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日誌2020/7/26 本紹介の段2「チョコレートの歴史」

ふと興味がわいたので中公新書「チョコレートの世界史」を読んでみた。

私たちが当たり前に食しているチョコレートだが、その背景にある歴史をわかりやすく纏めた良書であったと思う。

 単にカカオ豆の原産地での取り扱いやチョコレートの製造法に留まらず、カカオ豆が砂糖と並んで大西洋貿易の原動力となり、その後もヨーロッパの産業発展と深く結びつきながら現代の姿に進化してきたことを、具体的なデータも交えながら丁寧に解説してくれている。



 本書の前半では主に中南米におけるカカオ豆の文化の紹介とヨーロッパ人の新大陸到達以降の「カカオ・ロード」の拡大が詳細に記述されている。

 大西洋三角貿易というとアメリカ大陸から大量の銀と砂糖がヨーロッパにもたらされたことが有名だが、カカオも砂糖に負けず劣らずの主力商品だったとは驚いた。アフリカから数千万の奴隷を買い取ったのは大規模プランテーションの経営主たちだったが砂糖と同じようにカカオ豆の生産も大量の奴隷労働によって実現されていたものだったのだ。

 他にもカカオとその飲み物であるココアがヨーロッパにもたらした衝撃にも言及されている。その医学的効能が熱心に研究されたのはもちろんだがなんと宗教論争にまで発展したという。果たしてこのヨーロッパに存在しなかったものは「食品か、薬品か」「液体か、固体か」といった問いかけは時のローマ教皇のもとにまで上げられた。

 またココア文化がヨーロッパの宮廷に広まると、よりおいしく優雅に飲むためのポットやカップ、装飾品も一大産業に発展した。やっぱりというべきか、このような華やかな消費スタイルを発展させたのはルイ14世時代のフランス宮廷貴族たちであったそうだ。



 中盤からはイギリスにおけるチョコレートの発明と製造技術の発展が語られる。塊のココアを食べるという発想をもとに誕生した固形チョコレートは産業革命で生まれた多くの技術とそれらを使って経済的成功を得ようという意欲に燃えた実業家たちがいなければ実現し得なかっただろう。

 いうまでもなく、固形チョコレートは固いカカオ豆をすりつぶし、圧搾し、精錬し、適切な温度で混合し、冷却し、成型するという複雑なプロセスを踏んで初めて完成する。こうした複雑な事業がほんの一世紀もしない間に確立され、イギリスの一大産業として発展したという事実は、当時のイギリスがどれほど活気にあふれ、繁栄への道を突き進んでいたことを思い知らせてくれる。

本書では特に「クエーカー教徒」がチョコレート産業の拡大に果たした役割について多くのページが割かれている。彼等の信仰と生活の在り方が、より効率的なチョコレート製造工場の運営と販路拡大をもたらした過程は非常に興味深いものだった。



 後半では19世紀以降のチョコレートの広告戦略や現在でも大人気なキットカットの誕生、女性の社会進出とチョコレート工場の関係、戦時中のチョコレート産業の変化などが触れられている。

 今ではお菓子として売られているチョコレートが、子供の健康食品として大々的に広告されていたこと、戦場で戦う兵士たちや世界各地を旅する探検家たちには貴重な甘味であったこと、大量の女性労働者を抱えるチョコレート工場で今でいう福利厚生やワークライフバランスの原型というべき制度が生まれたいたこと、大人の味という広告によってビターチョコレートが売れた話などが述べられている。

 またキットカットの誕生裏話にも触れられていた。


 食べ物が社会に与えた影響というと真っ先に人々の健康に関する変化が思い浮かぶが、もっと社会的文化的な影響がチョコレートによってもたらされていたことに気づかされる。

 

 私たちの生活に当たり前に存在するお菓子、チョコレート。その甘味の背後に存在する興味深い歴史を学ぶのにはとても良い本だった。こんどキットカットを食べるときにはこの本を片手に楽しもうと思う。


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