、 公正取引庁長官が、制限的慣行審判所に取引所の規則集を提出する(翻訳は告訴する)意向を示したことが契機だとトーマスはいう。その直後に、大蔵大臣が外国為替について金融統制の廃止を宣言したことも重要だという。
 (この1979年2月の出来事で、取引所は現行規則を見直すかどうかの判断を迫られる一方、為替管理からの解放は、国際的な証券市場でロンドンのシェアを回復する機会であった。そしてこの二つの問題は絡み合っていたようだ。つまりロンドンの失地回復には市場改革が必要であった。)
  公正取引庁から問題にされた慣行practicesは主としては三つ。一つはブローカーによる最低手数料率の効力。一つはジョバー(jobberとは取引所の中で売り買いの値段を提示する、つまりmarket makerの役割をする人のこと。brokerとは顧客の注文を取引所につなぐ役割をする人のこと。)とブローカーの機能を完全な分離(両者が分離されている場合、つまり単一資格制の場合、brokerに対して取引所で対面するのがjobberである。単一資格制は顧客とbrokerの間の利益相反を防止する点で優れているが、jobberが資本を十分もっていないと、取引金額の拡大に対応できない問題がある。他方、両者が分離されていない場合、brokerが顧客の注文に自身のポジションで売り買いすることも事実上認めていることになる)。そして問題にされた三つ目の慣行とは、外部の機関が取引所市場に参入する際の障壁であった。
   1912年に導入された最低手数料制minimum commissionsについては、競争が行われている場合に比べて割高ではないか。業者は費用削減動機を持たず非効率な業者が生き残る結果になっている。価格競争は取引コストの削減や効率の改善に役立つと主張された。
 1908年に導入された単一資格制については、ブローカーとジョバーが機能を分担することで、利益相反の防止につながるとされ、連続した価格の提示、価格の安定にジョバーの役割を賞賛する意見があった。しかし明らかな問題の一つはジョバーの資本不足にあった。機関投資家の増加とともにジョバーの利幅は薄くなり、ジョバーのとる手数料が嫌われるようになった。手数料の減少の圧力はブローカーでも起きた。業務を維持するため、ブローカーはポジションをとるようになり、他方でジョバーは投資家と直接接触の機会をもとめるようになる。つまり手数料が自由化されれば、ブローカー,ジョバーの双方が二重資格制を求めることになる。1984年の春、取引所はこの問題を討議し、NASDAQ(全米証券業協会自動気配伝達制度)をモデルにした競争マーケットメーカー制度を導入することになった。そしてこれはSEAQ(証券取引所自動気配伝達制度)の開発導入につながった。
 参入制限は一つには取引所を個人会員の連合体としていることにあり、これは企業firmsや金融機関の排除につながり、結果として、利用しうる資本の量を制限し、投資家へのサービスの拡大を妨げていた。
 すでにジョバーやブローカーの資本不足は明らかだった。そこでジョバーについてはまずジョバー同士の合併が進んだ。1970年の100から1984年には12にまで減少。また外部の資本参加の許容も徐々に進んだ。1969年には外部機関は会員の資本金の最大10%までを所有できるとされ。1982年には有限会社会員の資本金の29.9%まで外部金融機関の資本参加は拡大された。1986年3月1日(リトルバン)。ついに外部の金融機関が会員業者を100%支配することが認められた。さまざまな業者間の提携は1986年5月までに70を数えたが、ビッグバン後の2-3ケ月でその数を100を上回るようになった。
 では1986年10月27日のビッグバンでは正確には何が起きたのだろうか。一般には、最低手数料制の完全な廃止、単一資格制の廃止、外部資本の参加の容認(会員業者の買収の容認、銀行等の会員権取得)、そして立会場central floorからコンピュータ画面をベースとするディーリングシステムSEAQ(マーケットメーカー制の売買システム)への移行をあげる。
 トーマスは、この改革は、1983年7月 証券取引所理事長と産業貿易大臣が最低手数料制の廃止と市場への新規参入自由の拡大で合意accordとしたことから次第に広がったものだとしている。

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