永瀬清子 秋の明るい日曜の朝、顔を洗っていた時

秋の明るい日曜の朝、顔を洗っていた時、ふと水道の栓の逆U字型の金具に、自分の顔が映っているのを見た。それから気がつくとその金具の小さないろいろの曲った面には、私の顔がそれぞれ小さくゆがんで映っていた。

それから気をつけてみるとデコラ張りの食卓にも映っていたし、牛乳をすくう匙にもあったし、ありとあらゆる物の面には私が映っているのであった。

いとしい者よ、親しいものよ、お前たちはそのように一心に私を捕える。それぞれのあり方で・・・・・・。

鏡よりも正直でないと誰が云い得よう。又表面のなめらかでない者が私を捕えていないと誰が云い得よう。

そこには古びた木目の箪笥も、板の間も、靴も植木もあった。それはただ無口な人と同じことだ。

私が私のやり方で万物を捕まえるのと同じように、すべてのやり方で私を捕える。私が生まれて以来、年百年中そうであったのだ。

「ある日曜の朝」  永瀬清子

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