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ビートルズを好きになれなかった僕が、映画「イエスタデイ」を観て変わったこと

もし、この世にビートルズを知る人が自分以外いなかったら?
ビートルズの名曲を自分が歌ったらどうなるんだろう……

をテーマに描いた映画「イエスタデイ」。ネットフリックスやアマゾンビデオのオススメチョイスの中から、これは面白いかもと想って観たのですが、大正解でした。

私の友だちにはビートルズファンがいつもいたのですが、彼らの熱狂的な愛着ぶりとは裏腹に、どうしても好きになれなかったビートルズ。曲もいいし、歌心もある。ポップな曲から悲しい曲までありとあらゆる世代を引き込んだビートルズ。でも好きになれなかった。

なぜかというと、あまりにポピュラー過ぎるのと少し古さ(音的に)を感じさせるから。録音技術が発達してくるのは60年代後半から。だからビートルズの曲はちょっとだけ音的な古さ(雑音)を感じさせ、好きになれなかったのです。

あとみんながみんな文句なしにいいと言うものだから、どこがいいのかを見出せなかったというのもある。そんななかでビートルズのすばらしさを現代によみがえらせてくれた映画「イエスタデイ」は、ビートルズの魅力を再発見させてくれた。

ではどこがそんなによかったのか、ビートルズファンではない私が魅了された点を解説していきましょう。

1 もしビートルズがこの世にいなかったら という斬新な視点

名曲の数々をわずかな期間で発表し続けた天才ビートルズ。彼らが果たした功績は偉大です。けれどももし彼らがこの世にいなかったら??? もし自分以外に彼らの曲を知る人がいなかったら??? という視点で描いたのがこの映画。

ビートルズの大ファンであるダニー・ボイル監督と脚本家リチャード・カーティスは、恋愛ものや社会風刺、成功物語を上手に描くことで有名。そのふたりがタッグを組んで、売れない歌手が売れて行く過程を、ビートルズの曲に乗せて描いたのがとても斬新でした。

なぜならビートルズファンでない私でもスンナリと受け入れることができたから。一部のコアなファンにとっては許せないジョンレノンが生きていたという演出も、人生にとって何が大切か? 現実はいくつも存在する(パラレルワールド)という観点から考えれば、問題なく受け入れることができるからです。

テトたちの日記帳というビートルズファン+そうではない2人のブログでこんなことを書かれていたので、僕は違う意見で書いています。

映画『イエスタデイ』はビートルズファンにはガッカリする出来

この物語のシーン一つひとつには深い意味と背景があると思うし、ビートルズファンでも大満足だったという方もいっぱいいるからです。

アマゾンの評価1619人中 5点中4.3

一部のコアなファンからしたらあの演出は気に入らないとかこのストーリーいる? という疑問であっても、現代のミュージックシーンで売って行くとなると、さまざまな障壁が邪魔をして、ひと筋縄ではいかないからです。

特に主人公のジャックはビートルズファンではあるが、自分の歌声には自信がない。どんな名曲であってもそれを歌う自分に自信を持てなければ人の心を打つことはできないと自分自身に直面する。これがとても心に響きます。


2 売れなくて諦めそうになったとき、たいせつな人の存在

でもそんななかでも、自分の才能を信じ、応援してくれる人(マネージャー)エリーの存在が自分を助けてくれます。

世に出て行くときというのはとても怖いものです。はたして自分が受け入れられるだろうか、批判されないだろうか、さまざまな葛藤が津波のように押し寄せます。傲慢な性格でもない限り、自分の弱さにやられてしまう。そんなときに助けとなるのが応援してくれる人の存在なんです。

かくいう僕も最初に文章を書いたときは自信がなくて、誰にも見せることができませんでした。A4用紙に5ページほど。それまで人と話すのが苦手で反応を怖がっていた自分が、コミュニケーションのことを学び、人と出逢えた喜びをしたためた文章でした。

その文章を人に見てもらうことができなかった。それで知り合いの女性にそのことを話したら「とにかく見せてください」と言ってくれた。それでその女性とほか2人に送ったのが僕の最初の出発点だったんです。

反応が怖くて怖くて仕方なかった。そんな僕がこうしてスラスラ書けるようになったのは、あのときに応援してくれた女性の存在――だからこそこの映画は自分の人生のストーリーと重ね合わせて観ることができたんです。

3 心を打つ音楽の特徴

またこの映画では、ビートルズの名曲を現代によみがえらせていながら、原曲の持つシンプルな美しさを紹介。でいながらSNS時代でシェアされ、またたくまに世界に広がる様子もいまの時代に合わせた演出となっています。

いまの時代はミュージックビデオが主流で、ダンス、ストーリー性の強い映像がなければ、売れることがむずかしい時代。アメリカのラップや南米のラテン曲が売れるのも、目を惹く映像があってこそなんです。

けれどもそんな中にあっても、心に響く美しい曲はやはり伝播していく。最初に主人公ジャックが実際に弾く「イエスタデイ」を聴く友人たちはそのすばらしさに耳を疑います。やはり心を打つ詩とメロディーがあれば、響くものがあるのですね。

4 願望が叶えば叶うほど孤独になるパラドックス

音楽好きなミュージシャンはいつか売れることを夢見て、がんばります。けれどもいつまでも売れないと次第に諦めてしまいます。そんななか、ビートルズの名曲を手にしたジャックは、他人の曲だということを隠して売れて行きます。

しかし売れて行く過程で自分を応援してくれていたエリーと別れ、孤独になっていきます。これは多くのミュージシャンが直面するパラドックス(逆説)。多くの人とつながればつながるほど心にポッカリと空いた穴に気づくのです。

しかもジャックは自分の曲じゃないのに自分の歌として歌っている=自分と世界にウソを付いているという罪悪感にさいなまれる。そんなときに地元の、ビートルズを知る唯一の存在に助けられるのです。

死んだはずのジョンが生きていて自分を助けてくれる。もしかするとそれはジョンが死んでいなかったらという昨日(イエスタデイ)が続いていたならという平和を重んじたジョンのメッセージが見せる幻影なのかもしれません。

そして人生の師として登場するジョンは、売れたビートルズよりもソロになって出したメッセージこそがほんとうに伝えたかったことであり、しあわせはそこにあると言いたかったのではないでしょうか。

そうして自分を取り戻し、蘇っていくジャックは私たちの自身の人生ともオーバーラップさせていくことができます。

架空の話でありながら、実際の現実にインパクトを与える映画なのです。

5 イギリス人歌手 エド・シーランのユニークさ

エド・シーラン本人登場!

この映画を観るまで知らなかったのですが、イギリス人シンガーソングライターのエド・シーランは、ギター1本でウェンブリースタジアムを満員にさせるほどの人気者。そのエド本人が実際のライブでコンサート終了後、主人公ジャックを起用するシーンを入れるんです。

で、おもしろいなーと思ったのが、朴とつとして人の良さがにじみ出るエドがビートルズの曲を歌うジャックに負けを認めるシーン。本来であればユーチューブ40億再生を誇るエドは、路上ライブを年300回こなし、ギター1本でたたき上げで売れてきた人物。

そんな彼も失恋やホームレスとの出逢い、売れて行く過程をジャックの人生と重ね合わせた演出をされている。

だからこそこの映画は単なるビートルズのフィクション映画ではなく、実際のミュージシャンや人々の人生を救い取っているのですね。だから響く。

6 本物よりも魅力を感じさせるのはなぜ?

7 オマケ

ところで冒頭の話に戻ってビートルズファンではない僕がなぜ、この映画に魅了されたのか? それはフラットな立場で少しずつ魅力をアピールしてくれたから。

頭ごなしにこの曲はいいんだゾと訴えかけてくるものではなく、さりげなく、少しずつ、じんわりと染み入るように紹介してくれるものだから。だからあ、この曲ってこんなにいい曲だったんだとわかるんです。

それが字幕と映像付きで意味がよくわかるから。

そうして本物だと当時の録音技術でレコードの雑音が混じり、曲自体は良くても粗削りな印象がある。それがこの映画ではクリアな音質で、ジャックを演じるヒメーシュ・パテルが実際にその場で歌い、弾いているからこそ、心に響くものがある。

同じ曲なのにまったく違うアレンジで聴かされているような印象すらあるのだ。ある意味ビートルズの魅力を再発見できたような気にさせられる。

これはある意味クイーンの映画「ボヘミアンラプソディー」で感じた印象と似ている。僕はクイーンも、そのブリブリ感からいまひとつ入り込めないところがあった。あのフレディーマーキュリーのオペラ唱法も仰々しくて好きになれなかった。

だがラミ・マレックの歌いながらの映像で「ゲイになりお母さんに告白する曲」だとわかれば、曲の意味がよくわかり、歌詞とメロディーの入り方が違う。フレディーが歌っているときには知らなかったその内容の意味が深く心に刺さるのだ。

これはある意味モノマネ芸人が本人を誇張して見せることによって、本人の魅力を発掘するのに似ている。単に歌がうまいというだけでなくそこにほかの味付けをすることによって何倍にも魅力が引き立つのだ。

アマゾンのプライムビデオ会員だったら無料で観られるのでよかったら一度観てみてほしい。僕の言わんとするところが少しでも伝わればうれしい。


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