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上京してから行きつけの歯医者が見つからず10年以上経過した人は意を決して歯医者に行くと虫歯じゃない治療が始まる

今、毎週歯医者に通っている。先週は十数年ぶりに抜歯した。麻酔されたのはもちろん分かっているのだけど、そこからどのタイミングで抜歯されたのか全く分からなかった。麻酔効いてますか?からのまだちょっと痛いですねの繰り返しの中で「はい、これ抜けた歯です。歯石ありますね。持って帰ります?」と言う体験は狐につままれたような感覚であった。

元々は右上奥の歯に謎の空洞ができたことがきっかけだった。歯ブラシも届かずドルツでごまかしつつ暮らしていたがさすがにこのまま数十年暮らすわけにもいくまいと思っていた。

今住んでいる街の駅前にはなぜか歯医者が多く、最近もまた新しい歯医者ができた。電話したり店員に話しかける心のハードルが高い自分としてはなかなか新しい歯医者に行くのも気が引けるのだが、今回できた歯医者がネット予約を受け付けていた。ネット予約があれば大丈夫。ネット予約は話さなくていい。

とはいえそういう人間は多いらしく、予約検索画面で見つけた直近の空きが2週間後の水曜午前。せっかく歯医者に行く気持ちが盛り上がったのに行くのが2週間後と言うだけでも気が引けるのに水曜午前。リモート全盛なので会社は中抜けできるものの、できれば土日がよかったやつだ。

2週間後、その新しい歯医者に着いた。ベビーカーに乗ったキッズたちであふれかえった歯医者で診察台に乗せられ「うがいしてくださいね」と自動給水器のコップを使って口をすすいだ。昔は自分でボタンを押して水を出すタイプだったのに今は自動なのかと衝撃を受けつつ、流れるようにレントゲンを撮られ写真を撮られ。

「写真に写っているこれ、全部歯石です。レントゲン写真にも出てると思うんですけど、かなりの蓄積なのでまずこれを何とかしないことには治療できないですね。歯石って細菌の固まりなので、これを放置しておくと歯周病もどんどん進行しますし、かつ自覚症状がないのでたちが悪いんです。1回では取れないので何回かに分けて治療することになると思いますが、次回は1時間くらいかかるのでその内容で予約をお願いします」

その日は治療方針の説明だけで終わった。肝心の空洞は歯が欠けているという診察で、レントゲンでもよく分かった。あまりに奥の歯のため仮に何か詰め物をしたり虫歯を削ろうとしても機器が届かないであろうこと、該当の歯は親知らずでかつ変な生え方もしていないということで、歯石を取った後に抜歯することとなった。

歯石ですと言われてもイマイチ実感が湧かなかったが、Youtubeの歯石取りの動画を見てて分かった。歯だと思ってたものがバリバリと剥がれていく動画のbefore、after。それと今日自分の見た写真のbeforeはそっくりだった。歯石を取った後に見えるのはちょっと痩せたように見える歯茎。俺これなのか。これ放置してたら歯がなくなるな。でも痛いんでしょ歯医者の治療って?と言う不安を抱えて1週間を過ごした。

1週間後。そもそもなぜ自分の恐怖をあおる動画を見てしまったのかという後悔はありつつ、左手をつねりながら脳内の痛みを分散しつつ診察台に座った。

「痛かったら教えてくださいね」

知っている。大体痛い。むしろ痛いなら我慢してさっさと終わらせた方がよい。10年も放っておいたのだから痛くない方がおかしい。

ところどころ神経的な痛みがありつつバリバリと削られている感覚があった。これが1時間続く。大げさだけどこの世の終わりの気持ちが続いていた。脳内では歯石取り動画に出てくる陽気な先生の声がループする。歯の空洞を治してもらうつもりだっただけなのに全ての歯を治療することになろうとは。

「はい、一回うがいしてくださいねー」

多少の出血があったのは想定通りだったが、何やら黒い石がゴロゴロと飛び出してきた。これが長年貯めてしまった歯石か。

歯石は食べ物のミネラルを巻き込んでどんどん大きくなっていく。歯周病の要因にもなる、歯茎の中に住んでいる菌が出してくる色素が黒いのだ。それゆえ歯の表面にある歯石は比較的白いのに対し、歯茎の中にある歯石は黒くなるのだ。この辺のリアルは歯石取り動画を見るとよく分かるが、結構閲覧注意だと思うので興味がある方は検索を。

そんなこんなで複数の石を出されて1時間。

「今は出血したり歯茎が痩せてるように見えますが、時間経つと回復するので安心してくださいね」

その日の夜は家族に歯石の話を熱く語った。歯石なんて…と思っていたが、あんな石をずっと飼っていることを知らなかったなんて、自分はなんて愚かであったのかと恐怖にさいなまれた。そして医師の言うとおり2,3日後には歯茎は見事にピンク色となっていた。「これが正常なのです」と。

ただ実際はこれからが本番で、歯茎の中にある歯石を何回かに分割して取ることが必要なのだ。黒い石が出た、と言ったところで実際歯の表面の歯石を取るときについでに出た程度で、大ボスはその奥にいる(歯茎表面の4mm下など。健康な人はそもそも2-3mmまでの深さにしかならないが、歯石が貯まっている、歯周病の人はこうなる)

もちろん保険治療になるが、歯茎の中なので専用の器具で少しずつ取ることになりいちどに全部の歯でそれをやってしまうと生活に支障が出たり、出血による感染を広げてしまうから等の理由があるとのことだ。

歯の空洞を治療したかっただけなのにいつの間にか歯石の本格治療に入っていたが、実際の抜歯はこの歯石ショックの翌週にサクッと行われた。抜歯されたタイミングが分からないと職場のslackで衝撃を語っていたら「うちの奥さんも魔法だと言ってました」のような声も上がっており、ここ10年で歯医者は大きく進化したのだなというのと、昭和の歯医者のイメージは令和では打ち崩されているので用がなくてもとりあえずしか検診行っておくのが大事なのだなと子々孫々には伝えたいと思う。

これを書いている今日に対する明日、全6回と言われている中の初回の本番歯石取りが行われるので、結局得もしれぬ不安がある。幸い歯茎を切開して取るようなことはないよと言われてはいるものの万が一それになったらどうしようと言う恐れと、とはいえこないだの魔法抜歯のパターンもあるし何とかなるんじゃないかという信仰もある。恐れを書いているだけのように思われるだろうが35歳以上の人は大体歯周病になってるよと言う歯科医師の声もあるので、もし上京して歯医者が見つけられずここ最近行ってないアラフォーの皆様は是非、歯医者に行って衝撃を受けて頂きたいと思う。

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