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優良企業の本質(2) -ダルビッシュ選手が語るオープンイノベーションの可能性-

 メジャーリーグのサンディエゴ・パドレスに所属(2021年現在)するダルビッシュ有選手(以下、「ダルビッシュ選手」と書きます。)がセ・リーグとパ・リーグの実力差がついた要因をYouTubeで語っています(※1)。
 ダルビッシュ選手が語った内容は、日本のものづくり産業においても大いに参考とすべきオープンイノベーションの可能性を示す内容だと考えました。これは実際に選手としてプロ野球の現場でプレーした人でないと知りえない貴重な情報であると考えます。
 ダルビッシュ選手が語るセパ両リーグの実力差がついた本質的な要因は、作戦力やDH制ではなく、ライバルチームにも良い情報・ノウハウをオープンにして共有するパ・リーグ球団と、徹底した秘密主義のもと対戦する競合相手の足を引っ張るセ・リーグ球団というリーグとしての体質差から生じた進化力の差なのだそうです。そして、こうしたパ・リーグの進化において最先端を走ってきたのがソフトバンク・ホークスであり、ダルビッシュ選手が北海道日本ハム・ファイターズでキャリアをスタートさせた2005年当時既にホークスには、その基礎が出来上がっていたそうです。
 ダルビッシュ選手が考えるプロ野球選手が成績を残す上で重要な要素はフィジカルだそうです。このフィジカルとは①トレーニング、②栄養、③休養の3つのバランスで構成されているそうです。つまり闇雲に身体を酷使して鍛えるのではなく、プロのトレーナーの指導のもと科学的な根拠に基づきウェイトトレーニングを実施し、科学的根拠に基づきプロ野球選手として必要な栄養をとり、しっかりと休養もとるという考え方です。
 ダルビッシュ選手は、こうした考え方と情報をソフトバンク・ホークスの球場施設に行って初めて知ったそうです。2005年当時既にホークスにはウェイトトレーニングをバランスよく効果的に実施するための施設が完備されていたそうで、更に施設には選手個人個人に合ったサプリメントも置かれていたそうです。更にダルビッシュ選手は、こうした施設を見て情報を得ただけでなく、ホークス関係者の人から考え方も教わったそうです。そしてダルビッシュ選手は、この経験から、他人と情報・ノウハウを共有することで、他人の未来の可能性を広げることの有益性を強く感じたそうです。
 このようにパ・リーグでは対戦する相手チームにも自球団の施設を開放して利用できるようにしているそうですが、セ・リーグでは対戦相手チームに自球団の施設を限定的にしか利用させない(ウェイトトレーニングルームについては全く使わせない)そうです(※2)。
 またパ・リーグでは、こうしたお互いに情報・ノウハウを共有する文化ができあがっており、お互い切磋琢磨しながら競い合い、リーグ全体としての進化に繋がったようです。その最先端を走り続けているのがソフトバンク・ホークスであり、その差が15年で顕著になってきたということですね。
 このダルビッシュ選手が語った内容は、ものづくり産業におけるオープンイノベーションの可能性にも通じるものがあると考えました。徹底した秘密主義のもとライバルの足を引っ張ることに力を入れる企業と、他社に技術を開放して他社の技術を上手く取り入れる企業とでは、長い目で見れば、その進化に差が出るということです。
 このオープンイノベーションの話をすると必ず出る異論が「技術をオープンにして何で競合と差をつけるのか!」というものです。それはインターネットの無かった時代の発想です。またオープンというと全てをオープンにする訳ではありません。ソフトバンク・ホークスも全ての情報を他球団にオープンにしている訳ではありません。例えば、ホークスは将来有望なアマチュア選手は誰で、その選手をどのように評価しているかという情報までオープンにしないでしょう。ソフトバンク・ホークスの強みは、他球団が目をかけていない実績はないが潜在的能力を有する選手を発掘し、育成契約から一流選手にまで育て上げる高度な育成システムを有するところでしょう。
 オープンにするところとクローズにするところを分ければいいのです。問題はその線引きができているかどうかであり、その線引きを行うのが“戦略”なのです。
 今後も引き続き特許を取ることは必要だと考えます。特許を取れば、その特許技術を開放するか開放しないかの権利が得られる訳ですから。
 ただ、現代のように変化が激しく、その変化が速い時代では、情報をクローズにして囲い込む戦略よりも、情報をオープンにして他社の力を上手く取り入れる“進化力”こそが競争優位の源泉になるものと考えます。
 情報がオープンになっているから他社は「この会社と組むべき」と判断できる訳ですし、情報をオープンにすれば色々な情報も入ってくる訳です。
 そして、忘れてはならない大事なことは、オープンイノベーションとは手段であり目的ではないことです。オープンイノベーションを実施する目的は、この変化が激しく速い時代に勝ち残る“進化力”を組織的に身につけることだと考えます。

※1:2020年12月10日に配信されたYouTube「【ダルビッシュ有】ソフトバンクV4 セリーグ・パリーグの違い、なぜここまで差がついたのか・・・【切り抜き】」より
※2:この話はダルビッシュ選手がNPBに在籍していた2005年から2011年当時の状況をベースに語られたもの

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