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20代・30代の百貨店への戻りは60歳以上の1.5倍! ~コロナ継続を見据えて百貨店が取るべき道とは?~

スマホ位置情報データ(※1)を使って、高島屋大阪店を対象に、緊急事態宣言解除後の来店者及び周辺大通りの通行者数とその属性を、昨年同曜日と比較分析しました。
その結果、従来の高島屋大阪店のメイン顧客であった60歳以上の来店の戻りが若い世代の戻りに比較して遅く、早期に店舗に戻り始めた20代・30代による“リベンジ消費“が行われているのではないか、と考えられる調査結果を得ました。
調査結果を基に、今後の百貨店の集客・販促のあり方を考えてみたいと思います。

サマリー

① 通行者の戻りに比べ、百貨店の来店者の戻りは限定的
② 但しそれは元来メインの顧客層であった60代以上の高齢者の戻りが限定的なため。一方で20代・30代は戻りが早い
③ 消費傾向もラグジュアリーブランドなど、ECでは買いにくい高単価商品の可能性が高い

上記調査結果から、百貨店の従来のメインターゲットであった高齢者の客足の戻りは、20代・30代と比較すると、より長い時間がかかることが予想され、今後は若い世代の来店割合が増加することが考えられます。よって、百貨店は今年度など短期的に売上を回復するためには、従来の高齢者をメインターゲットとした品ぞろえや集客施策から、20代・30代の、特にECでは満たされない消費の取り込みへと、施策をシフトする必要があります。

調査の背景

5/25(月)全国的に緊急事態宣言が解除されましたが、大阪では東京等に先立って5/21(木)に解除が通知されました。
緊急事態宣言の解除に伴って、休業していた多くの小売店が営業を再開し始めています。営業再開に当たり、小売業ではポスト・コロナに向けて、自粛疲れによる“リベンジ消費”や 今後の消費のあり方の変化が注目されています

緊急事態宣言後10日間での高島屋大阪店への来店者及び周辺大通りの通行者の対2019年人出・属性分析を通じて、来店者の戻りを明らかにした上で、その消費傾向を推測していきます。

比較対象は、大阪での緊急事態宣言解除後の10日間の昨年同月同曜日とし、人出の調査時間は高島屋大阪店の営業再開後の営業時間である10:00-19:00としています。また、通行量は高島屋大阪店に面するなんきん通りの通行量を調査しました。

緊急事態宣言後、百貨店への来店者の戻りは通行者に比べ限定的

位置情報データから、通行者、来店者ともに徐々に戻っているものの、通行者が8割程度回復しているのに対して、来店者は6割程度の回復にとどまっていることが分かります。

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これは、高島屋が少人数来店を推奨し、混雑時には入店制限をするなどの取り組みの効果とも考えられます。現場の様子からも、来店者数は未だ限定的な回復にとどまっていることが分かります。

“再開されたのは衣料品や生活用品などの売り場で、全体の6割ほど。宝飾品など高額品の売り場は休業を続ける。この日、午前10時にオープンした大阪店の前にはいつものような人出は見られず、開店待ちの客は数人とまばらだった。”出所:産経新聞(5/18)

20代・30代の来店の回復は、60歳以上の約1.5倍

また、位置情報データからは、①百貨店の来店者は多くが60歳以上であること、②60歳以上に比べるとそれ以下の年代で来店者の回復が早いこと、が分かります。
特に、20代・30代では、対昨年比7割近くになっているのに対して、60代は4割程度と若い世代と高齢者層の来店の回復速度には約1.5倍と大きな差が生まれていることが見て取れます。

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大阪以外に東京都心の様子からも、若者の外出が顕著のようです。

“東京 渋谷では、若者向けファッションビル「SHIBUYA109」など一部の大型商業施設はまだ営業を再開していませんが、都の休業要請の段階的な緩和を受けて再開した飲食店やアパレル店も多く、午前中から多くの若者や買い物客が訪れています。”
“東京 原宿の竹下通りは、多くの店が営業を再開していて、以前の週末よりは人出が少ないものの、買い物や散策を楽しむ若者や家族連れでにぎわっていました。”出所:NHKニュース(5/30)

高齢者と若者の来店者数の回復の差は、高齢者の新型コロナウイルス重症化リスクが若者に比べて高いとされ、高齢者の自粛意識が依然高いことが要因でしょう。

今後、新型コロナの第2波、第3波といった持続的な影響を見据えると、早期での60歳以上の消費者の店舗への戻りは期待しづらく、20代・30代の来店者に占める割合が拡大し、メイン顧客が一時的に変動する可能性も考えられます。

リベンジ消費は、百貨店が扱う“不要不急”の商品に向かう?

外出自粛時期に抑えられていた購買意欲は、百貨店で購入できるような高級ブランドの商品等に向かう、ということが推測されます。

リベンジ消費は「コロナ禍において外出を制限され、不要不急の買い物を我慢してきた人々の購買意欲が爆発的に高まること」と定義されます。(※2)
外出自粛によって、不要不急とされ、かつ、自宅からECサイト経由では心理的に買いにくいものが自粛期間を終えると、購買されやすい傾向にあることを指します。

百貨店の場合、ラグジュアリーブランド、宝飾品等の高級品や化粧品、衣類といったアイテムが、リベンジ消費の対象となります。

東京都心では、リベンジ消費による個人の購買意欲の高まりと見られる現象が実際に起こっているようです。

“銀座に路面店のあるカルティエやティファニーには、開店前から約50人ほどの列ができた。「コロナ禍で予定を組み直した挙式などに合わせ、至急で結婚指輪などの購入のため、店に行ったのでしょう。若めのカップルが多かった」とブライダル関係者。”出所:東スポWeb(6/1)
“伊勢丹新宿店(東京・新宿)は入店時に消毒とサーモグラフィーの検温を実施するなど、感染防止を徹底して再開。5月30~31日の来店客数は朝の開店時は行列ができたものの前年比3割減で、売り上げも1割減った。同25~31日の売り上げが前年実績を上回ったカジュアル衣料のしまむらも「自粛の反動や給付金の効果で一時的な伸びの可能性がある」と冷静に見る。”出所:日本経済新聞(6/2)

銀座のラグジュアリーブランドで行列ができていることからは購買商品1点当たりの単価の上昇が考えられ、客数に比べて売上の減少が小さいことは顧客単価の上昇を示唆しています。

今後の百貨店では、より年代別にターゲットを絞った施策が重要となる

百貨店は短期的に売上を回復するためには、従来の高齢者をメインターゲットとした品ぞろえや集客施策から、20代・30代の消費の取り込みへと、施策をシフトする必要があります。

ECでの購入に心理的障壁があるラグジュアリーブランド、時計・宝飾品の品ぞろえを従来の高価格帯のみでなく、比較的若い世代にも手が届きやすい価格帯の商品も揃えたり、店舗でのフロア配置を変更することが有用でしょう。また集客施策では、従来のOOH広告やダイレクトメールから、若者を対象にしたSNSやオンライン広告をより一層強化することが考えられます。

一方で、高齢者の来店の戻りが長期に渡ることを想定し、在宅でも消費が可能なカタログ販売やテレビ通販などの施策も強化していくべきです。

最後に

最後までお読みいただきましてありがとうございました!
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注釈

※1使用データについて:今回の分析には、KDDIがauスマートフォンユーザーの許諾を得て取得した位置および属性情報を利用しています。データは誰のものかわからない形式に加工され、国勢調査などをもとに拡大推計処理を実施したものです。
※2出所:「リベンジ消費って?アフター・コロナで「爆買い」される商品・サービス予測」(Ferret)

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