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 リンドウの用途を広げる育種に挑戦

 

話し手  瀬戸啓一郎さん

長野県のほぼ中央部、中央を天竜川が流れ、西側に北アルプスの山々が連なる上伊那郡箕輪町で父が創業した有限会社スカイブルー・セトを引き継ぎ、リンドウを育種し、苗の販売と切り花を生産している瀬戸啓一郎です。

私は、農林水産省の農業者大学校を卒業して、23歳で就農しました。

  切り花リンドウの栽培は、長野県の農業改良普及員の勧めもあって父が始めました。好きな山登りで見るリンドウの花を見て商売になるのではと考えたようです。そして、我が家でやっていた米、豚、果樹をすべて手放してリンドウに転換してしまったんですよ。

 当時は、品種の概念もなかったし、山採りのリンドウを畑で作っていたのですが、市場から品質向上を求められるようになりました。昭和52年(1977年)に岩手で初めて品種改良が行われ、父も新品種を開発すればさらに多くの買い手が増えると、育種を始めました。

 その結果、昭和60年(1985年)に仲間と始めて育種した「奥信濃」を登録するなど、多数の新品種を開発することができました。

 スカイブルー・セトを設立したのは、昭和63年(1988年)が、私が父の仕事に就く頃までは切り花生産のみで苗の出荷はしていませんでした。岩手県でリンドウの生産が増え、長野県も頑張ろうとの流れが起き、めずらしいリンドウを作りたいという生産者の要望が強くなり、農家にオリジナル苗の販売を始めました。

 でも、私は自分たちが作った苗に農家に人たちの生活がかかっているので、苗を売ることに反対だったんです。しかし今では、責任の重さを痛感しながらもやりがいも感じています。


  我が家の当初の育種は、交配したものを系統選抜▾して一代雑種▾の品種を育成するもので、花色も多岐にわたる品種を多数育成しました。リンドウは仏花としての利用が多いので、お盆や彼岸に需要が集中します。しかし、開花がずれることがあったので、仏花以外の需要を広げる必要がありました。また、リンドウはフラワーアレンジメントで洋花等の他の花と合わせにくいと言われていました。

 そこで花の大きい存在感のある品種を作ろうと、信州大学農学部の故中山昌明教授に相談し、各器官が大きくなる倍数体育種▾を行うことにしたんです。それは、通常2倍体のリンドウを薬品処理して4倍体を作り、その4倍体に2倍体を交配して3倍体を育成しようという試みでした。3倍体にすると稔実しにくくなることから、うまくゆけば他者に作られずに品種を保護しやすいからです。

 その結果、その育種開始後から9年経った平成14年(2002年)にリンドウでは世界初の3倍体品種「マイティイラブ」を開発することができました。予想どおり、3倍体品種は大きな花となり茎葉のバランスが良くて鑑賞性が高く、洋花とのアレンジでも好評を得られるようになり、フロリアード国際園芸博覧会▾でも金賞をいただくこともできました。また、この3倍体品種の育成により、平成27年度(2015年度)の民間農林水産研究開発表彰で父と私は農林水産大臣賞を受賞させていただきました。

 我が家で生産した苗は、秋田県、山形県、岩手県等の東北地方を主体に全国の生産者に販売し、切り花は名古屋、大阪などの各市場に出荷しています。プラグ苗▾の生産システムを確立して全国供給が可能となり、栽培マニュアルとともに各地に出荷しています。

 

主な9月咲き品種

これまでに品種登録した品種数は77品種で、国内市場で25%のシェアを占めるまでになりました。リンドウは一部の地域でしか作られていない花だったので、初めての人が作るのは困難なので、農家を訪ねたりして栽培方法も教えるようにしています。

 私は、父の仕事を引き継ぎながらも、時代のニーズに合った花づくりをしようと考えています。父が取り組んだ仏花や装花▾は見栄えが優れ、高い評価があるものの日常の暮らしに向かないという思いがあり、もっと小輪系や華やかな八重咲の花など幅広く利用できる品種にも力を入れています。そのようなリンドウらしくない品種にも目を向け、スタンダードな品種などにも偏ることのない育種を心がけようと取り組んでいます。

 育種育成に当たっては、目新しいものも大事ですが、育てやすさを最も大事にしています。苗を育てる生産者がいてくれるから、うちの仕事が成り立っているんですからね。

 スカイブルー・セトのモットーは、花を使う立場になって育種をすることです。ですから、全く違う花にも視野を広げてインスピレーションを膨らませたりしています。でも、自己満足にならないよう、花屋やお客の意見も聞いて構想が膨らんだら、わが社のベテランの育種家とも相談してカタチにもっていくことにしています。これからも、作ってくれる生産者に喜んでもらえる品種を育成に取り組んでいきたいと思います。

#長野県箕輪町   #奥信濃   #仏花以外の需要   #倍数体育種
#3倍体品種   #マイティイラブ   #洋花とのアレンジ
#フロリアード国際園芸博覧会金賞
 
 
             用語(▾印)解説
 
 ▾系統選抜:生物では1個体からたくさんの種子が採れるが1つの個体か
              ら採れる子を群としてまとめて育成することを系統育成という。個
              体ごとに次の世代を系統育成するが、系統群間及び系統間の選抜を
              系統選抜という。
 ▾一代雑種: 生物において、異なる2つの系統の交配により生まれた第一世
              代の子孫をいう。
 ▾倍数体育種:通常の2倍体の染色体(遺伝情報の発言と伝達を行う生体物
              質)より、染色体を多く持つ倍数体を人工的に作成する育種法。
 ▾フロリアード国際園芸博覧会:国際園芸博覧会はオランダのハーグにあ
    る国際園芸家協会(AIPH)に認定された博覧会で、フロリアード国
    際園芸博覧会は10年に一度オランダで開催される国際園芸博覧会。
    花博とも呼ばれている。
 ▾プラグ苗: プラグトレイというプラスチックに多くの穴が開いている育苗
    用トレイに種を蒔いて移植(定植)できるまで育苗した苗。
 ▾装花: 結婚式場でバージンロード、披露宴のメインテーブルなどを装飾す
    る花。

           

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         ❀全国新品種育成者の会❀ 


   当会は、活発な民間育種の推進、新品種とそれを作った育種家の保護
  を目的に優良な育種家などによる講演会の実施、育種の先進機関などの
  訪問研修、優良な個人育種家の表彰、種苗や品種登録制度等に関する問
  合せへの対応と情報の提供、機関紙の発行等の活動をしています。新品
  種の無断増殖や販売などの侵害など、長年労力をかけて育成した育種家
  の苦労を踏みにじるような事件が続く中、準会員として育種家でない方
  でも、育種家の立場を守ろうと思う方なら、どなたでも加入できます。
   よろしくお願いいたします。

 

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