英国大学就活体験談: Job talkの話

高知工科大学ポスドクの今田です.

今までは研究に関する記事をちょこちょこ書いてきたんですが,ラッキーなことにイギリスの大学から仕事のオファーをもらえたので,今回はイギリスでの就活に関することを書きます.
University of Kentに大学院生として所属していたときに学んだ就活のポイントと,自分が就活をしたときにいろいろな人から教わったポイント,そして自分の実際のジョブトークでつかったスライドと気を付けたポイントに関して書きます.イギリスの仕事に興味ある人であったり,イギリスで働く選択肢も視野に入れている大学院生・研究者の方の参考になれば幸いです.

今回の内容はあくまでイギリスの心理学系の就活に限った話であって,大学や仕事の種類によってもちろんお話が変わってくると思うので,あくまで参考程度に読んでいただければと思います.以下,「イギリスの」というのは「イギリスの心理学界隈の(今田の知りうる限り)」という意味なので,そこのところよろしくお願いします.ちなみに色々見たり聞いたりはしていますが,実際に自分が体験したイギリスのジョブトークは1つだけなので,その辺もよろしくお願いします.ただの体験談なので,たぶん真に受けないほうがいいです.

※自分の就活に使ったスライドに関しては,不特定多数の人にじゃぶじゃぶさらすようなもんじゃないと思うので,有料公開にしています.内容見たい人は個人的に連絡していただければ無料で記事あげます.今回の就活マテリアル以外にも,落ちた公募につかったマテリアルとか,サマースクールの応募書類とかそこそこあるので(落ちたやつも通ったやつも),もしほしい人いたら連絡ください.全部あげます.

先に進む前に,この場を通して,自分の就活を手伝ってくれた皆さんに感謝申し上げます.たくさんの人にプレゼンをみてもらったり,スライドを確認してもらいました.本当にありがとうございました.持つべきものはいい指導教員といい仲間ってのはきれいごと抜きでマジだと思ってます.



①イギリスの公募フォーマット


イギリスの公募は2段階.書類審査と面接(presentation + panel interview)があります.書類選考通った人が面接に呼ばれるんですが,イギリスの公募は割とすいすい進むケースが多く,基本的に結果はすぐにわかります.この公募の書類に関してですが,大学が独自のフォーマットをもっていることがほとんどで,めちゃくちゃ使いまわしが効くという感じではないです.ほとんどの公募は, jobs.uk.acというウェブサイトに掲示されます.

自分が応募した仕事は,締め切りが2022年1月2日だったので,2022年12月25日に応募しました.1月10日に面接が2月1日にあるという旨のメールを受け取りました.なので面接準備には3週間の時間がありました.面接の結果は数日後にはわかりました.まぁ,タイムラインはこんな感じです.応募の段階で,面接がいつ頃になるかが分かっていたのでそんなに慌てることはありませんでした.ちなみに,自分が応募した仕事の詳細は,research & teaching契約(research:teaching:admin = 4:4:2), permanent (テニュア), 給料はGrade 8(自分でどんなもんか調べてください)って感じです.  

面接は2パートありまして,まずは15-20分のプレゼンテーションをします(自分は20分でした),いわゆるジョブトークってやつです.イギリスの公募におけるジョブトークはその学部で働いている人全員に開かれていることが通例です.なので,パネルメンバー(この後のpanel interviewをやる人 & 公募に関して最終的な意思決定を行う人たち)以外にもたくさん人がきます.パネルメンバーの人以外は何の意見も言えないかというとそうではなくて,ケント大学ではパネル以外の人が候補者に関するディスカッションをして,その内容をパネルメンバーに伝えて考慮してもらうということをやっていました.

ケント大学にいたときはまだ博士課程の学生だったんですが,自分にも開かれていたので,だいたい20ぐらいのジョブトークをみて,パネルメンバー以外の人のディスカッションを聞いていました.

このプレゼンテーションから数時間後に,panel interviewがありました.これは大体30-45分が通常らしいです.自分の場合は30分でしたが,体感1時間ぐらいありました.この面接では,数名のパネルメンバーから,すべての候補者に同じ質問投げられます.これは大学・公募によって決まりますが,自分の時はこんなかんじでした

パネルメンバー1: お前の研究の何がすごいのか教えろ

ここが一番きつかったです.想像の100倍詳細な質問をされました.
例えば
・どんなグラントに応募する予定か
・どんな研究計画で応募する予定か
・なんでその計画でそのグラントが獲れると思っているのか

これに加えてREFの質問もありました.イギリスでは7年に1回,REFという大学評価が行われます.この結果が大学にとってめちゃくちゃ大事でして,REFでの高評価は大学にとって死活問題です.面接でいわれるまでREFについてあまり知らなかったんですが,大学にいる研究者はそれぞれ自分の論文をREFに提出して,REFが雑誌のIFなどを一切考慮せずに,その論文の学術的な価値を評価して点数化するようです(ぶっちゃけ詳細そんなにしらない).
余談ですが,心理学と神経科学が評価の際に同じ分野扱いされているので,REFのために神経科学者をたくさん雇っている心理学部も多いです.

面接では,
・今まで出版した論文の中でREFに提出するとしたらどれか
・なぜその論文を提出するのか/その論文にどんな学術的な価値があると思っているのか

などの質問をされました.自分の準備不足もあって,このパートはめちゃくちゃテンパりました.何分このパネルメンバーの質問に答えていたか覚えてないんですが,めちゃくちゃ長く感じました.これが終わった段階でもう体力は0でした.

パネルメンバー2: 授業・学生の研究指導について

教育に関して結構聞かれるのかなと持って,事前に大学で開講されている授業を調べて,
・自分だったらどれを教えられそうか
・どんな授業を新しくできるか
・既存の授業にどんなことを付け加えられるか
などの点に関してはかなり入念に準備していきました.

が,このパートは実際はめちゃくちゃ軽く,一瞬でおわりました.
自分がされた質問はただ一つ

・学部生・修士の学生が指導教員を選ぶために各教員は自分の研究テーマの広告をしなければいけません.このとき,あなたは自分の研究をどのように学生に売りますか?(研究テーマ,研究の特色,etc.)

というものでした.

パネルメンバー3: すでにいる教員との共同研究の可能性

自分の就活面接準備の際に,イギリスで仕事をしている多くの人から,この点に関してしっかり準備するように言われていました.なので,既存のメンバー全員の研究を調べて,どんなコラボの可能性があるか,どんな親和性があるかに関してめちゃくちゃ考えました.

実際に
・どの人とどんな研究ができそうか,どんな研究がしたいか
・なぜその研究がいいのか
を聞かれました.ある1人との共同研究に関して話した後に,「オッケー,じゃあ他は?」って聞かれたときは焦りました.2人以上準備しといた方が安全です.

パネルメンバー4: 大学に求めることは?あとなんか質問ある?

最後はこんな質問されました.一応自分の返答も簡単に書いときます

・大学に求めることはなんかある?
→グラントの申請に関してはまだ学ばなきゃいけないことが多いので,グラントライティングに関するワークショップや指導を受けたい

・自分の理想の学部像は?
→アカデミックな議論や学部内の共同研究が盛ん+みんな仲良し+1週間に1回はおおいけど,2-3週間に1回ぐらいは金曜にパブでビール飲みながら集まる会があったら嬉しい (ビールに関しては心配すんなwww という笑いをとりました)


感想

パネルメンバー1の質問がとにかくきつくて,回答を始める前にだいたい5-10秒は黙って考えてましたね.その10秒でなんとか解答をみつけて,話す内容を必死にオーガナイズして話す,というのを死に物狂いでやってました.体動かしてないのにめちゃくちゃ汗かきました.平静を装うために、考えタイム中はめちゃくちゃ水飲みました.

ちなみに面接前に博士の時の指導教員の先生からこんなアドバイスを頂いていました;

急いですぐ答えようとしない.
早口で話さない.
考える時間があってもいい.
質問ききとれなかったらききなおす.
怖い顔しない.
質問にうまく答えられなくても次に引きずらない.切り替える.

以上,イギリスの公募フォーマットと,自分のパネル面接の内容でした.

②どんなプレゼンが高評価を得ていたか, プレゼンのポイント


ジョブトークは自分のものも含めてほぼ全部20分でした.
ここでは,公募の書類に書いてある「ほしい人の条件」にすべてチェックマークをいれつつ,これまでの自分の研究の紹介をします.公募の書類には,かなり詳細に欲しい人の能力の条件(must/desiredに分かれている)が書いてあるので,これをしっかり読み込んですべてにチェックするのが重要です,ってめっちゃいろんな人に言われました.もし公募がresearch & teachingなら,研究の紹介だけじゃなくて,teachingの方の条件を自分は満たしているよ,ということもしっかりアピールしなきゃいけません.あとは,public engagement等もdesiredには必ず入ってくるので,これをチェックできる業績・経験をどっかでしておくと就活に強いと思います.

自分の研究の紹介

これまで見たジョブトークにおいて,自分の研究の紹介は主に2パターンありました

・イチオシ論文しっかり紹介パターン
このパターンでは,自分の一押し論文をしっかり時間をかけて,学会発表のように発表していました.ジョブトークの時間を1とすると,そのうち0.7-0.8ぐらいをつかって1つの論文について紹介する感じです.アメリカからの候補者にこういうパターンが多かったので,アメリカはこういうの多いのかもしれません.しらんけど.

・自分の研究テーマざっくり紹介パターン
先に答え(?)をいってしまうと,こっちのパターンの受けがよかったです.
このパターンでは,自分の研究テーマをざっくり紹介します.1つの論文に長時間を割くということはなく,割いたとしても全体の0.4-0.6ぐらいでした.例えば,自分が一番感動したジョブトークはこんな感じでした

・私はAとBの関係性についてこれまで多角的に研究してきています
・論文1では,AとBに関して,Xという側面から検討しました
・論文2では,Yという側面から検討しました
・論文3では,Zという方法で検討しました
・これまで,X,Y,Zに関しては見てきましたが,これからはP,Q,Rを伸ばしていきます(そしてこのPQRというのが,既にいる研究者との共同研究だったり,エキサイティングな研究テーマだったり,学際的だったりする)

こんな感じで話されると,(1)これまでどんな研究をしてきたか,(2)これからどのように研究が伸びていくか,(3)その先にどんな共同研究・グラント獲得がありそうか,というのが明確に見えてくるんですよね.

イギリスでこういうトークがウケるというよりは,短時間で自分の研究の今とこれからを語るのに一番適した方法がこれなのかな,と思っています.研究だけに関して20分話せるならいいんですが,teaching/contributions to community/departmentとかまで含めて20分だと,研究に関して話せる時間はけっこう限られてるんですよね.

ただ,このようなプレゼンを行うためには論文を何本か出している必要があります.海外志向の若手の方の参考になるかなと思ったので書いときますが,

”A-Bに関してX,Y,Zという論文を出していて,それぞれ違った観点からA-B研究をやっています

というのが1枚のスライドにまとまっているのを見ると,やっぱり説得力があるんですよね.なので,”自分がどんな研究をしているか”を1つのスライドにまとめるときに,そこにうまい感じで載せられそうな論文をちゃんとだしておく,というのは頭に入れといてもいいかもしれません.

論文はだせばいいってもんじゃない(いい雑誌に出ていないと意味がない)という言説はよく見かけますし,なにかしらの光る論文がないと就活が厳しいというのは紛れもない事実だと思います.ただ,光る論文以外にも,自己紹介に使える論文があると就活で助かる,というのもまた事実なんじゃないかなと思います.

この記事にあることをあんまり真に受けないでくださいね.真に受けて失敗しても一切責任取れませんので.


③自分のジョブトークに使ったスライドと気を付けた点・話した内容


先ほども書きましたが,以下の内容を見たい人いたら個人的に連絡してください.記事のリンクあげます.もしイギリスの仕事に応募することがあれば,自分が応募に使った書類も全部あげます.サマースクールとフェローシップの書類も落ちたのも通ったのもいろいろあるので,ほしかったら連絡ください.

もう一度言いますが,不特定多数の人に公開するような内容じゃないので有料記事にしています.営利目的でやってないです.欲しかったらあげます.
ま,お金欲しくないって言ったら嘘になりますけどね!


ということで以下では,自分の20分のジョブトーク用のスライド,話した内容,気を付けた点等についてかなり詳細に書きます.就活中の人,就活もうすぐの人,就活までにどんなことをやっとけばいいか知りたい人,などの参考になればなと思います.

たくさんの方からの支えと豪運のおかげで,イギリスの大学で働けることになりました.もし自分のようなキャリアを歩みたい人がいれば積極的に応援したいので,そういう人がいれば気軽に相談してください.連絡先が書いてあるHPのリンク置いときます: https://himada2018.github.io/

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