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中国思想・短編小説・歌曲選

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https://blog.goo.ne.jp/fu12345/e/7cc5e1ad373775c11668b88a748c64a6 中国的な考え方を知る手がかりを探しています。
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2019年5月の記事一覧

麦家「日本佬」『人民文学』2015年第3期

麦家(マイ・チアー 本名は蔣本滸 チアン・ベンシュー 1964- 17年ほどの従軍経験あり。浙江省杭州市富陽の人。2013年より浙江省作家協会主席。)の短編小説。《2015年中國短篇小説精選》長江文藝出版社,2016年,55-76 原载《人民文学》第3期。  私の父には「日本野郎(日本佬)」という綽名がある。15歳のとき、日本軍に徴発されて担ぎ人(挑夫)として数日働き、村に帰ってから何かにつけて、日本語を口にしたのでこの綽名がついた。ただ背が高くないのに、元気がよく、あ

陶麗群《母親的島》2015

《2015年中國短篇小説精選》長江文藝出版社,2016年,207-222 著者の陶丽群タオ・リーチュンは広西田陽県出身。1979年生まれの女性である。壮族。少数民族作家である。このお話のどこか、夢を見ているような感覚は、少数民族の生活からきていることかもしれない。  お話としては創作だが。読んだあと、とても不思議な感覚が残る。  五十嵗的母親做出一個決定。 “我要出去住一陣子。”  私の母の家出の物語だ。農家で10人家族である。父、兄が3人、兄嫁が二人。その子供たちが

朱山坡「天色已晚」『朔方』2014年第2期

 2014中國短篇小説排行榜 百花洲文藝出版社 2015,pp.104-110(『朔方』2014年第2期原載) 著者の朱山坡チュー・シャンポー 1973- は南京大学中文系卒 広西省玉林市在住の作家である。食糧難の時代に肉を買ったことにまつわる思い出は、多くの中国人にとって強烈だったようで例えば以下の記述を参照。  「肉を買う」趙平『私の宝物 泣き虫少年のあの日の中国』連合出版2017年1月pp.56-76 この短編は「僕は3ケ月17日肉を食べていない。僕の3人

春蠶到死絲方盡-畢飛宇「虛擬」『鐘山』2014年第1期

2014中國短篇小説排行榜 百花洲文藝出版社 2015,pp.1-13(『鐘山』2014年第1期原載) 著者の毕飞宇ビー・フェイユウ は1964年生まれ。出生は江蘇省興化市。揚州師範学院卒。現在は南京大学教授とのこと。  今年の冬は特に寒く、昨年直腸がんの手術をした祖父が春節まで持たないのではないかと、父は言っている。この小説は、中学(日本の高校)の物理の教師であり、長く校長を務めた祖父と孫である私、そして父の、その冬に祖父が亡くなるまでの物語である。祖父は朝早くから夜遅

阿成「草根飯店」『作家』2013年第5期

 著者は阿成アー・チェン 1948-。『中國當代文學經典必讀 2013短篇小説卷』 百花洲文藝出版社 2014,pp.15-18(『作家』2013年第5期原載)より採録。本当に短い小品である。輕風拂面(軽く風が顔を吹き抜けた)と題したエッセイの中の一つ。  草根はgrass rootsの訳語だろうか、私とこの店の老主人(老闆)と息子である若主人(小老闆)との関係を語っている。いつの時代のことか。私は老父母の家と通りを挟んで向こう側にある、飯店の老主人に、老父母に毎週日曜に二皿

林白「某年的槍聲」『作家』2013年第3期

中國當代文學經典必讀 2013短篇小説卷 百花洲文藝出版社 2014,pp.124-129 (原載『作家』2013年第3期)。 著者の林白リン・パイは1958年生まれ。 1982年に武漢大学図書館系卒業。女性で在学中から詩作を始めた。女性の視点を生かした、女流文学者として知られるが、この短編では女性的な視点はあまり感じられない。  主人公道良は長年故郷に帰らなかったが、久しぶりに故郷に帰りこの1年ほどは住んでいる。2010年の今繁華街(大街)を歩いていると,1945年、唐

畢飛宇「大雨如注」『人民文学』2013年第1期

《2013中國短篇小説排行榜》百花洲文藝出版社,2014,pp.1-17(原載『人民文学』2013年第1期) 著者の毕飞宇ビー・フェイユウ は1964年生まれ。出生は江蘇省興化市。揚州師範学院卒。現在は南京大学教授とのこと。この小説は登場人物一人一人の心の動きをよく描ききっている。  師範大学の菅道工の大姚(ダーヤオ)には、不釣り合いな娘がいる。大姚は娘のことをお前の子じゃないだろう、とからかわれると、怒りもしないで突然変異(轉基因)じゃないの、と答える。中国将棋がで