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【2019 J1リーグ】横浜F・マリノス ~3システムの比較~

1.スタッツ比較

 以下のスタッツをシステムごとに比較していきます。これ以降、逆三角形システムを『逆三角形』、マルコスシステム①(エジマルシステム)を『マルコス1』、マルコスシステム②(エリマテシステム)を『マルコス2』と呼称することとします。

・得点数
・失点数
・ボール保持率
・シュート数
・パス数
・ロングボール数
・クロス数
・デュエル勝利数
・空中デュエル勝利数
・走行距離
・スプリント回数

画像2

(データ元:sofascore

 ボール保持率、シュート数、パス数、ロングボール数において、システムごとの差異は見られませんでした。どのような形になろうとも、ボスが志向する『アタッキングフットボール』が実践できていたことが数値からも伺えます。

 逆三角形について言及すると、得点が少なく、失点が多いです。また、走行距離とスプリント数が他のフォーメーションより少し多くなっていました。これは他の2システムよりもウイングがピッチを縦横無尽に駆け回るためだと思われます。このローテーションが浸透していなかったので、得点が伸びず、失点が増えたのかもしれません。

 マルコス1については、地上デュエル勝利数が減少し、空中デュエル勝利数が増加していました。前者は相手を押し込むボール保持から遅攻を行っていた影響だと思います。後者は恐らくたまたまそうなっただけのように思います。特別前線へのロングボール数が多かったわけではないですしね。対戦相手のスタイルに引きずられた形のように感じます。

 マルコス2については、クロス数が減少していました。これは強力3トップを前線に張らせてドリブル勝負の頻度が多かった影響でしょう。ドリブル突破からのカットイン。そしてシュートが多く、ウイングの役割が他の2システムと変わっていたことが数値にも表れました。

2.勝敗と得点の比較

 次にシステムごとの得失点数と勝率を見ていきましょう。

3システム比較_勝敗と得点

 最も勝率が高かったのはマルコス1でした。エジガルを最前線に据え、マルコスの創造性を存分に発揮できたこのシステムは遅攻を多用します。相手を押し込み続けたことが安定した試合運びに繋がったのでしょう。

 反対に勝率が奮わなかったのは逆三角形でした。なんと5割に満たない数値を記録。ビルドアップのミスから失点するなど、ボールの保持があまり安定しなかったことが影響しているのかもしれません。

 勝率が悪ければ当然得失点の結果も悪くなります。平均得点が最も少なく、平均失点が最も多いのが逆三角形でした。得点を取る形が他の2つに比べて確立できなかったことと、アンカーのみではビルドアップが安定せず失点してしまった結果だと思います。

 得失点で最もいい数字だったのがマルコス2です。逆三角形と比べると、得点に関しては約1.85倍、失点は0.68倍と安定感が段違い。素早い切り替えを重視したサッカーは多くの得点と少ない失点を記録しました。

3.全得点の比較

 さて、それぞれれのシステムにおける全得点を比較してみましょう。得点となるきっかけをシチュエーション別に集計しました。例えば、クロスに合わせたヘディングを相手GKが弾いてこぼれ球を決めた場合は、クロスとして計上しています。

■全得点の比較

得点のきっかけ比較t

 全てのシステムにおいて、得点源となったのはクロスだったことがわかります。これについては後ほど詳細に見ていきます。

 他に注目すると、マルコス2の数値が目立ちます。スルーパス、ミドルシュート、前からのプレスによる即時奪取、ドリブルからのゴールが多いです。スピードのある前線が相手の背後を突いてスルーパスを受ける頻度が増加。相手ディフェンスラインを押し込むことによってミドルシュートを撃つスペースが空く。相手に猛然と襲い掛かる激しい前からのプレス。張ったウイングからのドリブル突破。どれもフォーメーションの特徴と合致しているものばかりです。

 逆三角形については10種類のゴールと、得点数が少ないながらもバリエーションの多さが伺えます。これは裏を返せば決まった点の取り方がなかったとも言えますが…特定の形がなかったのは、前線の選手たちがローテーションするからだと思います。来季はこれをもう少し突き詰めていきたいですね。

 では、ここからは最も多かったクロスについて、詳細に見ていきましょう。

■得点に繋がるクロスを上げた選手

得点時クロスを上げている人比較

 各システムを通して一番多かったのが仲川の7本。次いで渓太の6本となります。得点に繋がるクロスは両ウイングから出ることが多かったようです。サイドバックはティーラトンと高野が2本ずつを記録。これは偽サイドバックとしての役割が数値に表れてると言えるでしょう。

 システム別に見ると、マルコス1では左ウイングに定着した渓太。逆三角形とマルコス2は右ウイングの仲川からのものが高い数値を記録。渓太はマルコス2でも2本上げており、ローテーションによる崩しに参加させるより、大外に張ってサイドから勝負する方がアシストしやすいのかもしれませんね。

■クロスを上げた位置比較

 次にクロスを上げた位置を比較してみます。場所の区切りは以下のようにしました。

クロスを上げた位置

得点時クロスを上げた位置

 全システムを通してローポストからのものが最多を記録。アーリークロスは第28節の磐田戦で高野が仲川へ送った2点目のクロスのみ。敵陣深い位置までえぐってから低いクロスを送ることが徹底されている証でしょう。

 また、マルコス2だけ通常クロスとローポストが半々でした。これはスピードのある3トップが攻撃を早めに完結させるため、深い位置より早めのタイミングで上げることが多かったからだと思われます。

■クロスに合わせた位置比較

得点時クロスに合わせた位置比較

 クロスに合わせた位置は全システムにおいてニアが少なかったです。低いクロスにニアで合わせようとして潰れ、ファーの選手が仕留めることが多かったからでしょう。

 マルコス1で中央が多いのは、敵陣深くをえぐって相手ディフェンダーを引き付ける。空いたマイナスの位置へ送るクロスが多かったからのように思います。

■クロスの高さとシュート位置比較

得点時クロスの高さ比較

 クロスの高さはほとんどがグラウンダーで、合わせる位置も足が多い。サイドの選手たちは、低くて早いクロスを送ることが徹底されていることが証明されました。

4.全失点の比較

 最後に、それぞれれのシステムにおける全失点を比較してみましょう。こちらも得点と同じ方法で集計しました。

■全失点の比較

失点のきっかけ比較t

 得点と同じく、どのシステムでもクロスが多かったです。これは、マリノスの守備方法に原因があるでしょう。高く上がった両サイドバックのカバーをするためセンターバックがサイドに流れる。空いた中央をボランチが埋める。その結果ぺったんこなディフェンスラインとなり、マイナスのクロスに合わせやすいためだと考えられます。守り方は来季への課題ですね。

 その他で特筆すべきは、逆三角形におけるビルドアップミスからの失点でしょう。アンカー1人だけではうまくパスを回せなかったようです。今思い返すと、喜田のところが塞がれて外回しで繋がざるをえなかったシーンが多かったように感じます。マルコス2でも2失点していますが、ダブルボランチにしたことで、後方のビルドアップが安定。失点が減ったと言えるでしょう。

■クロスを上げられた位置比較

失点時クロスを上げられた位置

 クロスを上げられた位置も通常やローポストが多め。どのシステムでも両サイドバックを高い位置へ上げるため、カウンターでサイド深くまで侵入できるからだと思われます。マリノス相手はサイドバック裏を突けばいい、というのはこの数値からも証明されてしまったようです…

■クロスに合わせられた位置比較

失点時クロスに合わせられた位置比較

 合わせられた位置についてはニアが少なめ。前述しました通り、サイドバックのカバーがあることと、ボールサイドに寄せる守備をしている結果、ニアへ多くの人を割くからでしょう。実際マイナス方向での失点は多かったですよね…

■クロスの高さとシュート位置比較

失点時クロスの高さ比較

 逆三角形で浮き球からの頭が多いのは、こちらのサイドバックと競らせてのゴールが多かったからだと思います。サイドバックが戻れるほど準備していたが、そこから崩されたことになるでしょう。

 他の2システムについてはグラウンダーからの足が多かったです。こちらはサイドバックの戻りが間に合わず、サイド深くまでえぐられたことがわかります。




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