盤上の物語は……――白鳥士郎(イラスト:しらび)『りゅうおうのおしごと!13』

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いまライトノベル界で「現実」ともっとも熾烈な競争を繰り広げる将棋ラブコメの最新刊は、JSが熱い!

海外へ引っ越すことになった水越澪。彼女を空港まで見送ることにした雛鶴あいたち「JS研」のメンバーは、飛行機の出発を待つ間、夏合宿や誕生会、クイズ大会などの楽しい思い出を回想します。一方、澪は、離れ離れになるJS研のメンバー、とりわけ「親友」のあいにある「贈り物」をしようと考えており……。

回想エピソードはシリーズ既刊の特典ドラマCDの脚本を小説化したもの。その意味では短編集のような印象もありますが、書き下ろしの内容も半分くらいは占めているので既刊特典を持っていたとしても読み応えは十分にあるでしょう。

もちろんその内容も濃い。現実のプロ棋士の対局にも大きな影響を与えているといわれる「ソフト研究」をふまえたエピソードになっており、熱い展開を見せています。いみじくも藤井聡太棋聖がタイトル獲得時の記者会見で「(ソフト研究が普及しても)盤上の物語は不変」と語りましたが、今回のJS研のエピソードにもまさにそうした不変の物語が流れているのではないでしょうか。あいや澪はもちろんのこと、綾乃やシャルちゃんの「決意」にも胸が熱くなりました。

さてひるがえって、我らが主人公、竜王・九頭竜八一さんですよ! こちらも弟子に負けず劣らず熱い盤上の物語を繰り広げ――

あ、あれ? おかしいな……。この竜王、ロリロリしてるだけだぞ……? いやイチャイチャもしてるんだけど、いずれにせよラブコメの波動しか発していない……。「現実」のほうは高校生で棋聖だっていうのに、こっちは18歳にして奇性(ロリコン)ですわ。相手の史上かつてない攻勢に対してこの変態的……いや変則的な受けとは……。たぶん最新のソフトに6億手読ませてもちょっと見えない手筋ですよね。そもそも今回、回想も含めて一手も指してないし。盤上の物語ェ……。

いや、彼の名誉のために言っておきますと、今作の時系列って、前巻の翌日、つまり帝位戦開幕局終局の直後なんです。激戦でしたし、同時に行われていた奨励会三段リーグ戦最終日の対局後に倒れた姉弟子・銀子に付き添ってもいましたから、駒を持てないのも仕方のないこと。……夏合宿の時に指せるチャンスがいくらでもあっただろとは言うまい。

とはいえそこはロリっても……もとい腐っても主人公。最後はちゃんと、今後の展開に向けた深遠な一手も見せてくれています。次巻からの最終章が始まるということですし、彼らの盤上の物語がどんな感動的な終盤を迎えるのか、いまから楽しみです。

ちなみに個人的には、八一がこっそり愛読している漫画のタイトルで爆笑してしまいました。あれが敗着の一手だったと思います。まいりました。

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