君だけが振り向いてくれない

生きる ということは 腐らない ということだ。


生物が死ねば亡骸は腐る。還る。

例えそれを望まぬ者がいようとも。





外側は白木でシンプルに、

それでいて内側は白を基調とした花々で綺麗に彩られた棺の中に

君は安らかな微笑みで、いる。

いる、以外の動詞ではどうもしっくりこないといった様相で、そこに、いる。


こんなにきれいな君を、僕は知らない。

いつもすっぴんで、部屋着はジャージかスウェットで、

髪はぼさぼさで、チューハイとマルボロが大好きだった君が、

僕は大好きだったのに。



生きている君は、いつも死にそうだったのに

死んだ君は、今にも目を開けそうなほど、きれいだ。




生きている君は、いつも死にそうだったのに

生きている僕は、それでも君は明日も生きている、と

当たり前のように思っていた。


僕も君も、一緒に生きている

生きていられる、と、思っていたんだ。



僕は知っている。

僕が君と同じように

白を基調とした花々で綺麗に彩られた棺の中に入れられても

君は きれいだ と思ってくれないことを。


そして僕が君の後を追いかけて

これから君がそうなるように

燃え盛る炎で身を焼き

煙となって空へ登っても

もう君のあの死にそうな顔は見られないのだということを。




「さよなら」




君の名前をどれほど叫ぼうと、

君だけが振り向いてくれないことを、僕は知っているから。



僕は生きる。腐らないで、生きる。



僕の口から君の名前が出ることはもうない。

君は僕の中で、永遠に死んだ。




〈終〉



お題:君だけが振り向いてくれない

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?