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【建築】ル・コルビュジエの傑作と絶賛されるサヴォア邸は好きですか?

多くの人にとって最も身近な建築といえば"住宅"だろう。そして近代建築の歴史において必ず名前が挙げられる住宅がサヴォア邸である。もちろん傑作として紹介されるのだが、果たしてサヴォア邸はそんなにスゴいのだろうか?




パリから電車で30分。

郊外の街ポワシーで降りる。

駅から趣のある石畳の住宅街を歩くこと20分。

フェンスで囲まれた一画に出た。


敷地に入ると、木々の向こうに一棟の住宅が見えてくる。


サヴォア邸。
フランスで保険会社を経営していたサヴォア家の別荘である。1931年の竣工。
あまりに有名で今更説明の必要もないが、ル・コルビュジエと従兄弟のピエール・ジャンヌレの設計による住宅だ。


依頼主であるサヴォア家は、コルビュジエにほぼお任せだったそうだ。そのためコルビュジエは比較的自由に設計することができた。これまでに考察してきた新しい生活様式や機械化が進む時代における建築の役割について、それらを集大成として実現する機会にもなった。


連続した水平窓が印象的なこの建築は、四方どこからでも同じように見える。
1階をオープンな空間(ピロティ)として建物を持ち上げており、"浮いている"ようにも見える。細い柱と緑色の壁が浮遊感を強調している。


ちなみにコルビュジエが基本設計をした国立西洋美術館も同じく持ち上げられた構造となっている。なお国立西洋美術館が開館したのは1959年。その頃にはサヴォア邸は酷いことになっていたのだが、それは後程。


こちらの面に玄関がある。

玄関には車を横付けできるようになっていた。

ガラスの壁が描く曲線も、車が旋回しやすいように考慮されている。


中に入ると正面にスロープが伸びている。


コルビュジエ建築においてスロープは重要だ。スロープは階段に比べて歩きやすいので、異なるフロアをスムーズに結ぶという役割がある。国立西洋美術館でも、1階のホールと2階の展示室をスロープがつないでいる。


もちろん階段もある。この螺旋の階段がまた美しい。この曲線の具合はおそらく黄金律に基づいてデザインされたのだろう。


1階はピロティや車庫の他に使用人の部屋などがあるが、


家族の生活拠点は2階が中心となる。


夫妻の寝室は水平窓から自然光が入るので、とても明るい。窓の向こうの木々の緑も心地良い。


寝室には浴槽が付いているが、その間に仕切りはなく、カーテンのみである。

南欧風の青いタイルとリクライニングシートのような長椅子。天窓から光も入るので、足湯で本など読みながらノンビリするのも良いかも。


収納スペースは通路に配置。


隣には夫人の部屋がある。白が基調となっているこの建築では、真っ青な壁はインパクトがある。


ところで「水平窓なんて普通じゃん」と思うかもしれないが、当時は珍しいことだった。というのは、伝統的なヨーロッパの建築はレンガや石などを使い、壁で建物を支えていた。なので大きな窓や横長の窓を設けることは難しかった。
しかし20世紀に入り鉄筋コンクリートが本格的に使われるようになると、柱・梁・床で建物を支える構造となり、壁を自由にできるようになった。特にコルビュジエは柱と水平スラブ(床)によって建物をつくっていたため、部屋の仕切り方や外壁デザインの自由度がさらに高くなったのだ。


水平窓がない廊下には天窓を設けている。


こちらはダイニングルーム。少々殺風景なのが寂しいが、実際にサヴォア家が住んでいた頃は生活感もあったろう。


ダイニングルームの反対側にはリビングが続いている。
水平窓だけでなく、テラスに面した大きなガラス戸からも光が入る。ヒーターと暖炉があるが、暖房はあまり効かなかったらしい。

ガラス戸を開け放して、テラスと一体的につなげることもできる。


玄関から続くスロープは、テラスを経て屋上庭園までをつなぐ。

屋上庭園ではプライバシーが考慮され、一部は高さのある壁となっている。

風景を切り取って見せるピクチャーウィンドウもあるけれど、

どうなんだろう?


今でこそ隣には学校があるが、当時は雑木林が広がり、周辺に家は少なかったという環境の中で、わざわざ屋上に庭園をつくる必要があったのだろうか?(この建築が街中にあるのなら、屋上庭園は有用だと思うが...)


さてこのサヴォア邸、美観を優先して軒や樋を付けなかったため、白い壁は雨水により汚れやすくなってしまった。 また完成した時から雨漏りの問題もあった。1939年には第二次世界大戦が勃発し、翌年にはパリがドイツ軍に占領された。このような事情から、サヴォア家は10年ほどしかこの住宅を使わなかった。

戦中はドイツ軍やアメリカ軍に占領され、建物は大きなダメージを受けた。
戦後にサヴォア家は戻ったが、とても住めるような状況ではなく、結局この住宅を手放した。建築は使わなければ荒廃してしまう。日本で国立西洋美術館が開館した1959年頃の写真を見ると、廃墟同然である。


その後は取り壊しの危機もあったが、建築家自らの働きかけもあり、1965年にフランスの歴史的建造物に指定され、ようやく建築としての評価が高まった。そして1985年から1997年にかけて全面的な補修工事がなされ、一般公開された。
2016年にはこのサヴォア邸をはじめとする16の建築物がユネスコの世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品」に登録され、現在に至っている。


サヴォア邸は近代建築史におけるエポックメーキングの一つであり、後の建築家に多大な影響を与えたことは間違いない。


とまあ、ここまで書いてなんだが、皆さんはこの家に住みたいだろうか?
個人の感想だが、私はあまり住んでみたいとは思わなかった。雨漏りとか暖房の効率性は別として、デザインや素材的に好みではないのだ。どこか冷たい印象を受けてしまった。
コルビュジエは住宅について「The house should be a machine for living in. (家は住むための機械であるべきだ)」とも述べている。この言葉を正しく解釈できないが、どうも理論や機能が優先されているような気がしてしまう。

そこは「Organic architecture(有機的建築)」をコンセプトとしていたフランク・ロイド・ライトとは対照的だろう。
私はライト建築の方が好きである。落水荘の方が好きである。


でもそんな心配する必要はない。どちらにも住むことは絶対に出来なのだから。

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