楽しい校内研究

 校内研究のイメージってどのようなものでしょうか、「やる人はやる、やらない人はやらないという結論に至った。」という話も聞いたことがあります。僕は校内研究にあまり良いイメージはありません。校内研究自体が僕のためになったという実感がないためです。校内研究がワクワクしたものに、教師一人ひとりの成長に繋がるものに、より子どもに還元できるものになったら素敵だと思いませんか?そのための改善案を提案したいと思います。


 結論から先に書いていって、一つ一つ解説していきたいと思います。

1,校内研究の内容を授業研究に限らず、研究テーマを踏まえて広く考える。
2,職員一人一人が研究のプロジェクトを立てる。
3,毎週の反省に自分のプロジェクトの進捗について書く。週の反省はインターネットを使って全員が共有できるようにする。
4,教育委員会等の指導者も週の反省を共有できるようにする。指導者は指導する人としてではなく、推進者として参加する。
5,年度が終わりに近づいてきたら、それぞれがプロジェクトについてのまとめを書く。
6,それぞれの職員のまとめを研究テーマを踏まえてさらにまとめる。
7,研究発表は研究の概論、まとめ、それぞれの教師のプロジェクトの紹介をした後は、校内を自由に見てもらって、児童が帰った後に、それぞれの先生がディスカッションを開く。


1,校内研究の内容を授業研究に限らず、研究テーマを踏まえて広く考える。

 校内研究の進め方として、一つのテーマに対して「同じような内容を」「同じようなやり方で」どの教員も発表している学校が多いのではないでしょうか、しかも発表の仕方は基本的に授業発表という形をとります。しかし関心事は人それぞれでもっと個別的なハズです。「〇〇さんが落ち着いて授業を受けるにはどうしたらいいだろうか。」「あのグループの関係性をよくするにはどうしたらよいだろうか。」「早く仕事を終えて帰宅するにはどうしたらよいだろうか。」など、自分のクラスの学習面や生活面の問題、学校運営全体に関わる問題など教師一人ひとり強く抱く関心事は様々です。それなのに、「同じ内容を」「同じやり方」で研究のやり方を通すと、個人の関心事は置き去りにされ、多くの教師にとって研究は興味のないことになってしまいます。学びは関心に基づいた個別的なものでなければいけません。自分の関心事であるからこそ、前向きに粘り強く取り組むことができるのです。
 もう一つ問題があります。それは、僕たちは自分の経験と繋がっていることしか理解できないという問題です。それぞれの教師が持っている経験は個別的なものです。それなのに、「同じ内容を」「同じやり方で」研究を進めていくとなると、自分と研究の繋がりを感じない教師にとって何も意味のない時間になってしまいます。

2,職員一人一人が研究のプロジェクトを立てる。

 先ほど例に挙げた「〇〇さんが落ち着いて授業を受けるにはどうしたらいいだろうか。」「あのグループの関係性をよくするにはどうしたらよいだろうか。」「早く仕事を終えて帰宅するにはどうしたらよいだろうか。」という個人的な目標を学校全体に関わる課題に変換して、教師一人ひとりが研究するプロジェクトを立ち上げます。〇〇さんが落ち着いて授業を受けるにはどうしたらいいだろうか。」を「子どもが安心して授業を受けられる支援のあり方」など校内研究に繋がる形にして研究していきます。研究全体を支えるプロジェクトとして「研究の時間を確保するために学校全体の業務量を削減する」というのは必ず立って欲しいプロジェクトです。僕の考えている校内研究は研究であると同時に遊びでなければいけないと思っています。校内研究をすべての教師にとって意味のあるものにするには、「楽しい!」「ワクワクする!」という内発的な動機づけに支えられて進めていかなければいけません。6時、7時を過ぎてからやっと取り組むようでは嫌々やる他ありません。一日の中で10分でも必ず研究する時間を確保し、「もっとやりたい!」と思えるようにしていかなければならないと思っています。

3,毎週の反省に自分のプロジェクトの進捗について書く。週の反省はインターネットを使って全員が共有できるようにする。

 このことについてはいくつかの狙いがあります。まず、毎週自分のプロジェクトの進捗について書くことになると、毎週何らかの課題を持ち、その課題の達成状況について振り返る必要が出てきます。子どもたちに「めあてと振り返りが大事!」といいますが、実際にこれは非常に効果が高いことが研究でわかっています。(但し、自分の関心に基づいて立てためあてでなければ意味はありません。)振り返ることで教師自身の能力を向上させることがまず一つ目の狙いです。
 人のプロジェクトを読んでいると、書いている人に関心が沸いてきます。「〇〇先生の反省とっても興味深かったです。詳しく教えてくれませんか。」なんて会話が起こる職員室だったら最高だと思いませんか?自分の振り返りが人に影響を与えていることを実感し自分のプロジェクトを進めることで全体に貢献できるということを感じると思います。また肯定的で互恵的な関係を築くことで良い人間関係を作っていけたら良いと思っています。良い研究をするためには明るく楽しい職場になることがとても重要です。相手のことを信頼しているからこそ、自分のプロジェクトについて正直に書くことができ、正直に書くことが良い振り返りと良い人間関係を作り、良い振り返りは同僚に良い刺激を与えます。良い刺激は刺激を受けた人の関心の幅を広げていき、プロジェクト同士が繋がっていきます。拡散している研究内容を最終的に収束させるために振り返りの共有は必要なのです。

4,教育委員会等の指導者も週の反省を共有できるようにする。指導者は指導する人としてではなく、推進者として参加する。

 毎週の振り返りの共有に指導者も参加できる形にします。指導者は指導する人というよりはそれぞれのプロジェクトを支える推進者として参加してもらいます。一人ひとりが自分のプロジェクトを立てて進めていくと何度も壁に当たります。そのときに推進者には一緒に悩み、一緒にプロジェクトを進める策を考えてほしいと思っています。教師一人ひとりのプロジェクトの内容についてアドバイスを出すということはかなり困難だと思います。そのプロジェクトの内容についてのアドバイスを出すというよりは、探究の進め方や、同僚との協働についてなど非認知スキルについて助言し、教師一人ひとりが探究者として成長できるように支援してほしいと思っています。そうすることで、プロジェクトを進める中で挫けそうなときに支えてもらえ、推進者と教師がお互いに理解しあい、教師は良いフィードバックを得てさらに成長していくことができると思います。一人ひとりのプロジェクトの内容以上に、探究に必要な非認知スキルを鍛えていくことは研究のまとめの段階で重要になってきます。


5,年度が終わりに近づいてきたら、それぞれがプロジェクトについてのまとめを書く。

 一人ひとりが自分のプロジェクトの成果についてまとめていきます。まとめまでに同僚からの影響を受けて、自分のプロジェクトの内容が変わった人も出てると思います。プロジェクトの成果としては研究テーマに関わることだけでなく、校内研究を通じた自分の成長についても書きます。


 
6,それぞれの職員のまとめを研究テーマを踏まえてさらにまとめる。

 一人ひとりがまとめたプロジェクトをさらに一つにまとめて行きます。そこから見えてくる研究の総括は僕の予想ではかなり月並みな言葉に収束すると思います。「子ども一人ひとりに対応するためには教師は一人ひとりの子どもを理解しなければいけない。」とか「子ども一人ひとりを理解するには教師自身が余裕を持たないといけない。」とか、ただこの研究のまとめとなる言葉は一人ひとりのプロジェクトのまとめと繋がり、一人ひとりの問題意識と繋がっており、様々な個別の問題に対応可能な深い言葉になります。
 また、一人ひとりの成長についてもまとめていきます。「探究するには」「協働するには」というような形で容易にまとまるはずです。(研究が明るく楽しく進んでいればですが)教師同士のプロジェクトの内容がかなり拡散しているのと比べて、一人ひとりがプロジェクトを探究していくのに使った非認知スキルは似通っているはずだからです。もしもプロジェクト同士が結びつかず研究全体のまとめがしっくりこなかったとしても、探究の中での一人ひとり成長という経験を共有することができます。共有した経験について語り合うことで、「深い学び」が確実に得られると考えています。


※学習の転移と構造化について


 6の内容が分かりにくいと思ったので解説をいれようかと思います。僕たちの経験というのは、そのまま別の経験に生かされるということはありません。

A(〇〇さんへの学習指導が上手くいったという経験)
B(〇〇さんへの生活指導をどうすればよいかという課題)
X(子どもの話はよく聞くと指導が上手くいくという概念)

 AとBという個別の事象があったとき、A→Bという形ではなく、A→X→Bという形になります。Aという経験がXという概念に一般化されて、XをBという個別の場面に適応させるのです。AがBに生かされることを学習の転移といいます。また、A、Bというそれぞれ個別だったものがXを通じて繋がることを構造化といいます。僕たちが新たに知識を手に入れるときはこの構造化が起こっています。知識を得るには構造化が必要という事実が1の内容の「自分と繋がりがあることしか理解できない」ということに大きく関係しています。僕たちはAという積み上げてきた経験を元にしか新しい知識を自分の中に取り込むことができないのです。
 学習の転移と構造化の視点から6について解説します。

A(A先生の研究内容)
A’(A先生の研究のまとめ)
B(B先生の研究内容)
B’(B先生の研究のまとめ)
X(全体の研究のまとめ)

A→A’→X←B’←B

 先程示したA→X→Bという図よりも一段複雑になっています。全体の研究のまとめを通じてA先生の研究のまとめとB先生の研究のまとめが構造化され、Aを研究していた先生もB先生のまとめを通して、B先生が解決したかった課題を解決できるようになる。つまり学習の転移が起こる。(ことが期待されています。)このように高度に複雑に構造化する学びのことを「深い学び」と今回の学習指導要領では呼ぶことにしたようです。


7,研究発表は研究の概論、まとめ、それぞれの教師のプロジェクトの紹介をした後は、校内を自由に見てもらって、児童が帰った後に、それぞれの先生がディスカッションを開く。


 
 授業を通じて発表するという先生も出るとは思いますが、研究の内容が授業研究に絞っているわけではないので、授業を見せるという形で発表することは難しいと思います。もし、僕が提案する形で研究が進んだ場合、来校してくださった方々をもっともハッピーにするには、その人が関心を持った内容、自分と繋がりを感じる内容について学んでいただくのが一番だと思います。研究についてざっと説明したあと、自由に見てもらって、さらに関心のあるプロジェクトを進めていた先生とお話する。これがお互いに一番良いのではないかと思っています。


終わりに
 実はこの研究の方法は、今回の学習指導要領の「主体的・対話的で、深い学び」を校内研究にあてはめた形になっています。校内研究を通じて、先生が「主体的とは何か」「対話的とは何か」「深い学びとは何か」「それらを成立させる条件は何か」ということを経験を通じて学ぶことができると思っています。研究のまとめで自身の成長についてもまとめるとしたのは仮に研究内容をまとめるということに失敗したとしても、教師が深い学びに至るための保険でした。

A:校内研究で探究した経験
X:文科省が示す「主体的・対話的で、深い学び」という概念
B:子どもたちへの授業で「主体的・対話的で、深い学び」の視点から授業改善をする。

A→X→B

 上記のような構造化を校内研究を通して狙っているわけです。
 また、この校内研究は僕の大きな夢が詰まっています。それは「すべての先生をもっと幸せにするにはどうすれば良いか」「すべての子にとって良い学びにするにはどうすれば良いか」「すべての保護者を笑顔にするにはどうすればよいか」ということです。学校はあまりにもたくさんの問題を抱えています。そしてその問題は教師の個人的な関心ごとと繋がっているはずです。その教師の個人的な問題を校内研究と繋げて考えて、もっとポジティブに、効果的に解決にあたることはできないかというのが今回の提案の始まりです。考えをまとめてみて、僕自身が成長できそうだし面白そうだからやってみたいと思える内容になったと思っています。僕のアイディアが誰かの助けになれば幸いです。

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