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前号評ノート

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短歌などを読んで。
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記事一覧

かばん2018年1月号

合わせ

美しくありたがってた汝のことが水寸前の氷のように、

母さん 世界はずっと悲しくて金魚は長く生きなかったね



鈴木智子

ただ走ることをよろこぶ子どもたちこの世に終わりはないかのように

あぢさゐの玉と思ひてみてゐしが小鬼のあまた円座をなせる

牛島裕子

飯島章友

特急の中で教わる雪深い森がかつては町だったこと

くらやみがまぶたの丘をつつむころ嘴を持つもの持たぬもの来よ

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かばん2017年12月号

合わせ

走り去る水鶏の赤き肢が見ゆあなたを先に行かせてあげる

あの日の夕焼けが、あの日欅の木に登って眺めた、あの日の夕焼けが、あの日欅の木に登ってモンブランを食べながら眺めた、あの日の夕焼けが

(中沢直人/青木俊介)

夢を見るため奪うため出会うため祈るため問うためのスプーン

われわれの隣に誰がいるのかと問うとき震えながら飛ぶ鳥

(ながや宏高/土井礼一郎)

おやすみ ここから眺めるあな

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かばん2017年10月号

君に添ふ夢から覚める夢のなかの君がつらさうな顔をしてゐて

小佐野譚

月かげの遠さに人もごきぶりも路地をいでたり体ひからせて

(体=たい)

佐藤弓生

夜に風、ソーダの泡になっていく大好きだった主語のない星

みたかあめ

桃の実を削ぐ 切実というよりは腫れぼったさの線香花火

沢茱萸

スカイツリーを刺青となし根気よくまぶたをさすられている水

井辻朱美

装身具のみで男子学生を分ければピ

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『舟』2017年夏号(第30号)

かもめよ、おまへは飛んでわたしは歩く どこでわかれたんだらうわたしたち

花鳥佰/どこでわかれたんだらうわたしたち

霧立てば霧がささやくふるさとの生れたる森の涸れたる泉

「生=あ」「森=ほと」

荒川源吾/弔ひの列

少年院に二年、少年の嵐吹く瞳の中に樹は折れ曲がり

子どもらがふうせんにして遊びゐるコンドーム舞ふはつ夏の丘

加部洋祐/鳴り響く夜明け

この子ども髪捕まれて引き摺られひきずり

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かばん2017年8月号

かばん2017年8月号

いいえ、もう逝ってしまった人でなくあなたの為の白い花です

百々橘

群青の氏名なだめて水田は方言を抱く。そして隠した。

とうてつ

目覚むればすべてが厭になつてゐて黴雨沁み入る暁を聴く

佐藤元紀

はじめから読み直している道徳の本は浜辺の砂を吐き出す

漕戸もり

朝がきて乱れた髪を猫が噛むわたしを置いていかないで欲しい

柳本々々

この街に青色家族まいおりて命の話ばかりしている

土井礼

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かばん2017年7月号

かばん2017年7月号

ふるさとが(何度も何度も捨てられて追いかけてくる)口避け女

桜からぽとぽといつも垂れているもっと言いなよ綺麗と言いな

藤島優実

なにもかもが一瞬なれど純白の緒をねじりつつ天を負う凧

井辻朱美

黒目がちなこどもの指でふれている罪のてざわりは完璧な球

足田久夢

瓶詰めの夕陽になれよたましいは浮かばぬように島とうがらしを

とうてつ(はなうる)

姉さん 私はずっと寂しくてあなたの吹いたし

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かばん2017年6月号

「カネでしょ」って言われて結局はみだしたままぬらりひょん

山下一路

中国茶のひらききるまでを凝視する非常に静かな一分間

吉野リリカ

しらゆりの脱皮するまでみつめおりモノレールから海のふくらみ

足田久夢

深き夏深夏と呼ばれし君の名を祝福せしは故郷の山

(「深夏」=「みか」)

池田幸生

同じ街に住んだ若い男性が自ら穴に飛んだと聞いた

百々橘

またあした あたたかい水 またあした 

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かばん 2017年5月号

自転車のかごにゴミ屑いれられてそのまま三十代が始まる

藤島優実

取り返す言葉もなくて真っ白な時間が午前5時へと至る

広央ヒロ

私の死を飾る花の花言葉は「愛されなくてごめんなさい」

みたかあめ

まず水をかけてみろよ!と友だちが告げるこんな未来だっけか

柳谷あゆみ

「塔」の章でたどりつけない塔影を枝折にあかい夜景を閉ずる

足田久夢

めのまえはげんじつでしてそのうしろみることのはじま

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かばん2017年4月号

今はもう水の流れていない川その暗がりにぬるく吹く風

法橋ひらく

階段を下りる音へと雨告げるマーガリンすらぜんぜんのびない

ふらみらり

花を踏む絵巻の鬼の名前は明かされず絵巻の春を眺めてゐたり

藤本玲未

骨をうずめるという比喩なまなましすぎると思いつつ剥くキウイフルーツ

東直子

ユリイカ 停電したホテルに鳥夜明けを待った長く速くの

ハレルヤ 緑のケーキに突き立てるナイフ言葉に国境は

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かばん2017年1月号

思い出しますねえ僕はむらさきで君がなみだと呼ばれたころを

飯島章友

にんげんの時間ぬぎすてて夕映えに揮発してゆくなつかしさかな

(「時間」に「とき」のルビ)

コトハラアオイ

満月で、話したことのない人がいなくなった日とてもかなしい

百々橘

新春題詠のお題は「お互い様」。「お互い様」は、文脈によりかかった言葉そのものという感じで、その意味でそういえばとっても短歌っぽい。2、3年、いえ、

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