
P17_映像の身だしなみ 丨 『東京彗星』オンラインパンフレット_映画制作とは⑥仕上げ作業〈映像〉
僕の監督映画『東京彗星』の、
紙パンフレットとは別の"オンラインパンフレット"。
本作を例に、映画制作がどうやって進むのかを書くシリーズです。23日まで毎日更新します。
①プリ・プロダクション
②ロケハン、オーディション、リハーサル
③撮影(のときに考えてること)
④具体的な撮影記録
⑤地獄の仮編集
につづき、コラムと紙パンフレットへの愛をはさんで、今日からやっと、仕上げの解説です。
仕上げにはいろいろな段階があります。本作では、
〈映像〉
・カラーグレーディング(色調調整)
・CG制作
・モーショングラフィック制作
・画面制作
・本編集(合成作業)
〈音〉
・音楽制作
・主題歌制作
・効果音制作
・MA(整音作業)
といった段階がありました。今日は〈映像〉の仕上げ作業についてひとつひとつ書いていきます。
カラーグレーディング(色調調整)
これはですね…毎度めっちゃこだわるわりに、あんまし詳しくないんであんまし語れないんです。ざっくり言うとほんと、 "映像の色を調整していい感じにする"という作業です。Da vinchiというソフトを使って、1ショット1ショット、暗く落ちている部分をさらに暗くしたり、青や赤などの色要素の強弱をつけたりして、いい感じの色合いにしていく作業。
感覚的にはInstagramに投稿するときにフィルターをかける感じに近いです。instaのフィルターにあたるのがLUT(ラット、アクセントは野球の"バット"じゃなくて、"やっとできた"の "やっと")というもので、「フィルムLUTをあてるとフィルムっぽくなる」みたいなことが起こります。ただフィルターあてるだけじゃいい感じにならないので、細かく細かくやっていきます。この作業をカラーグレーディングといいます。
【Before】カラーグレーディング前の撮影素材
【After】カラーグレーディング後の完成素材
ね、グレーディングしたあとの方がいい感じですよね!!!!
視線が自然と、主人公とテレビに行くようになっているし、左端の壁のいらない情報は落とされています。手前の食器カゴも。カウンターのツヤは綺麗に出てるし、なにより全体がこのシーンで主人公が感じている不安に沿った色合いになっています。
だって最強のカラリスト(カラーグレーディングのプロフェッショナル)、長谷川将広さんと、スーパーカメラマン伊藤仁さんと、めっちゃコンつめてやりましたから。ありがとうございました。
…しかしこれ以上カラーグレーディングに関して書くとボロが出そうなので、技術的なことはここでやめておきます。しかし、カラーグレーディングはめっちゃ大事です。大事じゃない工程はありませんが、これは大事です。
自主映画を観て(観せられて)、「映像が安っぽいなぁ…」と思ったことはありませんか。それはたぶん、高確率で照明と、このカラーグレーディングに手がまわらなかった作品です。映像の安っぽさを忘れるほどのおもしろさでお客さんを満足させられれば別にいいっちゃいいのですが、観る前のお客さんが予告編なんかで「映像が安っぽい…」と思って観に来なくなっちゃう、これがもったいないです。
反感買いそうですが、カラーグレーディング始め、映像の仕上げ作業は映像の"身だしなみ"だと思います。このへんを適当にやることは、顔洗わずにボサボサ髪で舞台に立つようなものです。こういうことです。
逆にここを放棄した場合…映像が安っぽいのなんか知るか!と覚悟を決めた場合なにが起こるかというと。劇場に座ってもらえさえすれば、ときに観客のハードルが下がります。未完成品に見えるからです。
人は作品にふれるとき、完成度が高ければ高いほどハードルも高くなり、観る目も厳しくなります。
完成して流通した漫画の絵よりも、ラフな描きかけのネームの方が画力を褒めたくなりませんか?
完璧に踊ってめっちゃカット割って撮られたダンスPVより、ラフに撮ったリハーサルのダンスのを1カットで見せられる方が、ダンスうまい…!と思っちゃいませんか?
"未完成感"というのは、 "観客に素晴らしい完成を脳内補完させる"という魔の力があると思うのです。
カラーグレーディングなどの仕上げ作業が雑なままの作品は、最初のうちは内容も雑だと思いこんで観ます。しかし内容はまともにやってると、「安っぽいわりにはまぁまぁおもしろいな…」と、褒めモードになるのです。たぶんね。
学生にしちゃがんばってる、初作品にしちゃがんばってる、低予算にしちゃがんばってる。
(このへんの話は、僕のnoteの最初の記事と次の記事に詳しく書いてます)
某アイドルグループ以降、そういう期待値とのギャップやダメっぷり、そして成長過程を愛しく思い熱狂すること自体もエンターテインメントになっています。それはそれで、おっけー。熱いもん。
しかし、僕はハナっからそこによっかかりたくはない。
ダメなりにがんばるのを応援するエンターテインメントは全然アリなんですが、そういうストーリーに人が熱狂するなら、そういうストーリーをすげー完成度でプロが描いた作品的なものの方がつくりたい。
現代はみんなリアル桜木花道を探していますが、桜木花道という架空の人物を見事に描くスラムダンクという完成度の高い作品の方を、僕はがんばりたいと思います。
あー、話がそれました!
カラーグレーディングは手を抜かないほうがいいんです!ということです!日本のテレビドラマでもたまに撮影やカラーグレーディングをこだわってやってるのありますが(羽住英一郎監督のドラマは特に)、基本はなんか、バラエティみたいな画質のが多いですよね。海外ドラマに勝つなら最低限カラーグレーディングちゃんとやったドラマが標準になってほしいなぁといち視聴者として思う、今日このごろです。
ちなみにデビッド・フィンチャーはグレーディングの鬼です。『セブン』の音声解説では、「このショットのブラピの手元がピンクがかっているのは今でも後悔している」とか言ってます。
CG制作
本作はSFディザスター映画にもかかわらず、フォトリアルCG(かっこいいモーショングラフィックとかではなく、実写的表現にCGを使うこと)は1ショットのみです。選択と集中。CGを彗星が東京に落ちてくる1ショットのみに絞って、これはイギリスで映画制作をしているBillに頼みました。Billは僕の友達の奥さんの友達の旦那です。日本で1回飲んだときに映画や映画のCGというかVFX(ビジュアルエフェクト)をつくってると聞いていたので、満を持してお願いしました(しかし誘われた飲み会には極力行っておくものです。あの日「今日は先約が…」なんて言ってたら、このショットはないわけですから)。
オーダーとしては、
・11秒かけて空を横切り、最後は爆発してホワイトアウト
・わりと激し目に明滅したい
・彗星にも見えるけど、ミサイルにも見えるようにしたい
・煙が残って拡散していく感じがほしい
というものです。
お台場のテラスから撮った東京の撮影素材と、彗星のリファレンス(こんな感じにしたいという参考資料。今回はチェリャビンスクの隕石落下映像を参考にしました)を渡し、Billにお願いしました。
落下してくるスピードは彗星だとするとちょっと遅いのですが、ミサイルなど "突然やって来る命の危機"全般を感じさせたいというか、そういう不安の象徴としての彗星なので、リアルな彗星のスピードよりも "じんわりやってくる怖さ"を優先したくて、細かくオーダーさせてもらいました。
さすがBill、素敵につくってくれました。これがその、カラーグレーディングや本編集を施す前の、元データです。
ここからどうやって完成映像になるのかは、この記事の最後に説明します!
モーショングラフィック制作
Adobe Premiereで、撮影した素材で流れをつくる仮編集を終えたあとに、オープニングだけはPremiereじゃできないようなかっこいいものにするべく、モーショングラフィック制作に入ります。
手がけてくれたのは、世界に誇るスーパーアーティスト集団、flapper3。
社長の中村くんは僕の大学の同級生で、いままでもCMの仕事などでお願いしたことはあったのですが、こちらも満を持して人生賭けた映画のオープニングでも力を貸してもらいました。
このタイミングでこういうショットを入れたい、というのは仮編集でつくっておきました。オーダーとしては、「このオープニングをflapper3の力でバッチバチにかっこよく磨いてくれー!任した!じゃ!」というもうざっくりしたものでした。彼らを信じてましたから。
でもざっくり任せたら、あとからチマチマ言うのはナシです。言うつもりもなかったですが、言うまでもなかった。オープニングが送られてきて、自宅のPCで確認したときは思わず叫びました。やべー!!!!夜中だったので、奥さんに怒られました。
これはもう、とにかく観てもらうしかありません。オープニングは、観客のハートを鷲掴みにしてこの作品の世界に没入してもらう、大事なパートです。学生の頃から、めちゃくちゃこだわって、めちゃくちゃ大事にしてきました。ほんとにほんとに、flapper3に頼んで、よかったです。ありがとう。
画面制作
この映画には、いろんな画面が出てきます。
ニュース、スマホ、新聞…あ、これだけか。でも超大事です。映画の中のニュース画面が雑だと、冷めますよね。邦画でよくあります。『シン・ゴジラ』は超ちゃんとしてた。すごかった。で、僕もそういうところで冷めるのは避けたかったので、いろいろ研究したうえで、ふだんから一緒に仕事をしていた東さんと宇都さんというこれまた最強チームにオーダーしました。
こちらがそのオーダー表の一部。絵コンテをベースにまとめました。
で、つくってもらった画面の一部がこちらです。
がーさすです。
こういう画面が本作にはめちゃくちゃ出てきます。2人のおかげです。ありがとうございました。
本編集
映像の流れをつくる仮編集にたいして、確定した映像に磨きをかけるのが、本編集。画面や要素の合成や、バレ消し(画面に映ってちゃいけないものを消す。ワイヤーや、機材など)、そしてCGなど別部隊でつくった素材を一画面にまとめる作業。これはMac Book Proではできません。Autodesk社の専用のソフトで、専用の編集室で、専用のアーティストが手がけます。今回は数々のCMを一緒にやってきた、デジタルエッグの白崎さんに託しました。いやー、前のめりでいろいろやってくれました!ありがとうございます!
オーダー表は、こんな感じ。
たとえば、撮影現場に間に合ってなかったテレビ画面の中の映像を、実際にテレビに映っているかのように合成。
↑あとでやりやすいように撮影現場ではブルーの画面を出して追いて…
↑別日に撮って、フレームを合成したニュース映像を…
↑本編集で綺麗に合成します。
ニューススタジオの撮影は本編(メイン)撮影の後日日程だったので、ニュース画面がテレビに映っているショットは全てこの本編集で合成してもらいました。
他にもいろいろやってもらいましたが、劇中で合成だと気づくショットはいくつあるでしょうか…?
劇場でお確かめください。
さて最後は、このような映像の仕上げ作業が全て統合されたショット、彗星衝突シーンです。
↓元データはこれです。撮影した実写に、彗星のCGを載せた状態です
↓そこからカラーグレーディングをかけ、本編集で街の明かりを消す。
↓そして最後に、制作した緊急画面を合成して…
完成です。
このようにいろんな人にお願いして、いろんなことをやって最終的にできる映像。全ては劇場でお客さんのハートを揺さぶるという1点のみのため、全員で取り組んでいます。
この彗星衝突ショットがどんな場面になっているのかは、本編でお確かめください!!
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