Oil Painting - その1


イラストレーターとして活動し始めて15年程になります。最初の頃は、鉛筆を使ったり、アクリル絵の具や、ガッシュ等を使って描いていました。そのうち、学生時代に少しだけ使っていた油絵を再び使い始めました。師匠、木内達朗氏に手取り足取り教えて頂けたので、僕はとても幸運でした。

描き始めて、まず分かった事は、この「油絵の具」という画材が、とても自分の性格と相性が良いということでした。それまでは、アクリル絵の具を使って描いていましたので、塗ったら直ぐにドライヤーで乾したり、フィキサチフを使って画面を定着させ、次へ次へと工程を進めていきました。

仕事の進行が早くなるのは良い事なのですが、僕の場合は、制作速度が速くなると、それに比例して、気分も乗ってくるので、何でも出来てしまう様な、そんな錯覚に陥ることが良くあります。よく言えば「ひらめき」、悪くいえば「その場の思いつき」を、感性に任せてそのまま絵に反映してしまう事が多く、最終的には計画していた完成形から大きくずれて、思ってもいなかった作品に仕上がってしまう事も良くありました。

良い結果に終わる事もありましたが、失敗に終わる事も沢山ありました。実験や、個人的な作品であれば問題ないのですが、締め切りが存在する仕事では、明確なゴールがなく、先が見えないという事は、クライアントにとっても、自分にとっても不安材料となってしまいます。

油絵を描き始めてみて、それまでのように作業が迅速に進まない事が分かりました。次に進みたくても、絵の具が乾かないので、加筆が出来ないのです。もし強引に加筆したところで、意図しない色が混ざり合い画面が思うようにコントロールが出来なくなります。その結果、絵が汚くなり失敗してしまう可能性が高くなります。

つまり無理に急いで加筆しても、結局やり直す事になるので、逆に完成は遅くなってしまうのです。(目的によっては、絵の具が乾かないうちに画面上で混色する技法もあります。)

乾きが遅く、作業がストップしてしまうという事は、画材としては短所のように感じてしまいますが、僕にとってはそうではありませんでした。「描けない時間」が存在することによって、感覚的なアドリブ作業は強制的に封印され、僕は一旦冷静な状態に戻れる事が出来たのです。

それまでの作業では存在しなかった「待つ時間」は、「次の一手をどうするべきか?」という「熟考する時間」となりました。

その結果、より計画的に作業を進める事ができ、以前と比べれば、細部まで目の行き届いた作品が描けるようになったのではないかと思います。

絵の制作において、作者の技術と、画材の本質的な価値であるテクスチャーや色合いが、一番重要な事柄なのですが、それと同じくらい、自分の性格と画材の相性も大事な事柄なのではないかと思います。作者が快適な環境で作業する事が、良い絵が描ける事に繋がっていると思うからです。

例えば、僕はとても心配性なので、水彩画のように白い部分を残すというような技法は、やり直しが効かないので、とても緊張してしまいます。その点油絵は、暗いところから、どんどん明るい色を塗り重ねていく手法ですので、失敗してもまた上からやり直しが効く分リラックスして描けます。心配性な僕の性格と油絵はとても相性が良いのです。自分と相性の良い画材に出会えたということは作家としては、とても幸せなことですね。まだまだ未熟ですから、これからもっと勉強して、この画材ともっと仲良くなって行ければと思います。

今回は、油絵との出会いを描きましたが、まだまだ描きたいことはあるのですが、長くなりましたので、この続きはまた次回という事にいたします。長文を読んでくださりありがとうございました。

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