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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか67】生後まもなく(9)産休の経済学②

 で、娘であるが、もともと在宅勤務であり、私も昼間べべさんを見ていられることもあって、育児休暇は取らないが、産休=マタニティ・リーブは取る。それにあたって、勤め先のHR=Human Resource=人事部との話し合いの中で、フランスのフリーランサーではなく、フランスでemployeeになることが決まった。ワシントンの本部に雇用され、海外に住んでいる人間に、この制度を適用するのは、2例目だったとのことだ(1例目の人はイギリス在住)。

 娘の産休に関して、会社の側の条件は、まず残っているシック・リーブ=病休を使い果たす、産前休暇はない(ただし医師が休まないといけないと言ったら休むことができる)、産後8週間までは給料の60%保障、12週まで休むことは可能だが、8週目以降は収入の保障はなく、有休を使うか無給で我慢するか。
 一方、フランスの法律では産前休暇を6週間は取らなければならない。医師の許可があれば3週間まで縮められる。このあたり、Social Securityオフィスによっていうことが違ったりするんで油断ならない。因みに産前休暇を短くした場合、使わなかった分を産後に回すことができる。
 休むために医師の許可が要るアメリカ、休みを短縮するために医師の許可が要るフランス。どちらも、休んでないで仕事しようよ!という傾向は共通なのに、制度設計の違いが面白い。

 娘の産休オプションは当初三つあった。
 一つ目は、フランスでの被雇用者としてマタニティ・リーブを取る。この場合は、1日最大90ユーロ(実際のサラリーによって変わる)の手当が産前6週間、産後10週間支払われる。
 二つ目は、フランスで働くフリーランサーとして。手当が受け取れる期間は被雇用者と一緒だが、手当の最高額が1日60ユーロ、それとは別に一時金が4,000ユーロ弱支払われる。
 三つ目が、アメリカの、会社の方の保障を受ける。娘の会社は前述の通りの条件だが、会社によって全くレベルが異なるそうだ。会社が置かれている州によっても規定が違う。出産を理由に解雇することは禁止されていても、経済的な保障が十分とは限らない。

 娘は産休を取る直前に、被雇用者としての登録期間が短いために、1つ目のオプションは使うことができないことが分かった。ルールの書き方が分かりづらくて、会社のHRも、フランスの雇用エージェントも理解していなかったらしい。
 2つ目と3つ目のオプションを比較検討した結果、経済的な保障はそんなに大きく変わらない。しかし、フランスに住んでいてSocial Securityに加入しているのだから、単純にフランスの制度を利用すれば良いのでは?というんで、娘は二つ目の選択肢、フリーランサーとして手当を受け取ることにした。
 ラッキーだったのは、アメリカの雇用先が、娘が損することがないようにと、会社の負担で手当を上乗せしてくれたことだ。つまり、結果的に二つ目と三つ目の組み合わせみたいな形で金銭が保障されることになった。法人として制度を見直すタイミングだったようで、柔軟に対応してくれたようだ。

 ビザを取るときにも思ったことだが、国境を越えて働くというのは、大変なことだ。娘はそれなりに大きな組織に属していて、人事部が助けてはくれたものの、日本国籍で、アメリカの法人に雇用され、フランスで納税し社会保障を受ける、というので、制度の谷間に落ちてしまう危険性もあり、ルールや手続きを確認するにも言葉の壁があり、でら厄介そうだった。これが組織の後ろ盾がない状態だったら、或いは悪意のある、搾取的な組織が絡んでいたりしたら、もっと大変だっただろう。

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