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【2019 J1 第32節】松本山雅FCvs横浜F・マリノス マッチレビュー

1.はじめに

 目下4連勝中のマリノス。トリコロールの戦士たちが乗り込んだのは長野は松本の地、サンプロアルウィンです。前節の撃ち合いとは対照的に、ホームと同様に固い試合になることが予想されます。それでもあのときより成長している我ら。この試合も勝って、明るい未来にまた1歩近付きたいです。では、見ていきましょう。

 プレビューはこちらになります。

2.スタメン

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■松本山雅FC

・前回対戦時と同様3-5-2の布陣
・パウリーニョではなく岩上を中盤で起用
・その影響で右WBには田中隼磨が先発
・2トップの一角は怪我の影響か、中美でなく阪野を起用

■横浜F・マリノス

・前節と同じ先発メンバー
・ベンチに渡辺皓太が復帰

3.松本山雅の守備方法と狙い

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・2トップの片方がボランチを切ってCBへ寄せる
・相方はボランチをマークする
相手SBへはIHが外に出て対応
・WGにはWBがマークにつく
・トップ下を中盤がマークできないのなら5バックが前に出る

 松本は守備時に5-3-2のブロックを敷いてマリノスの攻撃に対抗してきました。2トップの片方がボランチへのパスコースを切ってCBに寄せていく。そのとき相方のCFは下がってもう片方のボランチをマークします。双方とも前に出るのではなく、片方が必ず残るため、中央封鎖を強く意識しているのでしょう。噛み合わせ上、浮いてしまいそうなSBに対してはIHを前に出して対応。2トップと共に、中盤の3人も連動して前から寄せていきます。

 後方の5バックはピタっと撤退している状態で中々前に出てきてきません。それはマリノスの両翼が大外高い位置を取ることと、守備の安全性を鑑みての対応だったように思います。そのため、マリノスWGに対してWBがマークにつくことが多かったです。1つだけ例外として、トップ下であるマルコスを中盤が捕まえられなかった場合、後方から1人が前に出て、残りの4人がスライドして穴埋め。このようにして取りこぼしもカバーしていました。

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2トップと中盤3人から成る5角形の内側を通さない守備
・中盤3枚はゾーン基調でボールサイドへスライドして対応
・5バックはリトリートしているもディフェンスラインは高め
・攻撃時のWB上がりは安全性を見て遅めになっている

 前述しましたが、前線の5人、後方の5人で守り方が異なっています。前線は2トップと中盤の3人が連携して5角形を生成。最初待ち受けるときは3-2の形ですが、SBにボールが入ったときはIHが前に出るので2-3の形になる。頂点は都度変わりますが、この5角形の内側を通さないような中央封鎖の守備を行ってきました。

 中盤の3人はゾーン基調で、ボールサイドへ3人一斉にスライドして対応。マリノスがボールを左右に運ぶとそこへ走る必要があるため、中盤の選手たちには多くの走力が求められます。すなわち体力消耗の激しいポジションと言い換えることができます。

 5バックは基本的にリトリート。しかしディフェンスラインは高めなので、中盤とディフェンスラインの間はそこまで大きく開いていない状態をなるべく維持する。攻撃時は安全性を重視したのか、WBは前線の選手たちがおさめるのを確認してから上がっていたように思います。

 また、マリノスにボールを取られた際、まずは近くにいる選手が前方へのパスコースを塞ぐ。そうすることによって後方にいる5バックが戻る時間を稼いでいました。ここからも安全第一な思考が感じ取れます。

 このように、前線は5角形で中央封鎖。後方は前に出ずにリトリート。空いている箇所は外側のいわゆるU字でした。ここに関して松本は厳しく寄せず、ここで回されるのはある程度許容していたのでしょう。マリノスのビルドアップは基本的にはこのU字空間で行われていました。この守り方はパウリーニョを入れた後半77分ごろまで継続。リスクを冒さない松本の守備によって固い試合となりました。

4.中央突破のビルドアップ

 前述しました通り、中央封鎖をする相手に対して外側でのビルドアップが多かったですが、相手が作り出す5角形の中に入り込んで受けた場面もありましたのでそちらを紹介します。

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 こちらは前半39分ごろのシーンになります。

 ティーラトンが外に開いて阪野の注意を引き付けて2トップ間を開かせる。また、扇原も内側を上がり、岩上、藤田、橋内を引っ張って中盤3人の間を広げる。そうすることによってマルコスが5角形の中でフリーになります。相手を横に広げていたのでパスコースがある状態。畠中はマルコスへ縦パスを通すことができました。

 スペースがある中でボールを受けたため悠々とターン。右サイド大外にいる仲川の裏へロブパスを送り、チャンスを作り出します。

 このように中央を通すことができると大きなチャンスを作りやすかったです。ただ、そこで取られたら一気にカウンターのピンチに。ここへパスを出すということは、ハイリスクハイリターンでした。

5.素早い守備への切り替え

 この日の試合も攻撃から守備の切り替え(ネガティブトランジション)は非常に早かったマリノス。ボールを失っても即時奪回することができたので、相手をハーフコートに押し込み続けることができました。切り替えの早さが目立った場面を取り上げてみます。

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 こちらは前半12分ごろのシーンになります。

 ボールを藤田に取られたマルコスはすぐさま切り替え。マテウスと共に松本の選手たちへ襲い掛かります。それに驚いてか、藤田は橋内までボールを下げる。しかしマテウスはどんどん追いかけてきます。その後も橋内から飯田、飯田から水本、水本から守田へと、どんどんボールが下がる。水本にボールが渡ったときは仲川も参加してコース消しに貢献。追い詰められた守田は苦しくなり前方にいる杉本へロングボールを蹴るも、これを扇原が競って奪い取りました。

 守備への切り替えの早さが素晴らしく、またマテウスの追い込みも方向を考えてしっかりボールを下げさせることができた。途中で仲川も気を利かせて選択肢を狭める。前線選手たちの献身性とインテリジェンスが光った場面でした。

6.守備陣形の切り替え

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 後半77分ごろ、パウリーニョを投入して4-4-2に変形してきた松本。前方をピッタリ当てはめ、各所でマンツーマン対応。いくべき人がハッキリしているので、躊躇ないプレスをお見舞いすることができます。

 しかし、感覚で守備をしているのか、イズマの切る方向がマチマチになっているためそこから崩すことができる。これに加え、噛み合わせ上マルコスが浮くためボールを前進することに大苦戦したわけではありませんでした。後半深い時間だったので、ディフェンスラインを押し上げることも難しかったのでしょう。

 恐らく対マリノスとして準備してきた布陣のはずですが、個人的にはそこまで大きな効果を発揮できなかったように感じました。人についてくる4-4-2はもう怖くないですね。

7.パスマップと縦パス頻度から見るマリノスのビルドアップ

 この試合のU字ポゼッションはどうだったのか。渓太が入ったときと比較したかったので、前半25~40分と、後半67~82分の成功パスについてパスマップを作成しました。

 パス数データについては、左がパスの出し手、上がパスの受け手になります。例えば、パギから畠中へ出したパス数は1となります。なので、一番右の数値はパスを出した合計。一番下の数値はパスを受けた合計の数を表しています。

 また、パスマップはパス数に応じて選手を表す四角形の大きさを決めています。パス方向を示す矢印は、パス数が多いほど濃く、大きくなっています。例えば最初のものだと、畠中からティーラトンへのパス数が6本なので、他に比べて濃く、大きな矢印が描かれています。

 パスマップの詳細や、作り方については下記をご参考ください。

■パス数データ

パスマップ_データ

■パスマップ

パスマップ

 それぞれ図を見てわかる通り、見事なU字となっていました。前半は特に横パスが多く、後半は扇原と畠中のパス交換が多かったようです。また、前半はマテウスからティーラトンへのパス数が多かったことが、左サイドの停滞をよく表しているでしょう。反対に仲川は戻すパスが目立たないので、ボールを前に運べていたことがわかります

 後半に渓太を投入したのでパス回しが増えたわけでないことは、図を見ても明らかです。では何が変わったのか。前半の仲川と同様、後方へ戻すパスが彼からあまり出ていないことがわかります。前へ持ち上がる頻度が増したことによって、左サイドを活性化させていたこともわかります。

 また、後半はマルコスへのパス数が減少していることにより、前半ほど中央へのパスにトライしていなかったこともわかります。先制点を挙げることができたため、ある程度安全性を持ってビルドアップしたかった意図があったのかもしれませんね。

■5角形内へパスを出した選手と受けた選手

5角形パス

 前述しました2トップ+中盤3人による5角形。この中へパスを出した選手受けた選手について、成功したものを集計してみました。

 まずは出し手についてですが、畠中の独壇場でした。相手が狭めている中央へ通すコントロールと、それを見抜く目を持っていることがわかります。マリノス攻撃のスイッチを入れるのはやはり彼なのですね。

 受け手については、マルコスが最多を記録。次いで両ボランチでした。相手の間に絶えず顔を出していたマルコスはさすがでした。やはり彼が攻撃のリンクマンとなっているのですね。また、両ボランチについても多く受けていたということは、不用意に下がって3バック化せず、相手ブロック内でボールを受けて前進させようというプレーが多かったことになります。相手によって動き方を使い分けているのは心強いですね。

8.スタッツ

■トラッキングデータ

 途中交代した藤田が10km越え、岩上が13km弱、杉本も11km越えと、中盤の3人が横スライドで長距離走らされていたことが数値からもわかりました。

■チームスタッツ

9.おわりに

 プレビューでは、攻撃時に高く上がるWBやIHの裏が狙い目と書きましたが、そこに穴を開けない安全第一な守備でしたね。そのため固い試合となり、前節と比べて派手な展開も少なめでした。

 これには開始早々、仲川が先制点を挙げられたことも大きかったでしょう。パスマップなどでもU字でのビルドアップが多いと書きましたが、これはマリノスが狙ってやっていたということも、要素としてあると思っています。中央封鎖する5角形にパスを出すことはハイリスクハイリターンです。しかしリードしている状態ならば、そのような博打をする必要もない。後半になって中央へのパスが減ったことも、ハーフタイム中にチーム内で意思統一した結果なのかもしれません。今シーズンで一番『現実的に振舞った試合』ではないでしょうか。

 松本山雅公式HPの反町監督コメントを見ても、前半耐え、後半勝負に出るというプランだったことが伺えます。守備がイマイチなイズマを投入すると前線からの守備が規律正しく行えなくなり、ある程度オープンな展開になることは承知だったと思います。あの交代が『松本が前に出るぞ』という意思だったのではないでしょうか。4-4-2への布陣変更は更に前掛かりになるための第2作戦。それでも耐えきったマリノス選手たちを大きな声で褒め称えたいです。

 さて、これで5連勝。他会場の結果もあって首位に立つことができました。「そこの自分!次に東京と鹿島の結果がああなって、うちが勝つと…とかごちゃごちゃ考えない!」と自分を強く戒めたいと思います。「他がどうであれ、残り試合2勝すると優勝。それ以外はない!」このくらい極端に考え、1試合ずつを大事に見守っていきたいと思います。

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