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地方医療存続のために僕がすべきこと

年末にインフルエンザになり、多くの方が楽しみにしていた(はずの)院長室イベントINCHO!INCHO!INCHO!は当日キャンセルとなった。心も体も落ち込みabemaTVで放送していたRPG系アニメ全39話をうなされながら観たせいで、自分が現実にいるのかアニメの世界にいるのかわからず、一度薬草を買いに玄関先まで出てしまった。その後年越しは家族とバンコクで仕事もせずぼんやり過ごした。自分がいなくてもなんてことないな〜なんて考えている間に体は少しずつ元気になった。もう一度自分が進む道をおさらいしたい。

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病院での立ち位置

半袖ダウンが在宅診療部ユニフォームである当院は、回復期リハ病床40床、地域包括ケア病棟50床、医療療養病床100床、老健100床、介護医療院50床の計340床を有する。地域包括ケア病棟と在宅診療部は、昨年10月に立ち上げたばかりの出来立てほやほや、内部はバタバタ状態である。僕は、12月から院長件在宅診療部部長として、入院患者さん25名と在宅患者さん30名を担当させてもらっている。在宅患者さんは、重症者が多く月10~15名初診を行うも3割は1ヶ月以内にお看取りをする形となっている。病棟および在宅をフルサポートしてくれる事務方が12月から1名増え、コメディカル2名体制となった!(やった〜涙)

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掛川市って?

驚くことなかれ、掛川市は新幹線が停車する!(こだまがね)。富士山だって見える。東京から1時間半ちょっと、名古屋から1時間の立地で人口11万の地方都市だ。僕が訪問診療始めるまでは24時間在宅対応している医療機関は隣町にしかなく、掛川市だけ在宅医療が進んでいない状況だった。我々の病院は北部山岳地帯、南部沿岸地帯のちょうど真ん中あたりに位置し、訪問診療可能な半径16kmですっぽり掛川市が入っちゃうイメージだ。車で10分くらいのところに500床の中東遠総合医療センターがあり、この辺りの急性期医療を一手に引き受けている。(ちなみに中東遠の院長も宮地先生でダブル宮地院長状態という奇跡が起こっています。)

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掛川市人生100年時代構想

今年度掛川市は、全国の自治体で初めての人生100年構想を打ち出した。その中に地域包括ケアシステムの拡充や協働のまちづくり、多様性を認める地域社会構築などを新しく柔軟なアイデアを実現するには非常に良い環境となっている。そんな掛川市で何をやっていくべきか。

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病院が地域のハブになる

以前シンガポール視察でみたコミュニティホスピタルの機能が、日本にも絶対必要になるとここ数年頭から離れなかった。地域のニーズに応える病院機能と地域教育サポートやいきがいプログラムの提供は、その中でも非常に重要と感じている。実際に当院は、地域ニーズに沿った回復期リハ病棟や地域から入院を受ける地域包括ケア病棟、さらには在宅診療部を立ち上げることができた。今は住民向けにリハビリ講座を提供しているだけだが、今後は若者向けに高齢化や認知症の話をしたり、高齢者が生き生き自分らしく生きていけるプログラムを提供していきたい。この辺り行政とも協働していけるだろう。

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ICTによる情報共有

都市部では進むICT利用もここ掛川市ではほとんど利用されていない状況だった。在宅診療部立ち上げ前にまず行ったのは、情報共有ツールの選定。ものすごく個人的な評価の結果、静岡県医師会の提供するシズケア*かけはしとchatworkを選んだ。シズケアは、県内では広く利用され市民病院など大きな医療機関にも導入歴がある。中東遠総合医療センターでも利用されるならこのシステムと思い選んだ。また隣町の複数の家庭医療センターも活用しており、今後掛川市周辺地域でも合同の症例把握や知見共有に発展する可能性が魅力的と感じた。もう一つchatworkも加え2軸運用としたのは、シズケアが有料のために小さな事業所では運用が難しい点があったからだ。chatworkは前職でも使っており、連携事業所に無料で活用してもらうノウハウは持ち合わせていた。情報共有ツールは、その連携先の利用カバー率を高くする事が重要である。この2軸のシステムで連携先の8割以上をカバーすることを目指す。(今は5割程度かな・・)

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院内外でもシームレスな情報共有を

現在病棟と在宅の両方に対応することから、病棟にも同様にICTを導入した。病棟だけでなく、地域連携室、検査科、リハビリ室、医事課もネットワークに入った。これにより僕が院内外どこにいても病棟、在宅両方の情報が確認できる。また在宅の患者さんが入院した時そのまま僕が病棟主治医として対応しているが、入院中の患者さんの状況が在宅チームとも共有できるのはありがたい。さらには今までPHSで連絡を取り合っていた院内スタッフがこのシステムで情報共有し始め、思わぬ働き方改革が起こっている。さらには少し離れた同じ医療法人の病院と空床(病院ベッドの空き)状況を共有し、助け合う動きも出てきている。ここに急性期病院もネットワークに入ってもらえるとさらに面白い動きが出るだろう。(今度提案しに行こう〜、院長名札はこういう時だけ役に立つ)

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顔の見える関係づくり

SNSで連絡を取り合っていると、あれさっきの一言で不快にしたかな?よくわからないけど相手は怒っているのか?などあまり合わない相手とのやり取りは時に不安を伴う。医療におけるICT連携も同様であり、個人的には必ず顔を合わせる機会が必要と感じている。現在は月1回院内で多職種連携会を開催し上記のようなテーマで直接対話する時間を設けている。当院主催というより地域の課題を当院のスペースを借りて解決する活動になると嬉しい。また訪問の合間には、お世話になっている連携先を訪問し困っていることや需要を共有している。ここで吸い上げた課題はまた連携会にフィードバックし地域内で知見が循環するようにする。

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地域プロジェクトを立ち上げる

実際に動き始めているプ2つプロジェクトを紹介。一つは最後まで口から食べるプロジェクト。当院に入院してくる高齢者は非常に痩せている。正確な数字ではないが、平均BMIは18以下だろう。これは高齢者の推奨BMIが21以上であることを考えると、飢餓状態と言えるだろう。多くの高齢者が病気ではなく低栄養や筋力低下で亡くなっているのである。都心部では増えている栄養サポートチームも地方はまだまだ充足しておらず、有志で口から食べることをバックアップするチームを立ち上げ啓蒙を始めている。近い将来、地元食品会社や飲食店とタッグを組んで、地域の自立支援サポートをできると楽しいだろうな。もう一つは、在宅関係者はみんな大好きピア〜まちをつなぐもの〜 http://www.peer-movie.com/trailer/ の自主上映会。これを在宅多職種チームで開催すればグッとチームの距離は縮まるだろうし、まだまだ在宅医療のことを知らない住民にもどんなことをしているのか知ってもらえると思う。すでに上映会を何度も開催している猛者にアドバイスをもらいながら進めています。

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地域医療を都市部との人材循環で支える

現在掛川の活動を、僕は東京都の2拠点生活で行なっている。地方に来てみて専門職(特に医師)を確保するのが困難であることを痛感している。(そのためまだ夜は1人待機体制涙)かと言って、どれくらいの医師が地方に移住をしてくれるだろう。この2年ほどで複数の地方医療を視察し全ての地域に必要な人数だけ医師を配置するのは現実的でないことは確信している。でも1ヶ月だけなら離島の診療所で働くのはいいよ〜とか、週1回は温泉のある北陸の病院に行きたいなどのニーズはそれなりにある。今自分自身で2拠点で地方医療を支えながらどんな形なら都市部の医師が地方に来てくれるかを模索している。情報共有はフルクラウド化し、どこにいても把握できる。遠隔で指示や診察・面談ができ、自分が現地いない時でも細やかな指示が出せる。地方現地には患者さんのことよく知っているコメディカルスタッフがいて診察間隔の溝を埋めてくれる。どんな条件があれば地方に行ってもいいかぜひ共有してほしい。

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地方医療は現地との対話で築かなければならない

どんなに素敵な医療システムだと思ってもそれが医療提供者の価値観ベースでは地域に浸透しない。医療や介護提供者は、地域の課題解決案を創り上げながら、地域と対話しなければならない。地域医療はこのままでは崩壊する。小児科がなくなり、出産は近くの大きな街まで出なければならなくなる。地方は声を上げなければ少しずつその身を削られ痛みを伴う。同じ痛みを伴うなら、最低限必要なインフラを残せるよう住民と行政、医療従事者が対話をすべきだろう。もしかしたらかかりつけ医はモニターの向こうになったり週1回東京から来る医師になるかもしれない。だけどどこにもかかりつけ医がいない世界よりはいいかもしれない。各々の地域に、それぞれの需要があるだろう。これからは痛みを伴いながらも、自分たちの地域に必要な医療インフラを勝ち取らなければならない。僕はここ掛川での経験を生かしつつ、仲間とともにそんな地域の医療を支えることができたらいいなと思う。

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