犬のこと

先日、新しい家族がふえた。

動物愛護管理センターの譲渡会で出会った殺処分を免れた雑種の保護犬で年齢は1歳ぐらいの女子、関取と同じ「宇良」という仮名からうちに来て「リン」になった。
譲渡会には別の子を目当てに行ったのだけど、トレーナーさんが「宇良ちゃんオススメですよ〜」と抱き上げて紹介してくださったとき、ああなんだかこの子いいなあと思って譲渡希望の用紙の一番目に書いたのだった。
その日は生まれたての仔犬がたくさんいて、やはり仔犬は人気らしく、1歳のこの子が第一希望なのは私だけだった。ちなみに最初目当てだった6ヶ月の子も別のご家族に無事引き取られていった。

うちにはかつて先代犬がいて、11年前に老衰で他界した。
なんだか誇り高い感じのする、いいやつだった。大学の夏休み、実家に帰省したら一足遅くて死に目に会えなかったのがとても寂しかった。もう二度と犬は飼わないだろうなあと思った。
そもそも犬を飼うのは大変だ。責任が生じ、出費がかさみ、世話が焼ける。今回もけっこうな困難が待ち受けているかも・・・と覚悟していたのだけど、リンは予想に反してわりと手のかからない子だった(今のところ)。人がごはんを食べていてもせがみにこない。食事にもおもちゃにもそんなに執着がない。いつも人の様子を伺っており、嫌がりそうなことはあまりしない。吠えることも殆どない。吠えた対象は、猫と、無言でそっと玄関に近づいて来た電気屋さんぐらいだ。
大変なのはトイレトレーニングだけ。屋内でトイレシートにしてほしいというこちらの願いとは裏腹に、これまで屋外でしてきたであろう野犬ならではの習慣のせいかものすごい勢いで外に出たがる。そこで、夜中トイレに行きたそうにガザガサいったら所定の場所にすぐ連れていけるように最近隣で寝ているのだけど、私が寝ている間は起こそうとしない。ふと目を覚ますと同じような格好で寝そべって黙ってこっちをじっと見ていたりする。下手すると人間より空気を読むときがあって逆にちょっとこわい。

最初は考えもしなかったけど、性別も、耳の形も、毛色も、性格すら色々違うのになぜだかリンはどこか先代犬に似ている。変な話、先代犬の一部が混じって協調性が高まって人間っぽくなって帰って来たような感じだ。
「犬は三回生まれ変わって飼い主さんのところに来るって言いますからねぇ、そんな映画がありますよね」とドッグトレーナーさんに言われたが、リン、またここに来るために生まれ変わってきたのだろうか。
つらつら思う。人懐っこくてすぐお腹を見せて撫でてほしがるので本当に小さい頃どこかの優しい飼い主さんに可愛がられていたのかもしれない。脱走して野犬になってしまったのだろうか。だとしたら元の飼い主さんは悲しんでいるかもしれないな。リンは何を思っているんだろう。
でも結局のところ「なぜめぐり逢うのか私たちはなにも知らない」。もう二度と犬は飼わなくていいと思っていたところからしてみたら、やけに高いハードルを超えてなぜ飼うに至ったのか、そしてリンがなぜ早くもこんなにわが家にしっくりなじんでいるのか謎だけど、でもさいきん家族はなんだか幸せそう。みんなリンの無邪気な挙動を楽しそうに見ている。

ふと、人間も犬もあまりかわらないなあと思う。得意なことと苦手なことがあり、スタンドアローンな心と意思があり、何回も繰り返すと少しずつできることが増えていくし体はあたたかいし心臓が動いている。
人間と、いや私と違うのは、ご飯がでてきたり撫でられたり家族のだれかが家に帰ってくるたびに毎回、まるでW杯で優勝したかのように素直に喜びまくるところと、よく眠るところか。
見習わないと。いつも素直で明るくいるってことは、自分とまわりの幸せを拡げることなんだなあ、と思う。

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