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平等に対する考え方の違い【連載】人を右と左に分ける3つの価値観 ―進化心理学からの視座―

※本記事は連載で、全体の目次はこちらになります。第1回から読む方はこちらです。

 そもそも右派と左派では、平等や公正(フェア)に関する考え方が異なるという話もあります。20世紀を代表する自由主義の思想家であり、経済学者のフリードリッヒ・ハイエクは、

「人間が生まれつき平等だと考えるのは正しくない。……もし彼らを平等に扱ったとしたら、その結果はその人の実際の位置に対して不平等になるにちがいない。……[したがって]平等な位置に置く唯一の方法は、さまざまな扱いをすることであろう。よって法の前の平等と実質的な平等は、異なるだけでなく、たがいに衝突する」

と書いており、哲学者のアイザイア・バーリンやカール・ポパー、ロバート・ノージックも同様の指摘をしています。
 能力や才能が違う生徒に同じ教育を施したり、仕事上の成果や業績に関係なく平等な給料を支払うことは逆に、不平等だと右派は考えます。彼らは、平等に反対しているわけではなく、働きや能力に即した配分こそ平等でフェアだと考える傾向にあります。そして、怠け者や能力のない者を援助するために、勤勉で才能あふれる人々から税金や給料を横取りし、再配分することの方が不公正だと考えます。このように頑張って働いた分だけ、あるいは成功した分だけもらえるという「因果応報(比例配分)」を右派は重視し、人々が自分の努力に見合った利益を確実に手にする一方、働かざる者が分不相応な利益を得られないように配慮します。たとえば「一番よく働く社員が、最大の報酬を受け取るべきだと思いますか?」などといった道徳観に関する質問をすると、左派は否定こそしないものの、あいまいな態度を取ることが多いのに対して、右派は、たいがいその種の見方を熱心に支持します(注4)。

 左派があいまいな態度を取るのは、比例配分としての公正が、彼らが重視する思いやりや、抑圧への抵抗、平等主義と衝突する場合があるからです。左派は、「因果応報(比例配分)」における報酬や仕事上での成功・失敗は、幸運や環境に大きく依存すると考え、富の偶然性を強調します。そのため、貧しい人たちや下層階級の中にも優れた人が埋もれており、彼らが差別や偏見などの社会的要因によって抑圧され、ケイパビリティ(潜在能力)を十分に発揮できていないと考えます。これらの社会的要因によって給料の安い仕事にしか就けないため、子どもに高等教育を受けさせることができずに、貧困の悪循環にハマっている人がたくさんいると感じているのです。下層階級の中にも優れた人がいるというのは事実で、これまでにもシェークスピア、フランクリン、パスツール、リンカーン、ファラデーなどの天才や偉人が下層階級から輩出されてきました。

 結局のところ、大志ある人のインセンティヴを削ぐぐらいの平等社会ではなく、貧困層に転落した人たちのケイパビリティ(潜在能力)が台無しにならないぐらいのバランスのとれた社会が最も活力があるといえるのかもしれません。

注4. YourMoral.orgのMFQバージョンBを参照。また、YourMoralブログの、公正に関するデータについての議論も参照。


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