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大人が肩肘張らずに学ぶ姿こそが...

 通信制高校のサポート校・CAP高等学院を運営している佐藤裕幸です.高校生と社会の間にある(と勝手に思われている)様々な垣根を壊し,新しい学びのインフラを構築することをミッションにサポート校を始めて1年になります.また,最近では「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」(https://business-book.jp/result)で総合グランプリを受賞した,『シン・ニホン』(安宅和人著)の認定公式アンバサダーをしていたり,教育系の出版社である増進堂・受験研究社の客員研究員をしています.4月からは私立高校の非常勤講師で現場にも復帰しました.

無料オンラインセミナー「大人が数学を楽しむ120分

 僕が客員研究員をさせてもらっています,増進堂・受験研究社さんが,僕を登壇者とした無料オンラインセミナー「大人が数学を楽しむ120分」を開催してくださいました.

 主宰している福島県デジタル教材勉強会や,GEG (Google Educators Group)で話すことはありましたが,話の内容は基本的にICT利活用についての事例や利活用の意義についてがほとんどでした.したがって,普段授業をしている数学について話すのは,実は初めてで,しかも生徒さん相手ではなく,大人向けに数学を語るというのはなかなかハードルの高いイベントを仕掛けてくれたなという思いでした.

 ただ,その一方で数学を教えているというだけで,頭良さそうみたいに言われることが多く,「どんだけ数学に苦手意識がある人が多いんだろう?」と感じることもありましたので,「もし,セミナーに参加したお父さんやお母さんが,セミナー後の夕食時に,自分たちのお子さんに『今日◯◯大学の入試問題解けたんだ!すごいだろう?』みたいなことを話してもらえたら嬉しい」とも思ったので,セミナーの話を請けさせていただきました.

『シン・ニホン』にある数学に関する衝撃的な内容

 僕がアンバサダーとしている『シン・ニホン』(安宅和人著)を読んだ際に,数学を教えている身としては,とても衝撃的でとても残念な内容が書かれています.

 「中等教育段階前半である中学2年生を見ると数学のレベルは国際評価システムTIMSS 2015 参加43ヵ国の中でも屈指(トップ5)と極めて高い一方で,数学を「とても好き」だと答える学生の割合は9%と,ほぼ最低レベルにある,という驚くべき事実だ.」

「TIMSS2015及びPISA2015の国際結果について」↓

 さらにこの結果について,安宅氏は次のように語っています.

「『技』を身につけさせることに関しては大成功しているのかもしれないが,『やる気にさせる』という意味ではとても成功しているとは言い難い.(中略)これほど嫌いになるくらいなら,むしろここまで勉強などしない方がいいとすら思えてくるが,(中略)明らかに(数学の)教え方の方が問題なのだ.」

 ここまで書かれてしまうと,数学を教える身としては何としてでも挽回する機会を持つ必要があります.少なくとも僕は数学者であるデカルトの「困難は分割せよ」という言葉に何度も救われてきましたし,同じくロバチェフスキーの「数学という学問は,それがたとえどんなに抽象的であっても,いつかは必ず現実世界の現象に応用できるものだ.」という言葉に数学の真の面白さがあると感じているだけになおさら挽回したいという気持ちになりました.

「佐藤先生って,数学の先生だったんですね!」といじられることも...

  僕は毎週水曜日の夜に開催されているベネッセ総合教育研究所主催のオンライン座談会に参加していて,全国のさまざまな先生とさまざまな話題について対話をしています.

 その対話の中で,いろんな先生方に「佐藤先生って,数学の先生なんですね!すっかり忘れていました」と面白半分に(結構マジで?)いじられることも多かったので,数学のオンラインセミナーをするのは,そんな僕の本気の側面を知ってもらういい機会になるとも考えました.

 いずれにしても,数学を教える立場として,数学を楽しんでもらう機会は絶対にあった方がいいと感じていました.

セミナーの内容を少しだけ

 今回のセミナーの内容は,以下の流れにしました.

・因数分解とは?
・因数分解の問題演習(中学3年・高校1年レベル)
・「プリンを因数分解せよ」
・「◯◯を因数分解して考える」という分析的表現は数学の因数分解と果たして同義なのか?
・指数関数とは?
・「指数関数的に増加する」という表現で語られる事象は,本当に指数関数的なのか?
・因数と指数に関する入試問題から今求められている力を知る(2021年度慶應義塾大学環境情報学部小論文)
・時事に関係する入試問題の紹介(2021年度東北大学理系・AO入試)

 セミナーではチャットとブレイクアウトセッションを用いながら,インタラクティブに進めていきました.参加されていた方々も数学が好きという方から,かなり苦手意識を持っている方まで様々な層に参加していただいたので,とても面白い反応が出ていました.

大人の本気を垣間見る

 最初の因数分解の問題は,皆さんなかなかの出来栄えでした.TIMSS のデータ通り,「技」は大人になっても身についたままの人が多いようです.そう考えると,日本の数学の教育レベルはやはり決して低くはないとも言えるでしょう.

 数学の問題を解いてもらった後,少し脱線して「プリンを因数分解する」という問題を出してみました.この問題については5〜6人のグループでブレイクアウトセッションにしてみました.

 途中,様々な部屋を覗きにいくと,共通因数となるべきものを抜き出してに式にしながら考えるグループや,“因数分解は掛け算”という意味を利用して,「共通して掛けるものは何?」から「時間」「手間」そして「愛情」など“掛ける”の意味を柔軟に考えながら立式していくグループもあり,個人的には「いい問題だった」と自己満足しています.

 指数関数に関することについては,最初に指数関数のグラフを見てもらった後,大阪とインドの新型コロナ感染者数の推移を表すグラフを見てもらい,指数関数的な増加の意味を考えてもらった後,感染対策の重要性を考えてもらうという時事ネタを挟み,『シン・ニホン』内で語られていた,データ × AI の世界における指数関数的思考の不可欠さを紹介しました.

 そしていよいよ入試問題にチャレンジです.今回紹介させてもらったのは,今年慶應義塾大学 SFC 環境情報学部で出題された小論文の問題です.↓

 「小論文なのに,なぜ数学?」と思われる方もいるかもしれませんが,出題には明確な意図があり,そのことを大学側もはっきりと示しています.
(2021年度 慶應義塾大学 一般選抜 環境情報学部 小論文 問題解説)↓

 数学の問題自体は,正直そこまで難しくはありません.慶應を受験する生徒さんならば,むしろ楽勝レベルの問題と言えるでしょう.ただ,数学からしばらく離れていた方々からすれば,「慶應の問題だから...」というバイアスも自然と生まれるでしょうから,ある程度苦戦することも考えられました.

 この問題も「プリンの因数分解」同様,ブレイクアウトセッションでグループで考えてもらいました.各部屋を覗きに行くと,どのグループも本気で問題に取り組んでいます.しかも,結構な人達が楽しそうに数学に向き合っていました.大人の本気を垣間見ることができました.

「なんだ,みんな数学好きじゃん!」

 皆さんの姿を見たときに,瞬間的に思いました.すごく嬉しかったです.問題解説後のチャットにも「楽しかった」「面白かった」などの感想がたくさん出ていましたので,「少しは数学好きになってくれたかな?」とも感じています.

最後に...自戒をこめて

 今回のオンラインセミナーでは,少しでも数学を好きになってもらえる大人が増えて,お子さんたちに「数学って面白いよ!」と言ってもらえるきっかけになればと思っていました.そして,そうなるための内容を結構な時間考えて臨みました.

 では,普段の授業の中で,「面白くなってもらおう!」とどのくらい思いながらやれているのでしょうか?僕自身は結構そうしているつもりではありますが,その努力で足りているのか?と言われると,「大丈夫!」って言い切れるか,迷ってしまいます.生徒さんたちに数学を「とても好き」って心から思ってもらえるための仕掛けはこれからも考えていきたいです.

 それから,大人になるとどうしても学びを「意義のあるもの」としたくなります.もちろんそれはそれでとても大事なことですが,例えば,「会社から言われたからMBA取りにきました」みたいな学びは,本当に楽しいかというと,結局「技」を身につけることはできても,好きに没頭できない自分にジレンマを感じる大人になりかねません.

 今後もセミナーを開催するかは分かりませんが,僕が行う大人向けのセミナーは,「役に立つかもしれないし,立たないかもしれないけど,学ぶって楽しいよね!」と子供たちの前でも大人が笑顔で語れるものができればとと個人的には考えています.

ちょっとだけ...

 そんな僕が運営している通信制高校サポート校・CAP高等学院では,只今通信制高校への入学を検討されている方のオンライン個別相談会を実施しています.CAP高等学院はオンラインでのサポート校ですので,日本・海外問わず,どこからでもアクセスして,高校卒業の単位取得が可能です.ご興味のある方は,ホームページまでアクセスしてみてくださいね!
 もちろん,入校するかどうかは自由です.進路相談などでも全然大丈夫です.


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