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譚璐美『中国共産党を作った13人』2010

新潮新書であるが、あなどれない本である。舌を巻いたのは綿密な取材だが、そのあとをこの本の中では自然にたどれるのがいい。どのような典拠に寄っているかがかなりしっかり書き込まれている。これは本書のよい点だ。取り上げている人物は、党を作った13人にとどまらない。日本との関係に注目するので、たとえば周恩来が日本に留学したときの顛末も書かれている(写真は吉祥寺経蔵の木彫(部分)である。経蔵は文化元年1804年の再建とされる。)。

13人のなかでも、李漢俊、張国燾、陳独秀、李達、周佛海などについては、記述が少し詳しい。著者があたまのところで述べているように、これだけ、党の創建に関わった人と日本との関係があるのだから、そこに日本で素材を掘り出す余地があるということは良くわかる。著者はそれを丹念に調べて、その長年の成果を本書にまとめている。巻末の参考文献も大変参考になる。

党の立ち上げにおけるコミンテルンの役割。これもよく指摘される点だが丁寧に説明されている。終わりに近いところでいわゆるコミンテルンの援助をうけるため孫文が共産党を国民党に抱え込んだ問題、AB団粛清の問題がややあわただしく書かれている。

最初の孫文の判断の問題は、それが共産党の勢力の急拡大を生み、蒋介石の反共軍事クーデターを導いたとしている。そして他方、陳独秀についてはコミンテルンは自らの戦略の失敗の責任を陳独秀一人に押し付けて、書記から放逐したとする。

AB団粛清問題については、党中央と毛沢東との間の主導権争いに加えて、毛沢東の紅軍司令部と、江西省地方党指導部との対立が絡み合っていたとしている。結果として、まったく無実だった同志を多数殺害することが生じた。猜疑心からであるし、恐怖で人を支配しようとしたのかもしれない。いろいろな人がすでにとりあげているが、疑ったらともかく拷問、自白するまで拷問して、あとは殺戮という話は人権のかけらもないことが何度読んでも痛ましい。

#譚璐美 #諏訪山吉祥寺 #陳独秀   #AB団

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