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ファクトで押さえる「日本の移民問題」。在留外国人300万人時代をどう捉えるか

外国人労働者の受け入れ拡大が始まる今日だからこそ

今日、2019年4月1日に改正入管法が施行されます。「特定技能」の新設によって向こう5年間で新たに最大34.5万人の外国人労働者の新規受け入れが見込まれています。

ですが、このタイミングだからこそあえて言いたいことは、特定技能だけを見ていても日本の移民政策、日本の移民問題の全体像を理解することは不可能だということです。

ニュースは常に全体ではなく一部を報道します。技能実習生の話、留学生の話、収容の話、子どもたちの話などなど。これに今後は特定技能の話も加わってくるということなのです。だからこそ、個々のニュースを読み解く前提としての全体感を持つことがとても重要になります。

そもそも日本で暮らす在留外国人の数は昨年末時点ですでに270万人を越えています(273.1万人)。30年前の1989年にはこれがわずか98.4万人でした。この200万人近い増加は、これから特定技能で増加する34.5万人よりもはるかに大きいのです。

つい見逃してしまいがちですが、こうしたファクト(事実)を押さえることはとても重要です。

しかも、日本の移民政策は「現実」をマスクするために作られた数多くの「建前」だらけなので、なおさら現実が見えにくくなっています。

「いわゆる単純労働者」は受け入れないと言いながら、「技能実習生」や「留学生」などの形で事実上の非熟練労働者を大量に導入してきたことはこうした「現実と乖離した建前」の典型です。

そもそも政府は自らの政策が「移民政策」であるとすら認めていませんが、こういう言葉遊びに熱中したり付き合い続けていると現実がどんどん見えなくなっていきます。

全体感をフェアな目線で捉えるために重要なのは建前を一旦脇においてファクトを見ることです。

右や左のスタンスを取るのはファクトを知ったあとにしましょう。スタンスを先に取ると、ファクトが見えなくなります。ファクト→スタンスの順序が大事です。スタンス→ファクトをやってしまうと間違えます。色眼鏡で現実を見ることになるからです。

この記事では新著『ふたつの日本「移民国家」の建前と現実』(講談社現代新書)にもまとめた、今こそ知ってほしい基礎中の基礎となるファクトを簡単にまとめました。ファクトを知ることで、建前からの乖離を理解することができます。

3つあります。

(0)前提:「移民」の定義論に「正解」はない
(1)在留外国人の数は300万人に迫っている
(2)永住資格を持つ外国人は100万人を超えている
(3)国際的に見ても日本で暮らす外国人の数は小さくない

早速、順に見ていきましょう。

(0)前提:「移民」の定義論に「正解」はない

「移民」という言葉がとにかく引っかかるという方も多いと思うので、最初に片付けておきましょう。

重要なのは唯一無二の「移民」の定義はないし存在し得ないという考えてみれば当たり前のことを正しく理解することです。

「移民」にはたくさんの定義がありえます。

例えば、国連は3ヶ月以上その国に滞在する人々を「短期移民(一次的移民)」、同じく1年以上の滞在者を「長期移民(恒久的移民)」と呼ぶことが一般的だとしています。

が、これも一つの定義に過ぎないのです。なぜ3ヶ月であって6ヶ月ではないのか、1年であって2年ではないのか、これらについて誰もが納得可能な理由などないのです。国連もあくまで「その定義が一般的に使われていますよ」と言っているに過ぎないわけです。

国際移民の正式な法的定義はありませんが、多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意しています。3カ月から12カ月間の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的です。(国際連合広報センター

実際、更新回数に上限のない在留資格を持つものを移民とする定義もあれば、永住資格を持つ者を移民とする定義もあります。中でも入国時点で永住資格を持っている者のみにしぼりこむのが一番狭い移民の定義です(実は2016年に自民党が党内のプロジェクトチームで採用したのがこの最も狭い定義だったりします)。

そもそも、「国際移民」という言葉があるくらいですから「国内移民」もあるわけです。例えば、私は埼玉出身でその後15年ほど東京に住んでいますが国内移民でしょうか?埼玉と東京は近すぎるから違うでしょうか?ではもし私の出身地が群馬だったら?岩手だったら?北海道だったら?あるいはその先のロシアや中国だったら?

「移民」とはことほど左様に定義の難しい(=定義に「正解」のない)言葉なのです。だからといって無視できる言葉でも問題でもない。そのことはこの後に続くファクトを見ればわかっていただけると思います。

(1)在留外国人の数は300万人に迫っている

最も重要なファクトです。

先ほどすでに少し触れましたが、平成元年、1989年の在留外国人数は100万人未満でした。98万人しかいなかったのです。それが2018年末には273万人を超えていた、この事実は大きいと思います。

念のため書きますが、この増加は今日から始まる特定技能とは全く関係がありません。過去の話だからです。特定技能が始まる前に、すでに日本では300万人近い外国人が暮らしているのです。

ちなみに273万という数字は47都道府県中12位の広島県(282万人)と13位の京都府(259万人)の間くらいの規模になります(昨年10月時点)。

2018年末に273.1万人となった在留外国人数ですが、2018年の6月末にはこの同じ数字が263.7万人、2017年末には256.2万人でした。直近の半年間で10万人近く増えている。1年間では17万人近く増えています。

今後はこのペースに特定技能による受け入れの加速(5年で最大34.5万人)が加わります。昨年末が273.1万人なので、単純に計算すると、遅くとも2020年の何処かで300万人を超えることになります。

30年前の1990年ごろから在留外国人の増加ペースが一気に増え始めているのはその年に施行された改正入管法で日系人の受け入れが拡大されたからです。また現在の技能実習につながる「研修」の在留資格もこのとき新設されています。

平成の30年間は在留外国人が大きく増えた、いわば「移民の時代」だったというわけです。これを明確に意識してきた人は一体どれくらいいるでしょうか。

ちなみにこの273万人という数字には短期の観光客やビジネスパーソンが含まれていないのはもちろんのこと、在留資格を持たない非正規滞在者(少なくとも約7万人)、日本国籍を取得して帰化した人々、日本国籍者と外国籍者の間に生まれた日本国籍でかつ日本国外のルーツも持つ人々(ハーフやミックス、ダブルといった言葉で括られる人々の多く)は含まれていません。

(観光客などの短期滞在者を除いて)日本で暮らす日本国外にルーツを持つ人々を総計すれば、優に400万人を超えていると考えられます。

(2)永住資格を持つ外国人は100万人を超えている

これも重要なファクトです。とりわけ政府が「移民」を「永住」や「定住」のイメージと紐付けながら、自らの政策を「移民政策ではない」と言っているからです。

現実を見ましょう。日本の永住資格を持つ外国人はすでに100万人を超えているのです。

「特別永住者」という在留資格は日本の旧植民地(朝鮮半島や台湾など)に由来を持つ人々に与えられてきたものです。これを持つ人々は少しずつ減って30万人台で推移しています。

「永住者」という在留資格は、それ以外の外国人に与えられてきたもので、2000年ごろから急増しています。このタイミングは、1990年ごろから在留外国人が増えてきたことの大体10年後にあたり、日本で永住権の取得に必要な一般的な年数が10年とされていることと呼応しています。

ちなみに10年必要という条件は他の先進国よりもかなり長く、日本が永住のハードルを高くしていることを意味します。にもかかわらず、永住資格を持つ外国人は増えているのです。割合で見ても在留外国人全体の4割を超えています。

この現実は一般的に広まっている日本の移民政策のイメージ、つまり数年だけ滞在する出稼ぎ労働者をぐるぐる入れ替え続けている、というイメージと大きく乖離しており、意外に感じられる方も多いのではないかと思います。

公表されているデータを見るだけで、こうしたことがクリアに見えてくるわけです。

(3)国際的に見ても日本で暮らす外国人の数は小さくない

最後に、ではこの300万人という数字は、国際的に見てどうなのか。多いのか、それとも少ないのか。

最近「日本は世界4位の移民大国」といったタイトルの記事が数多く書かれていますが、やや誤解を招く書き方です。

事実を正確に見ましょう。それらの記事が根拠にしているのは、2015年のOECDの国際移住データベース(International Migration Database)による外国人の「フロー(流入)」の数値です。

留意が必要なのは、これが40カ国未満の先進国のみを対象とした調査である(だから「世界○位」のような言い方はできない)という点です。

加えて「フロー」というのは一時的に入ってきた量であり、その国に実際にどれくらいの外国人が住んでいるかという「ストック」の数値とは異なるという点にも留意が必要です。

(※さらに、「フロー」に限ってもOECDで4位とするのは数え方を誤っているのですが、これについてはやや複雑なので『ふたつの日本』の1章を参照ください)

日本で暮らす外国人の数を国際的に比較したい場合に見るべきなのは「フロー」ではなく「ストック」の数値です。同じOECDの2015年のデータベースの対象国の中で、日本は7番目に国内の外国籍者数(ストック)が多い国となっています。

日本は分母となる人口が多い(世界11位)ため、移民・外国人が全体に占める「割合」が相対的に小さくなり、その結果「移民が少ない国」という自己認識をしてきました。

しかし、実数ベースで見れば先進国でも有数の外国籍者が国内で暮らしています。しかもすでに見たようにその数はどんどん増えているわけです。日本には移民問題がない、あるいは他国に比べて相対的に重要ではない、そう考えることが本当に正しいことなのか、改めて考えさせられるデータではないでしょうか?

終わりに

ここまで「日本の移民問題」を全体像という視点で理解するために、1つの前提と3つのファクトを紹介してきました。

(0)前提:「移民」の定義論に「正解」はない
(1)在留外国人の数は300万人に迫っている
(2)永住資格を持つ外国人は100万人を超えている
(3)国際的に見ても日本で暮らす外国人の数は小さくない

特定技能や技能実習、留学生や収容、子どもの教育といった個別のテーマを理解し、そこにある様々な問題(人権侵害など)を議論するための前提として、こうした全体像の理解が広く共有されていることが欠かせません。

改正入管法が新しく施行される今だからこそ、こうした事実をぜひ多くの方に知ってほしいと思います。基礎となる事実を共有することではじめてフェアな議論が可能になるはずです。あまりにも多くの建前が横行しているからこそ、現実を見ること、ファクトを積み上げることの大切さを伝えたいと思います。

もう少し詳しく知りたいなと思った方は『ふたつの日本』を読んでみてください。日本という遅れてきた「移民国家」の建前と現実について、事実に基づきコンパクトにまとめました(図表50枚収録)。移民国家としての日本に対する解像度が、きっと大きく上がるはずです。

『ふたつの日本「移民国家」の建前と現実』
 はじめにーー「移民」を否認する国
 第1章 「ナショナル」と「グローバル」の狭間
 第2章 「遅れてきた移民国家」の実像
 第3章 「いわゆる単純労働者」たち
 第4章 技能実習生はなぜ「失踪」するのか
 第5章 非正規滞在者と「外国人の権利」
 第6章 「特定技能」と新たな矛盾 
 終章 ふたつの日本

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