村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」 ウェイトレス

それだけの買い物をすませてしまうと、目についたレストランに入って昼食をとることにした。ウェイトレスはものすごく無愛想で、機嫌が悪かった。僕が無愛想で、機嫌が悪いウェイトレスにはかなり精通しているつもりだったが、それほどまでに無愛想で、機嫌が悪いウェイトレスを見たのは初めだった。僕という人間も、僕が注文したものも、徹頭徹尾彼女の気に染まないようだった。僕がメニューをみて、何を食べようかと考えているあいだ、彼女はまるで悪いおみくじでも引いたときのような目つきで、僕の顔のあざをじっと眺めていた。僕はその彼女の視線をずっと頬の上に感じつづけていた。ビールの小瓶を注文したのだが、しばらくあとで運ばれてきたのは大瓶だった。でも文句はいわなかった。ちゃんと泡のでる冷えたビールが出てきただけでも、感謝しなくてはいけないのだろう。多すぎれば、半分飲んで残せばいいだけだ。


村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」

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