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結婚式で嫁にサプライズをしたら、一次産業から加工までを行う方々にリスペクトすることになった話。

私ごとではあるが、先日結婚式を挙げた。
初の社内婚ということで多くの同僚や旧知の友人に囲まれ、飲めや歌えやの稀有なひととき。このために1年近く準備をしてきたと思うと、感慨深いものがあった。

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新郎新婦サイド関係なく会場全体がOneteamになった披露宴後も、もちろん宴は続き、二次会開催に至る。

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今回、このnoteではその二次会で私から嫁に対して「とあるサプライズ」を贈った背景、過程、そこでの気づきをありのままに、ドキュメンタリー動画と共に記していきたいと思う。昨今の鬱々とした6時のニュースの合間にご笑覧いただければ幸いである。

※本記事は約6300文字の投稿となっている。長すぎて早く結論を知りたいという方は最下部にムービー(尺17分)を掲載しているので、そちらからご覧いただければと思う。

結婚式でサプライズを私にして欲しい

「私が言うのもなんだけど…」
半年ほど前のとある休日の昼下がり。そう枕詞を置いて切り出したのは何を隠そう嫁本人である。結婚式の日になんなら「サプライズ合戦をしようぜ」と。

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もはやサプライズなのかが不明ではあるが、この言葉を聞いてハレの舞台で一発、新婦はもちろん忙しい中、時間を割いて来てくださる列席者の記憶に残ることをしなければと思う私がそこにいた。
そうなると、よくある手紙の朗読やフラッシュモブのようなサプライズをやるのも芸がない。果たして何が良いのだろうか。

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冒頭の披露宴の様子から垣間見れるかもしれないが、我々夫婦はゼクシィに載っているようなシュッとした感じではなく、どちらかと言うと立ち飲み屋の瓶ビールをこよなく愛す、宮川大助・花子師匠のような上方漫才的な夫婦である。(むしろそこを目指している)

つまり、小綺麗にカッコつけた感じではなく、みんなが笑ってくれるようなサプライズが好ましい。

クレイジーな明太子を作ろう。

「嫁が喜ぶものは何か?」そして、「皆が笑ってくれることは何か?」と言う2つの観点から企画を検討し始めた。
嫁が好きなもの。ビール、日本酒、美味しいパン…
基本的に「糖質かプリン体」ではないかと、この時愕然としたがその中でも「明太子」が熱烈に好きであることを思い出した。

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つまりプリン体である。

おそらく明太子風呂があったら狂喜乱舞しながら浸かるくらいの明太子フリーク、それがうちの嫁だ。では仮に、明太子をあげるとした時に、「皆が笑ってくれることは何か?」をどう満たすか。

行き着いた答えは「やりすぎ(クレイジー)」と言うことであった。

振り切ったことをしないと中途半端なありきたりな内容になる。最低でも明太子の材料を一から手に入れて、自分で漬け込んでいく、くらいのことをしなければならない。そして、その様子をみんなに臨場感を持って見てもらえるVTRにまとめる。

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上記、一連の企画立てを、以前仕事でご一緒した某テレビ局ディレクターと話し合い、約4ヶ月間かけた「クレイジーな明太子制作密着VTR」として制作することに決めたのであった。

実のところ、元々は単純に二人の馴れ初めムービーをディレクターに作ってもらう予定で、途中まで密着していただいていたが、「サプライズして?」の流れから馴れ初めムービーを密かにサプライズムービーへ変更することとなったのだった。

明太子はどこにいる?

明太子の元は「たらこ」。つまり鱈の卵である。鱈の子供が唐辛子やら何かで浸けられている代物、それが明太子。ネットで調べる限り「スケトウダラ」と言う鱈の卵が使われているらしい。

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(引用:Wikipedia)

どうやらスケトウダラは北海道で収穫でき、12月〜4月が産卵期だと言う。
つまり、真冬の北海道でなんとかして漁船に乗り込み、収穫をする必要性が出てきた。

普通に考えて素人ができる釣りではない。

北海道の漁師に知り合いなんぞいないし、一般人に船を出しているような会社は調べる限りない。「早速、詰んだ」と、天を仰いだ。

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だがもちろん、ここで簡単には諦められない。
(なぜならすでにこの時、明太子以外のいくつかの企画を検証・調整を図ったが頓挫しており、明太子案は最後の望みであった)

我々が所属する会社の強みは8000件以上のプロジェクト実行者がいることである。誰かお力添えいただける方はいないだろうか。
と言うことで、福岡の担当に連絡をし、辛子明太子の製造をしている島本食品様をご紹介いただくこととなった。

島本食品さんに事の経緯をお伝えしたところ、全力でフォローをして下さると言う連絡とともに、北海道の漁船調整、明太子づくりのいろはをご教授いただくことになる。
ただ、結果的に冬の漁船に同乗し、収穫まで素人が携わることは危険すぎると言うことで、北海道でのスケトウダラ収穫はできないこととなる。

至極当然な事である。

全く顔を合わしたことのない輩にも関わらず、懇切丁寧に対応してくださったご担当の坂本さんにはこの場をお借りして深く御礼を申し上げたい。
ありがとうございました。
(2020年3月8日現在、島本食品さんがマクアケで新しいプロジェクトを実施中なので、是非ともみなさん応援購入していただけると嬉しい)

助けてマダラ

スケトウダラが収穫できなくなったことにより、代替案を検討するしかない。スーパーで生たらこ買うか、はたまた密漁へ出るか。前者はクレイジー要素がなくなるし、後者は捕まるので不可であろう。

「タラはスケトウダラ以外ではダメなのだろうか…」

ふとそう思い、検索をかけるとタラはタラでも「マダラ」で明太子を作ったと言うレシピや記事がいくつか散見された。味はスケトウダラよりも劣るらしいが、背に腹は変えられない。

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▲真鱈

藁にもすがる思いで釣りができる方法ないか、と調べたところ宮城県は仙台からマダラ釣りへ一般の人も出航できることが判明した。釣れるか釣れないかは行ってみないとわからない。そもそも釣り方すらわからないがこれしか手はないであろう。

と言うことで年末の仕事納めをした翌日に
「ラグビー部と結婚式前に最後のハングオーバーをしてくる」
と言う謎の嘘を嫁につきながら、レンタカーを借りて渋谷から仙台へと車を走らせたのであった。

夜空ノムコウにはマダラがもう待っているのか

0泊2日の仙台弾丸マダラ釣りが決行された。19時ごろに渋谷を出た私とディレクターの2人は翌0時ごろに仙台につき、2〜3時間仮眠。朝の4時ごろに出船して太平洋のど真ん中まで向かうスケジュールである。体力勝負の弾丸撮影だ。

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VTRではスムーズに船上にいるが、順調に仙台から出航できたかというともちろんそんなことはない。私が長靴ではなくスニーカーと言う軽装備であることや、釣り方をYoutubeでイメトレしているくらいで全く詳細まで詰められていないと言う状況にディレクターに「終わった。不安すぎる。」と叱られながら乗船している。

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私は不機嫌なディレクターとの険悪な空気を流すために「なんとかなりまっせ」「ほら星空めっちゃ綺麗ですよ、すごいっすね」などと軽口を叩いていた。実際、太平洋のど真ん中、真冬の星空は人生の中で最も綺麗だった。

そんなことよりマダラは釣れるのかいな。

太平洋は優しくなかったけれど、おじさんは優しかった。

朝6時ごろに釣りポイントへ到着して、各自自前の竿で釣りを始める。
無論、こちとら何もわかっちゃいない。海釣り経験はワカサギ釣りくらいである。

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荒れ狂う波の中で、皆これから魚と戦う準備をしている今、お前のことなんぞ構っている暇はないと言わんばかりに空気は殺伐としている。
見よう見まねでこちらも準備を始め、まもなく、自分の置かれている状況を悟った。

「詰んだ」と。

カメラを回すディレクターの「言わんこっちゃない」というため息が聞こえたような気もする。

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結局、ベテランの釣り人たちのお手すきを狙って
「実は、よ、嫁にタラを釣りたいんす…」と末っ子力を使いながら、電動リールのセット方法から釣る時のポイントまでをご教授いただく。
怖いどころか終始心配な眼差しで気にかけてくれたおじさんたちには感謝の念しかない。

他の釣り人よりもスタートがだいぶ遅れながらも、なんとか釣り始めることができた。ビギナーズラックでなんとかなるに違いない。そう信じながら、4時間くらいが経過した。

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おじさんたちは釣れているのに、一向に釣れない。

釣れないどころか、船酔いでダウンしたディレクターの「風に乗った吐瀉物」を顔面に受けながら竿を握っていた。太平洋は初心者の我々に対しては全く優しくなかったのだ。

そうこうしているうちに最後の投入の合図がかかる。

本当にこれで最後である。自分の計画性のなさを祟ったが、O型だから致し方ない。おじさんが釣ったタラをどうやって譲ってもらおうかと、半ば諦めかけていた。

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が、奇跡が起きた。全く生きる気力を失っているタラが一匹引っかかっているではないか。

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これに関して、ムービーを見た方々からは

「最後に自分でタラを引っ掛けて海に放したんだろう」
「釣れた時の反応がそんなに喜んでない気がする、怪しい」

という声が多く挙がったので全力で釈明をしておきたい。

そこまでの計画性があれば、ディレクターから叱られるような状況にはなっていないと。ドキュメンタリー番組と同様、やらせ一切なしで進めている。

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船上で終始見守ってくれていた船長や周りの熟練おじさんたちに温かい言葉をかけてもらい、謎の一体感を醸しながら仙台へ帰港することとなった。

タラコなのか白子なのか、それが問題だ。

渋谷までなんとか戻り、マダラをさばく事になる。しかし問題はこのタラが雌なのか雄なのか、つまりタラコを持っているのか、白子を持っているのかがわかっていない。(マダラは見た目では雌雄がわからない魚らしい)
予備のタラがあるわけでもないのでもはやギャンブルで渋谷まで戻ってきている。

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結論から言うと、もうこれは日頃の行いが良かったとしか言いようがない。無事タラは雌で卵を持っていた。あとはこれをなんとかして嫁にバレないように漬け込み、明太子へと昇華させることに力を注ぐだけである。しかし、ただ漬け込むだけではその辺の明太子と一緒ではないか。

鰹節の職人にリスペクト

明太子を作るには漬け込む出汁が必要であり、それは鰹節からとることになる。今更、細かな説明は不要かと思うが、鰹節も一から燻して作っていくことにした。鰹を買って燻製にすれば鰹節になる。そんな単純な甘い考えであった。

一般的に専門業者が鰹節を作るには120日をかける。家庭で自作するとしても1日3時間×7日連続で燻す必要がある

ネットでこの情報を目の当たりにした時、マダラ釣り経験をした身として、まず鰹を釣りあげる漁師さんへの深いリスペクトを覚えた。そしていつも数百円で買っている鰹節が120日もかけて製造され、食卓に届いていると考えると製造メーカーには畏敬の念しかない。ちょっといい食料品店で数千円の鰹節をたまに見かけて高いと思っていたが、なんてことない、むしろ安いくらいである。

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「大量生産をしているから価格が安くなっているといえど、スーパーに行けば数百円で明太子や鰹節が手に入る。これを当たり前だと思ってはいけないのではないか?」

単純に明太子を嫁に贈ろうとしていた自分はいつしか、収穫から製造を行うまでの手間や労力、技術に尊敬と感謝の念を覚えていた。これまでぬるい考えだった自分を恥じる。僭越ながら少しでも製造者の方たちの手間や苦労を理解する意味でも、私も一から鰹節を作ってみよう。

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結果、見事に失敗した。

会社の会議室も異臭騒ぎになってしまった。
いろいろな方へ頭を下げたい気持ちでいっぱいである。
製造者の方達への畏敬の念はさらに増したのは言うまでもない。

明太子には唐辛子。唐辛子といえば

韓国である。よくよく調べると明太子自体は韓国が発祥らしい。そう考えると明太子が福岡の名産というところもなんとなく合点がいく。
クレイジーな明太子を作るのであればその韓国まで、唐辛子を買いに行こうということで、大阪出張の流れで有給をいただき、関西国際空港へ向かった。南海電鉄に揺られながら何度も「鶴橋で良いのではないか…」と思ったが普通の明太子になってしまうことは避けたかった。VTRの尺にして数十秒のためではあるが、そこは致し方ない。

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人生初の韓国へ一人向かい、人生初の自撮り棒で実況をしながら、市場へ向かう。市場には大量の唐辛子はもちろん、皮肉にも大量のマダラ、大量の明太子が売られていたのであった。

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リスペクト明太子

こうしてタラコ、唐辛子、その他材料が揃い、実際に明太子として漬けていくことになる。漬けると言ってもまずは塩漬けに丸一日。そして、唐辛子と出汁で作ったつけ汁に一週間つけていく。

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ここでもまた、私は明太子製造会社へリスペクトをせざるを得ない。時間的な手間はもちろん、そもそもスケトウダラではないということもあるが、普段食べるあの明太子の美味しさはそう簡単には実現できないのである。
私は何を今までのうのうと明太子を食べてきたのだ。明太子への感謝が足りなかったことに対してひれ伏して謝りたい。少しもの償いとして島本食品さんのプロジェクトを再度宣伝させて欲しい。

果たして嫁は「美味しい」と言ってくれたのか

これまで書いてきた流れはもちろん、ことの顛末はこちらのムービーをご確認いただければ幸いである。

ちなみに結婚式の二次会では実際にネタ明かしとしてこのムービーを流し、実物を再度プレゼントをした。

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今回、一連のサプライズは嫁と式の列席者の喜ぶ顔のためという単純な目的から始まったが、それとは別に何か大切なことに気づかされたとも思う。具体的にいうと大きく3つである。

1.一次産業の方々へのリスペクト
己の肉体と勘に頼って自然と戦い、安定した収穫が約束されないという外部環境に左右されながら世の中に価値を提供し続けていく。そんな一次産業の方々がいてくださるおかげで我々の食卓は成立している。これを当たり前だと思って、無為に食材や料理を無駄にすることは改めて減らしていこうと思った次第である。

2.加工品に仕上げる職人の方々へのリスペクト
鰹節も明太子も長い時間と手間をかけ、あの美味しさを実現していく。そんな過程を恥ずかしながら普段の生活では全く想像もしなかった。そしていざ実践してみるともちろん簡単には理想の状態にすることはできない。これまで、鰹節や明太子はスーパーで数百円で買えるのが当たり前であって、1000円を超える物ならば高いと思っていたが、今は安いと思える。鰹節や明太子に限らず、今後は世の中の加工品ができるまでの手間や技術に思いを馳せながら、作り手にリスペクトをしていきたいと思う。

3.周りの方々あっての我々
今回のムービーを完成させるにあたって、多くの方々が見返りなしでサポートをしてくださった。4ヶ月密着でムービーを作成してくれたO久保ディレクター、北海道のスケトウダラ収穫に最後までご調整を図って頂いた島本食品の坂本様、島本食品さんを繋いでくれた弊社九州担当泉野くん、真鱈釣りの最中にずっと気にかけてくれ、共に喜んでくれた見知らぬおじさんたち…
他多くの方々の支えでこの企画の実現、その中での多くの学びを得ることができた。また、今回のサプライズ準備に限らず我々夫婦が日々楽しく過ごせているのは、様々な人に支えていただけているおかげだと実感。この場を借りて深く御礼を申し上げたい。

どうもありがとうございました。

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