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ありがたい助言でも迎合せず

 どこが悪いのかよくわからないが、自分はどうやら嫌われやすい人間らしい。気づいたのは、はたちのころだった。いく先々で年長者から露骨ないじめにあうからだ。

 アルバイト先ではほぼ例外なく、就職先でも必ずやられた。またか……と思い、すっかり慣れてしまった。嫌なことばだが、適度に迎合していれば、嫌われ、いじめられても落ち着いてくる。

 さっさと転身してしまったのは、二度目に転職した小さな広告代理店だった。経営者から彼の蒔(ま)いたトラブルの対応をめぐって理不尽ないじめがはじまった。関係していたクライアントの担当者からも「やめるべきだ」といわれ、半年でやめた。

 次の会社が75歳まで置いてくれた出版社だった。35歳で入社したとき、やはり、いじめっ子がいた。「またか……」と思ったが、慣れていたのでたいして苦にはならなかった。

 目立たずに生きて、定年まで失敗のないように勤め上げて終わるつもりだったが、誤算があった。女房の親の縁故(コネ)で入ったので、裏でこの親たちがなにかと経営者に頼み込んでくれいた。入社時、母親からも女房経由で、「なにがあっても10年は辛抱してほしい」といわれている。

 40歳をいくつか過ぎたころ、昇進して副編集長になった。ぼくは、女房が両親に伝えるであろうと思い、彼女に「あとは自分でやるから……」といった。まわりを見ても、中途入社の人間はこれが限界だった。

 副編集への昇格でさえ、社内からの風当たりは強くなっていた。なおさら、これ以上の出世は望まなかった。やがて、ぼくの処遇に困ったジュニアの社長から、編集から外す旨の通告があった。うれしかった。風当たりも確実に弱くなるはずだ。

 それでも、出世した意気軒昂な生え抜きのひとりから、「会社をやめたほうがいい」とのありがたい助言が何度となくあった。むろん、迎合しなかったおかげで75歳まで在職できた。

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