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『セクハラ』って、どうして無くならないのでしょうね…

【ハラスメント自己防衛マニュアル(19)】

これまでに書いて来たハラスメント対策は、マガジンにまとめていますので、ハラスメント被害に遭っている方は参考にしてください。


今回は、「職場でのセクハラ」について書きたいと思います。


1、『セクハラ防止に関する法律ができたのは、いつ頃でしょう?』

ハラスメント研修の講師をする時、アイスブレークとして、こんな質問をすることがあります。「三択ですよ。①3年くらい前、②10年くらい前、③20年くらい前。さあ、どれでしょう?」 

参加された方々の多くが、「②10年前」を選びます。でも、正解は「③20年くらい前」です。 平成9年に「男女雇用機会均等法」 が改正され、 女性労働者に対するセクハラ防止について、事業主に雇用管理上の配慮義務が 規定されました。

20年以上前から法律を作ってセクハラ防止に取り組んでいるのに、いまだに被害はなくなりません。「職場におけるセクハラ」は、簡単には解決できない問題なのです。

2、セクハラはなぜなくならないのか?

セクハラは、人間が持っている「本能的な感情や欲求」から生まれます。そして、その「本能的な感情や欲求」が湧き出してくること自体は、生きている限り止めることはできません。ですので、対策が難しいのです。

セクハラを防止するには、勝手に湧き出してくる「本能的な感情や欲求」を、その都度、理性の力でコントロールすることが必要となりますが、お酒を飲んで理性の力が弱くなってしまった時などに、問題が起こるのです。

「セクハラ」と似ている事例として、お話しすることが多いのが「飲酒運転」です。飲酒も本能的な欲求なので、暑い日に冷えたビールを見ると、「飲みたい」という欲求が湧き出してくることを止めることはできません。

出てきてしまった欲求を「今は運転中だから、水で我慢しよう」と理性で押さえ込むのですが、理性の力が弱くなっているときには、その欲求をコントロールできなくなってしまうのです。

そのため、法律ができても、企業が社員研修を何回実施しても、「飲酒運転」も「セクハラ」も、完全に防止することができません。(法律が厳しくなってから、件数は減ってますけどね。)

飲酒運転は、ついつい飲んでしまった「1杯のビール」から正常な運転ができなくなるまで飲んでしまい、さらには、運転をあきらめるという判断もできなくなってしまうことで発生します。「セクハラ」の事例が、職場の飲み会やその帰り道で発生しやすいのも、偶然ではありません。アルコールは人の理性の力を奪ってしまいますから、いったん酔ってしまったら、理性の力で、自分の「本能的な感情や欲求」を止めることができないと考えて置くべきでしょう。

3、防止措置が求められる「職場におけるセクシャルハラスメント」の定義をご存知ですか?

事業主に法律上の防止措置義務がある「職場におけるセクシャルハラスメント」は、以下の通り定義されています。

職場におけるセクシュアルハラスメントは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることです。

職場におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれます。また、勤務時間外の「宴会」などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当します。

「職場におけるセクシュアルハラスメント」には、「環境型」と「対価型」の2種類があります。

(1)環境型

労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。
<典型的な例>
①同僚が職場内において、労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
②事務所内にヌードポスターを掲示しているため、その労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。

(2)対価型

労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。

<典型的な例>
①事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇したり、その労働者について不利益な配置転換をすること。
②営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格すること。

法律上は「職場におけるセクハラ」ということで、「同じ法律の枠組み」で企業に防止義務を求めていますが、「ハラスメント」の種類として考えると、全く性質が違っているので、対処方法は異なってきます。

次に、「環境型」「対価型」のそれぞれのハラスメントの違いを抑えながら、自己防衛策について考えてみたいと思います。

4、「環境型」への自己防衛策

環境型は、文字通り、「(職場で働く人々を含めた)環境」が「人」に対してハラスメントをしている状態です。ですので、「特定の行為者」に対する対策だけではなく、「(職場で働く人々を含めた)環境」全体へに対策が必要となります。

(1)環境型のハラスメントが発生する原因は、大きく2つです。

一つ目は、職場のルールを、多くの場合、男性側からの目線だけで決めてしまっていることです。男性ばかりの職場では、職場ルールに女性の意見が反映されませんので、男性の都合の良いルールで物事が決まることとなります。最近では、さすがにヌードポスターを掲示している職場はないと思いますが、水着の女性のカレンダーを掲示している職場あるかもしれませんね。

女性の社会進出が進み、最近では女性と男性の管理職比率が同じくらいの職場も増えていますが、そうした職場では、環境型のセクハラは起こりにくくなってきます。

二つ目は、個人によって「性的なものの感じ方」に大きな差があるということです。「Aさんはスタイルがいいね」と職場で発言した時に、その発言をどのように受け止めるかに、同性間でも大きな差があるのです。

同性間でも大きな差があるので、Aさんはセクハラだと感じるが、Bさんは全く感じない、ということが起こり、行為者は、どこまでがセクハラなのかが曖昧になります。

対策としては、「セクハラ」だと感じている側が、その都度、「これはセクハラだと思う」と意見をして、「セクハラ」と「セクハラで無いもの」の線引きを引き直す必要があります。

例えば、職場の整理整頓を考えてみてください。同じオフィスに働いていても、職場が「片付いている、不快じゃない」と感じる人と「片付いていなくて、不快だ」と感じる人がいます。片付いていないと思う側が、「片付けよう!」と声をあげないと、オフィスはきれいになりませんよね。 

環境型のセクハラが起こる職場には、職場のメンバー間に「セクハラ」発言をゆるす雰囲気があります。ですので、「オフィスが散らかっていませんか?」と発言するのに近い感じで、「その発言は、セクハラではないですか?」と、言い合える職場の雰囲気を作ってゆくことが理想です。

5、「対価型」への自己防衛策

対価型は、環境型とは異なり、「人と人」「個人と個人」の間で発生するハラスメントなので、特定の「ハラスメントの行為者」に対する対策を行うことが必要です。「特定の個人」に対する対策を講じるうえでは、対価型の三つの発生理由に注目すべきでしょう。

1つ目は、「職場における優位的な地位」を持つ人が、「ハラスメントの被害者から自分の役職への敬意や配慮」を、「自分自身に対する個人的な好意」だと勘違いしてしまうことです。セクハラ対策の本に「部長、その恋愛はセクハラです!」という題名の書籍がありましたが、まさに、そうした勘違いが起こるのです。

常識的には、「若い女性が、中年のおじさんに恋愛感情を抱くことはない」と考えるべきなのですが、役職者となって、その役職に対する様々な敬意や配慮を受けているうちに、その感覚が麻痺してしまうんですね。

2つ目は、「職場における優位的な地位」を持つ人に対して、セクハラの被害者が『NO』を言えないことです。

被害者は、本当は嫌なのに、そう言ってしまうと、仕事上のデメリットが発生してしまうことを恐れて、明確に「NO」だと言えなくなってしまうのです。こういう状況下では、1つ目の理由と相まって、セクハラの行為者の「自分が気に入られている」との勘違を助長し、ハラスメント行為をエスカレートさせてしまいます。

1つ目と、2つ目の理由に対する対応策は、相手にあらぬ勘違いをさせないように、日々の言動に意識を配ることが必要です。例えば、相手からの言動に「馴れ馴れしさ」を感じた時は、こちらからは、意識して礼儀正しい言動を心掛けるようにすると、両者の間に一定の緊張感を持ち続けることができます。

とはいえ、「職場におけるセクハラ」事例には、行為者の単なる勘違いとは言えないケースも少なくありません。

3つ目の理由は、セクハラの行為者に「確信犯」がいるということです。

以前の記事でも書きましたが、ハラスメントを避けるためには、職場にいる『NGな人』に近づいてはいけません。

世の中には、パワハラやセクハラを起こしがちな性向を持っている『NGな人』が存在しています。そして、その『NGな人』の多くが、ハラスメント行為について確信犯なので、被害者が自己防衛することが難しいのです。

自分にとって「職場における優位的な地位」を持つ人が『NGな人』だった場合、対価型のセクハラ被害を受けないようにするには、ハラスメントの兆候を感じたらすぐに、「職場における優位的な地位」の影響の傘の外にいる人を巻き込んでおくことが必要です。

「職場における優位的な地位」は、その影響の傘の下にいる人にしか影響力がありません。ですので、何かのきっかけで、ハラスメント行為が公になると、ハラスメントの行為者は、自身の影響が及ばない上位の役職者や人事部門などから断罪されることとなるのです。

セクハラが「単なる勘違い」ではないと確信したら、遠慮なく、会社のハラスメント相談窓口に相談して、社外弁護士や人事部門など、行為者の「職場における優位的な地位」の影響が、及ばない人を巻き込みましょう。

明けない夜はない。きっと、解決に向けた道があるはずです。