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【建築】日陰が心地良い木陰雲(石上純也)

九段下の交差点から靖国通りを上り、靖国神社大鳥居の手前を右手に入ったところにある旧山口萬吉邸。

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昭和2年(1927年)に建てられ、現在は会員制ビジネス・サロン「九段 kudan house」となっている趣のある邸宅だが、今回はその庭園につくられた”期間限定”のパーゴラを訪れた。

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パーゴラ(Pergola)。
庭や軒先などにあって、つる性の植物を絡ませる格子状の棚のことだ。日陰棚とも呼ばれるそうだが、藤棚の方が分かり易いかもしれない。

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良い塩梅で張り巡らされたパーゴラの下に居ると、陽の光を適度に遮ってくれて、とても心地良い。

ただし建築的には、たとえ植物が絡んでいなくても、

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棚になっていなくても、パーゴラと呼ばれることはある。

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さてkudan houseのパーゴラ。パビリオン・トウキョウ 2021というイベント(2021/7/1〜9/5)において、建築家やアーティストによる建物やオブジェが東京都内各所に設置されているが、コレもその一つである。

庭園には邸宅内を通らずとも、玄関前を横切って直接アクセス出来る。
門をくぐると、既に奥の方にチラッと見えているが、

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この穴だらけの屋根がパーゴラ。しかし実はこのパーゴラ、只者ではない!

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パーゴラは庭園全体に張り巡らされている。

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庭園の敷地は決して広くない。そこにある木や植物は雑多にも見えるが、雑草も少なく、飛び石なども含めてキチンと手入れされていることが分かる。

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ところで、このkudan houseは周りをビルに囲まれている。

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生い茂る木々により、普段からビルはあまり見えないと思われるが、パーゴラはビルをほぼ完全に隠し、周りの喧騒から切り離された世界をつくっている。

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これほど庭園全体が覆われると、さすがに晴天でもやや薄暗い。しかし必ずしもそれが悪いということではない。陽射しがキツい8月のこの時期は、日陰があった方が、少なくとも視覚的には涼しげに感じる。(暑いことには変わりないが...)

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さらにあえて光を遮ることで、木漏れ日や開口部からの光が強調される。

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パーゴラを構成する素材は焼杉。強力なバーナーで焼いた杉だ。
焼き方にも濃淡があり、場所によっては焼き切ったりもしているので、素材そのものも様々な表情を見せている。

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焼杉を使うことによって、このパーゴラもまるでずっと昔からココにあるかのように見える。あるいは、廃墟というか火事の焼け跡に、植物が逞しく成長しているかのようにも見える。

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どれが元からある木で、どれが焼杉なのか分かりにくいほど溶け込んでいる。

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焼杉の黒によって、パーゴラから見える空の青さが映えて美しい!

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邸宅前の敷石スペースは開口部が大きく、比較的明るい光が降り注ぐ。
そこには建築家が以前設計したKAIT工房の椅子が置かれていた。素材はスチール、デザインは直角・直線的という完全な人工物で、庭園やパーゴラの自然素材とは対照的で興味深い。

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表面には花のスケッチ?がプリントされている。

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このオブジェは東京で発生した工事残土で作られた「Earth Library」。建築家・遠野未来さんによるアート作品であり、前年の2020年に設置された。

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今回は期間限定のイベントということもあり、そして注目の建築家による作品でもあるので、混雑こそしていないものの、それなりに人が訪れていた。
そこで気付いたのだが、私を含めた来訪者は、決して広いとは言えない庭園の中で、あらゆる方向に向けて何十枚もの写真を撮っていた。パッと見、どれも同じような構図であるにも関わらず...。
確かにインスタ映えする風景ではある。しかし他にも理由はある。
それは実際にこの空間に居ると何とも言えない心地良さを感じて、それを留めておきたくて、つい多くの写真を撮ってしまうのだと思う。


以上、今回紹介した建築はこのパーゴラのみである。パーゴラだけで1本の記事を書いてしまった。まあ私が勝手に書いただけであるが、それにしてもそうさせる建築家は只者ではない。

その建築家・石上純也さんは、個人的見解であるが、世界中の建築家の中で、現在最も頭がおかしい建築家だと私は思っている。念の為申し上げておくが、これは最大級の褒め言葉だ。

正直、今回のパーゴラはその”おかしさ”という点では控えめだが、”期間限定の建物”にも関わらず、場所の選定、素材、工法、工期(このパーゴラはイベント開幕後、他のパビリオンに遅れること1週間後にようやく完成した)などに妥協無く取り組んだのであろうということは、明確に感じ取ることができた。



住宅街にある洞窟のようなレストラン(石上純也)

ガラス壁が屋根を支えるオランダの自然公園のパビリオン(石上純也)

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