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見えてきた新しいデジタルガバナンスモデルの方向性

6月20日にオープンデータ デイ東京が開催され、自分もプレゼンターの一人として参加した。様々な事例が一気に聞けて自分も非常に勉強になったのだが、この中でもいくつかの方向性が参加者の中でも共有されていたと思うので振り返りたい。

1.データ標準化+アプリケーションのオープン化

登壇者の多くは様々なデジタルサービスを開発、リリースしてきた方だったが、jig.jpの福野さんのCoovid-19のアプリに関する説明、横浜市石塚さんによる育ナビの説明、アスコエ北野さんの支援情報の標準化の説明などに共通していた考え方では、
①データ構造や形式を標準化して横展開していくことで同じように扱えるデータを増やす
②標準化したデータを扱えるアプリケーションをオープンにして自治体をはじめとするどんな主体でも取り入れられるようにする
ことが重要ということだったように思う。福野さんが象徴的におっしゃっていたのは「CSV+Githubをスタンダードに」という言葉だ。行政のITリテラシーが十分でなくてもCSVでのデータ公開は可能である。そして平本補佐官からもコメントがあったようにオープンソースでGithubなどでライトに開発を進めることで、実際にオープンデータがどのように活用可能なのかをオープンソースのソフトウェアとして示していくことで、さらに他の主体によるオープンデータが進むというポジティブサイクルを生み出していくことが重要ということだった。これは今後の行政サービスデジタル化でもキーとなるコンセプトの1つだろう。

2.プラットフォームとしての行政

庄司先生や吉本さんの発表でも述べられていたように、行政がプラットフォーマーとして機能することが求められている。つまり社会の基本的な機能を提供する全ての能力を政府が持つ必要はなく、様々なステークホルダーのケイパビリティをコーディネートすることで問題解決につなげることが求められている。裏返して言えば行政が全て事業を抱えて行うことの難しさを示している。給付事務についても様々議論あるが、詰まるところ行政の今の能力を直視し、場合によっては他のプレーヤーとの連携を通じて解決した方が効率的だということだ。コロナウイルス対策ページをシビックテックの有志が開発し、それを行政が公式化するといった会津大学の藤井さんの説明などもこれに当たる。
吉本さんのご説明ではデジタルプラットフォーマーと同じような立場に行政はなれるかと言う問いがあったと思うが、行政がGAFAと同様のデジタルケイパビリティを持つことはかなり難しく、相当な行政構造改革を伴わなければならないと考える。一方でデジタルプラットフォーマーと連携し、そのケイパビリティを活用することは可能だ。加古川市の多田さんのKintoneやSAPのサービスを活用した給付の事例や、Line福島さんの事例はこれを示していたように思う。
一方でデジタルプラットフォーマーの方がケイパビリティが高い場合、彼らの方がデジタル分野ではルールを握るということが起きうるため、この点についてどのように考えるべきかは引き続き議論がある。例えば今回コロナウイルスの接触確認アプリについてアップル、グーグルは公衆衛生当局に1つのアプリのみ発行権限を与えるとした。これが複数の団体が既に有志でアプリ開発に入っていたにも関わらず、厚生労働省が発行主体となり、調達から進めなければならなくなった理由の1つでもあると考える。社会的な混乱を避けるためには確かに複数のアプリの乱立よりも1カ国1アプリで公的主体の認可を得たものが望ましいと考えられるため、合理性もあるのだが、アプリマーケットプレイスをApple, Googleが握っているため、そのルールに行政も従う必要が生じているとも言える。行政が恣意的に規制する構図は望ましくないが、社会システムを効率化する上でどのように政府がデジタルプラットフォーマーと協調モデルを作っていくのかは今後さらなるプラクティスと検証が必要だろう。

3.社会アーキテクチャーの共有

異分野間がデジタルデータで連携し、サイバー・フィジカル空間が融合するソサエティ5.0の社会では、どのようなデータ・アプリケーションを標準化・共通化させるべきかを社会全体の最適化の観点から考える必要がある。平本補佐官の説明にもあったが、個人・法人・土地等の基本情報は様々な官民手続で利用されるため標準化した方が、社会全体の効率性が高まる。これをベースレジストリーと呼んでいる。加えてデジタルIDは「サイバー上の自分」を「フィジカルな自分」と結びつける役割を持つため、これもフィジカルな世界と結びつくような活動においては共通化されていた方が便利だ。さらに社会の様々な領域単位でどのような機能、アプリケーションを標準化・共通化するべきかを整理し、様々なステークホルダーで共有することが重要だろう。これらがきちんとマッピングできれば、社会のリファレンスアーキテクチャーを描くことが可能となり、それを下敷きとして自分たちが今対応している課題が何なのかを議論しやすくなるのではないか。富士通研究所の大槻さんのお話もこれにつながるものを感じた。
スマートシティやSDGsの評価も社会構造を共通のアーキテクチャーに落し込み議論することの取組でもあると言え、それをどこまでステークホルダーで共有し、建設的に議論できるかが、取組を前進させられるかどうかの試金石になる。協調領域と競争領域の整理はこの社会アーキテクチャーの設計に直結することになる。

まとめ

上記のような点が今回のオープンデータ デイの中でもかなり登壇者の共通の感覚として持たれていたように思う。これまでのコロナ対応の中で得られた行政のデジタル領域での経験が、デジタル化を一歩先に進めるためのヒントと課題をもたらしてくれたのではないか。これらの視座を一過性のものとせず、さらに社会に展開し、新しいスタンダードとしていくことがデジタル社会実現を加速し、新たなガバナンスモデルを築いていく。


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