村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」 場所

僕は誰も知らない秘密の場所にいる。誰にも僕の姿をみることはできない。そう思うと、とても静かな気持ちになれた。どこかに石を投げたいと思った。何かをめがけて小さな石を放るのだ。たぶん鳥の石像がいいだろう。当たってもこつんという小さな音しかしないぐらいにそっと石を放るのだ。子供の頃、よく一人でそういう遊びをしたものだった。ずっと遠くに空き缶を置いて、それがいっぱいになるまで石を放ったものだった。僕はそれを何時間も飽きずに続けることができた。しかし足元には石がなかった。何もかもが揃っている場所なんて、どこにもない。


村上春樹 「ねじまき鳥クロニクル」

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