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【歴史・時代小説】『法隆寺燃ゆ』第三章「皇女たちの憂鬱」

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難波へと王都を移し、新しい政治体制を謳った新政府であったが、現状は豪族の連合体制と変わらず、男たちは相変わらず権力争いを続ける。そんな争いに弥が上にも巻き込まれていく女たちである… もっと読む
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記事一覧

【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 23(了)

 油皿の炎が風に揺らぐ。  今日は、風が強いらしい。  聞師は中門にいた。  ―― 今日…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 22

 斑鳩寺には、多くの百済僧が西海を渡って来ていた。  寺主である入師も百済僧であるし、寺…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 21

「弟成……、うちやったらあかんの? 八重女より、うちやったらあかん?」  稲女の声は小さ…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 20

 弟成が月夜の川筋を歩いて行くと、その川端に座り込む人影を見た。  月明かりに照らされた…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 19

 雲が流れて、月が顔を出した。  再び、玉砂利が白波のように輝き出す。  表に出た2人は…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 18

 白波に浮かび上がった塔の影が消えていく ―― 雲が、月を隠したのだ。  周囲は、闇夜に…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 17

 斑鳩寺の寺司である聞師は、寺主の入師に僧坊に呼び出され、不恰好な仏像を2体見せられた。 「これは……?」 「今朝方、若いのが燃やそうとしていてね。塔内を掃除していたら見つけたそうだよ。それで、どうしたものかと相談していたら、寺法頭が燃やすように言ったらしいが……」  格子窓から漏れる明かりを頼りに、入師は経典の文字を目で追いながら話す。 「はあ……、それで?」  聞師は、手元の仏像と入師を交互に見た。  入師は顔を上げる。 「うむ、お前に、その仏像に心当たりが

【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 16

 馬に夕の飼葉をやっている時に、弟成は黒万呂の傍に近寄って、 黒万呂、俺、病かもしれへん…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 15

 黒万呂に稲女の好意を指摘されてから、彼は変に彼女を意識するようになった。  別段、彼女…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 14

 静かな時間が、二人に訪れる。 「弟成って、いま、好きな人とかおるん?」  稲女は、静か…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 13

 廣女を初めて抱いた帰り、彼の手の中には、まだ彼女の匂いが仄かに残っていた。  彼は、そ…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 12

 遥かむかし、八島の国を生み給うた伊奘冉尊(いざなみのみこと)は、火神軻遇突智(かぐつち)を…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 11

 長屋は、大人たちが取り囲んでいた。  弟成は、その大人たちを掻き分けて中に入ろうとした…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 10

 その日も、朝から怒り狂ったように太陽が照りつける1日だった。  弟成は、油蝉の鳴く声を間近に聞きながら、今日も厩の掃除に汗を流す。  馬の屎尿と体臭が熱せられて、噎せ返りそうだ。  おまけに、ここ数日の蒸暑い夜のために寝不足だった。  彼は、ふらふらと表に出た。  そして、木陰に入ると、その根本に一頻り戻し、その場所にへたり込んでしまった。  斑の光が、彼の顔を照らす。  風が木立を揺らし、彼の首筋を通り過ぎてゆく。  彼は、大きく息を吸い込んだ。  その