見出し画像

『烏百花 白百合の章』感想

『烏百花 白百合の章』阿部智里 文藝春秋 2022/9/17読了

『烏百花 白百合の章』阿部智里/文藝春秋(表紙画像は版元ドットコム様より)

八咫烏シリーズの番外編の短編集。が、これを読み終わる直前に、実は番外編第2弾と言うことを知って衝撃を受けました。Audibleが次はこれって勧めてきたから……!
今度からちゃんと調べてから読むことにします。

この短編集に収められたのは8編。本編では語られなかったお話や、本編では出てこない人たちのお話です。
時代は過去から、刊行された時点の最新のものまでいろいろと。
好きだったのは『あきのあやぎぬ』。
好きというか……まだこんなとんでもない人物を隠していたのかと、そういう意味でびっくりしました。顕彦をメインに据えた(主役ではなく)話をまた書いていただけないだろうか、と真剣に考えてしまいます。
顕彦は西家当主の長男で、これまで本編に出てきた真赭の薄と明留の兄。恋多き人ということで、なんと側室が十六人。十七人目になりませんか、と声をかけられた環がこのお話の主人公。
側室が許されているとはいえ、十七人てどういうことなのよ?と思いつつも読み進めていき、まんまと沼にはまった気がします。私、この側室たちと似たような立場にいたらきっと顕彦のことを好きになってしまう。そうしてお方様のことも。

『はるのとこやみ』
東領出身の楽人の双子の話。そしてあせびの母親の浮雲の話。
なるほどあせびがああいう子になったのは、こういう母親と育ったからか。それとも天性のものだろうか、と考えてしまいました。どちらにしても怖いのは変わりない。
気になったのは、この話の後の東家。東家は浮雲を一体どのように扱っていたのか。それともどのように扱おうが、浮雲には全く関係なかったのかというあたり。
東家の当主のいろいろな評判を考えるに、単に放っておくというのも腑に落ちないような気もするし。
それにしても、何かしようとしても太刀打ちできないと思うんだ。浮雲とあせびには。想いを向けようと利用しようと画策しようと、この人たちには届かない。それがゆえに、最終的には思うとおりにはいかないと思うのね。

『なつのゆうばえ』
大紫の御前の少女の頃のお話。このシリーズ自体、視点が変わるとまるきり別の話になると以前から思っていますが、大紫の御前の少女の頃のお話を見ても印象はそこまで変わらなかったなぁ。
もちろん彼女の視点で見れば物語はまるで別の話になる、とは思いましたが、他の登場人物のときのように、この子の立場ならそうだよねわかる―、とはならなかった。
たぶんこの感覚はあせびにも、そしておそらく浮雲にも共通していると思う。そして、方向性は少し違うけど玉依姫の志帆にも通じるんですが、共感できないんですよね、彼女たちには。
まるで別の生き物みたいだ。

『おにびさく』
このお話の中でこれが一番純粋に作品として好きだ。鬼火灯籠はいつか見てみたい。
大紫の御前がこれには出てきますが、彼女の優しさを垣間見て動揺しました。その優しさが本物なのか、それとも気まぐれなのか、なんてことも考えました。

主要登場人物の出てこないお話を中心に感想を書きましたが、なんというか……本当に容赦がない。ものすごく綺麗で美しく楽しいお話と、容赦なく冷たい刃ですぱんと断ち切られるようなお話が同じ本に並んでいることの恐ろしさ。そしてその潔さ。
うまく言葉で表すことができなませんが、その鋭さが心地良い一冊でした。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?