ご報告

 ご報告があります。
 わたし平手ユウは公的な手続きを経て本名を「ユウ」に改名することができました。

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 (画像は免許証の裏です)

 やったー!!!!うれしい〜!!!!
 なんの報告か知りたいだけなら、もうブラウザバックしてもらっても大丈夫です。でもせっかくなので続きも読んでいってください。

 平手ユウという名前はいわゆるペンネームでありユウは本名ではありませんでした。結婚による改姓ではなく、家庭裁判所に申し立てて認めてもらっての「改名」です。下の名前が変わったのです。本当の話です。
 男に生まれたことがいやで、でもこの体に生まれた事実は何をしても変わらず、せめて自分の意思で決められるものを決めたいと考えたのが改名でした。男の子として生まれて育てられた命の別名を、拒絶したくなるものではなく好きなものにしたかったのでした。
 簡単にまとめるとそんな感じで、これまで改名のために地道な作業をしたり、大胆にミスiDを受けてみたりしていたわけです。

 わたしのことを全然知らない人に向けても、自分のことを話します。
 わたしは性同一性障害と医師から診断をもらっています。その診断がおりたのが2019年の4月1日でした。クリニックからの帰りに寄った渋谷が新元号発表で混雑していたのをよく覚えています。TSUTAYAのモニターに中継とか流れなくて盛り上がらなかったんですよね。

 診断を受ける半年ほど前、当時仕事を辞めて虚無期間の真っ最中でした。時間を持て余すと考えが内側に向きがちで、自分の嫌な部分に思いを巡らせることが多くなり、そのループの中で死にたいしか考えていませんでした。
 わたしは男に生まれ、男として育ちました。ですが、大人になってから女性に生まれなかったことを悔やんだり、それを理由に「生きていても意味がない」と希死念慮を意識するようになっていました。名前変わりたいと思うことも何度もありました。
 会社を辞めて暇ができた時期と重なるので、自分に向き合う時間が増えて余計に意識していたんだと思います。そういう心を持っていたということに、大人になってから気付いたわけです。それまでは割とフツー(?)に男性として社会生活送っていたはずだったんですが、どうしてちぐはくさを抱えてしまっているのかその時はよく分かっていませんでした。

 転生して「生まれた時から女性」になれるかも分からず、どうしようもなくて漫然とネットを漁っていた時、性同一性障害のことを目にしました(名前だけは元々知っていましたが学ラン着た上戸彩のイメージでした。色々と古い例えですね)。
 自分は性同一性障害かもしれない。そう思うと興味が湧いてGoogle検索をして情報を漁りましたが、性別適合手術とかホルモン(剤)治療などのワードが飛び交う想像していない世界でした。
 性同一性障害的な自覚はあっても手術などの可能性には気乗りしないしそんな金ないし、でも「生まれた時から女性」にはなれない悲しみは明確でした。自分自身については「自分の心について自覚がはっきりしていればよい」と思うにとどまり、メンタルクリニックに通ってまで診断してもらう必要性をあまり感じませんでした。
 しかし、ある情報を目にして診断をしてもらおうと決めました。当事者が名前を改めるケースがあったのです。公的な名前の変更を実現するために性同一性障害であることが加味されるらしく、■■という男として付けられた名前を変えることができるかもしれないのです。これは大発見でした。

※解説ですが、名の変更を公的に行うための第一歩として家庭裁判所の許可が必要になります。変更許可に値すると認めてもらうために根拠を示さなければならず、わたしの場合、性同一性障害であることを示すために診断書を用意する必要がありました。

 性同一性障害であることを診断してもらうためにメンタルクリニックに通いました。メンタルクリニックというものは頻繁に予約が取れず、最速ペースで通いましたが初診から診断結果がおりるまで半年ほどかかりました。
 本当は勘違いかなんかで性同一性障害じゃないかも。そう思ってるだけかも。と不安になって自分を見失ったものですが、そういう気持ち含めて医学的に診断がおりたのでした。

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 (男)と表記されているのは書類上の話なので仕方ありません。

 初診から何度も受けてきたカウンセリングを通して、自分の素直な気持ちを抑圧することに慣れているだけだったというのも分かった気がします。幼少期から続いていた呪いを、大人になった今解いてあげられたような、そんな気持ちでした。
 というのも、幼児だった頃テレビにプリキュアのおもちゃのCMが流れたんです(ぼかすので便宜上プリキュアと言いますが、要はおジャ魔女とかセーラームーンとかです)。そしたら、プリキュアのCMを一緒に見ていた父が笑顔で楽しそうにこう言ってきたんです。
「ほしいだろォ〜!!!ンンンンンンンンほしいだろ!?!?!?」
 全然ほしくないんですよ。毎週見てたの何とかレンジャーくらいで見てないコンテンツのCMだったから、ふつーに興味なかったです。興味を見せたこともなかったはず。でも、子供ながらに父がなぜそんなことを言うのか瞬時に察しました。
 からかっていたんです。
 男のお前がプリキュアの玩具ほしがるなんておかしいよなあ!という前提のもとに「ほしいだろ〜?」と真逆のことを言った様子でした。当時は今よりもずーーーーーっと『男の子は仮面ライダー、女の子はプリキュア』的なステレオタイプのイメージが当たり前に存在していたと思います。言うのすら馬鹿げているものですが、男の子がプリキュア好きでも、女の子が特撮好きでも良いし、というか許容するかのように「好きでも良い」と口にすることすらおこがましいことだというのは断っておきます。
 父にしてみれば「ほしいだろ〜」はギャグのつもりだったと思います。今のわたしなら「おもんない冗談は真に受けんねん!帰れ!」とか言うんですけど、当時のわたしはからかわれたと思いました。幼児ですからね。
 興味なかっただけだったけど、プリキュアに興味を持つのってからかわれるんだ!と考えました。だから意地を張るように「ほしくない!いらない!」と返しました。男の子だから女児のおもちゃ欲しがるなんて馬鹿げてるのは分かってるぞ、という前提を態度で見せなきゃいけないんだと当時は学習しました。この学習は間違っていました。

 性同一性障害に関するカウンセリングのために自分の来歴を振り返るなかで、こういった見過ごしてきた小さな違和感がところどころあったことに気付きました。
 うっすら(時々はっきり)男でいることがいやだという感覚と、紐解かれていく性別意識のエピソードを思い出す毎日を繰り返すうちに自覚していくものがありました。それは、あえて偏った言い方をしますが、女の子らしさに魅力を感じているという自分の心でした。「女の子らしさ」という物言いがもはや偏見だと理解してはいます。ですがこれは、「他人にある女の子らしさに魅力を感じる」かどうかではなく、自分が持つ要素に「女の子らしさ」があることに魅力を感じているという意味なのです。魅力というか納得というか、備わってると「これだよこれ!」と思うみたいな?自分のことなのに、言い表すのが難しいですね。
 プリキュアCMの件を「からかわれる」と察知して以来、何かをかわいらしくて好ましいと感じ取っても自分の好きを封印していて、“女性的”なものに魅力を感じる心を押さえつけて、“男性的”に生きることに適応するように長い年月を過ごしていたのだと気付きました。これらが随分と無茶苦茶な言い方なのは分かっていますが、その無茶苦茶の枠組みを自分の中につくってそこから出てはいけないという意識のままずっと育ってきたから心を歪ませるしかなかったのだろうと思っています。

 これまで書いたような幼少期のエピソードを些細なことと思われるかもしれませんが、心の性質とか不調というものは必ずしも分かりやすく劇的に訪れたり他人に理解できるものではないかもしれません。伝わるように書くよう努めていますが、何千日分の人生の積み重ねを全て文で伝えるのは無理なので分からないことは分からないでいいです。続けます。

 たくさんの経験を思い出しては、男として振る舞わなければいけない考えがベースとなった選択肢がたくさんあったと気付きました。今現在のように社会的には男性で暮らしてるからと分かった上で書類の「男」に丸をつけるとか、性自認的な要素を伏せながら会社で男性として過ごして振る舞うとかは承知のうえでの行為だから男性扱いされても全然いいです。いや書類の性別欄に男女しかない時は(クッソー無回答の選択肢作っとけや!!!)と思ってますが……自分の意思で生きてきたようでも、「世間では」的な他人の都合で自分の性別に関する振る舞いを知らないうちに選ばされていたような、そんな行動の数々はもう取り返しがつきません。
 疑いなく男性として生きて認識されてきて振る舞ってきて、ちんこ付いてる事実も後押しして、もう引き返せないから死ぬまで社会的に分かりやすい形で生きていくしかないか…と諦念を抱えて過ごすバッドエンドも考えたけど、やっぱりそれはいやでした。その苦悩から救われるため/逃げるために選んだのが「改名」だったのでした。


 これまで改名について公的手続きと性同一性障害を絡めて書きましたが、個人的に改名は二段階に分かれると考えています。一段階目はこれまで説明したような書類上の公的な変更、そして二段階目は「人に知ってもらうこと」です。
 自分が「ユウ」という名前であると知られなければ名前に命が宿らないと考えています。これ漫画みたいなこと言ってるようで毎回口頭で説明することになるのは気恥ずかしいんですが真剣にそう思ってます。
 家庭裁判所のOKをもらって免許証などがユウに変更できても、それは自己満足の域を出ないと予想していました。人によってはそれだけで十分満たされるかもしれませんが、わたしの場合は多分そうじゃないだろうと思ったんです。
 そこで、自らに内包された女性的な面を認めてもらいつつ、人前に出ることを挑める場として最も好ましいと考えたのがミスiDでした。応募資格の一つに「心の性が女の子である人」と当時は書かれていたので、わたしのような人でも受けることはできました(最近は言い方が変わって「マインドが女の子である人」みたいに書かれていました)。それでも1人で受ける決断ができたのかというと違って、当時相談に乗ってくれた親切な人がいたり、エントリーを公言してから後押ししてくれた人がいたからこそ進み続けることができたと思っています。
 当時開催されていたミスiDは2020で、結果はカメラテスト(二次選考)落ちでした。書類(一次選考)は通ったんだ?と思うかもしれませんが実際は落ちていて、書類落ちの人向けに行われた救済制度で拾ってもらった次第です。結局落ちたけど、機会を与えられたからこそ存在を知ってくれた人もいたと思います。実際カメラテストの現場で見たとか話したって人もいますし。なので救済制度で拾う判断してくれたミスiD運営の小林司さんには感謝するしかないんだろうなあと思います。ミスiDって正も負も受ける印象がデカいんですけど、機会をもらったことは唯一無二で人生の大きなきっかけになった出来事でした。性同一性障害であることを伏せて挑戦したけれど、ネットの誹謗中傷以外は男とか女とかではなく人間として扱ってくれたように感じました。翌年ミスiDに再チャレンジした時に性同一性障害であることは公言しましたが、仲間のように迎え入れてくれる人たちがたくさんいて嬉しかったと感じています。
 翌年もミスiD(2021)を受けました。多少なりと結果は伴いました。ものは言いようですね。


 それから改名以外のことが忙しくなって後回しにしまくっていましたが、時は流れて2022年の春頃、家庭裁判所への申し立てを行いました。
 申し立ての際、診断書以外にも社会的にユウの名前が通用しているという根拠を見せていきたかったので、ためていた電気・水道料金票(ユウという宛先に変えてもらうよう頼んでいました)やユウ宛の郵便物を整理したりしていました。こういう時の役に立つからと年賀状を交換しませんかと呼びかけて応じてくれた人が何人もいて、それも裁判所に提出しました。本当にありがとうございました。
 料金表や郵便物のほかにもSNSでユウって使っていることとかミスiDページのコピーも提出してみましたが多分参考にはしてもらえてない気がします。そんなこともある。

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 2022年5月に家裁の許可を得て公的に改名を果たすことができました。嬉しくて嬉しくて、これまでの道のりで心の中で大切にしてきた特別な2人に急いでお手紙で報告しました。念願叶って変われた報告ができたのが心底うれしくて清々しかったのを覚えています。
 小林司さんにも金井球さんのイベント行ったら会って勢いで喋っちゃいました(本当はかしこまった手紙でも送ろうかと思ってました)。あと、世話になる頻度が高かった1人にLINEだったけど報告を入れました。そしてこのnoteを読んでいるあなたに今、話すことができています。

 以上が改名できた報告でした。
 長くて乱文でしたよね。すみませんね。ここまでじっくり読む人がいるのか分からんけど、伝わっていたら幸いです。読んでくれてありがとうございました。


 最後に、ユウという名前の一番大きな由来は英語のyouで、関わるあなたがいてこその自分自身であるという思いを込めたものでした。
 名前を知られるためという果てのない願望のために、平手ユウとしてはまだ数年ですがインターネットから去ることなく存在し続けました。ミスiD関連をはじめ誰かと知り合い出会うことで、静かに自分の願望が満たされていくのが嬉しかったです。好意的に関わってくれるみんなが大事です。
 平手ユウという名前で存在し続けることはあくまで自分のためで、その姿を見て誰かが良い気持ちを持ってもらえればそれでいいと考えていました。そういうのは回り回って自分のためになると考えるからです。名前に込めた信念を頑張って裏切ってしまわないよう大事にしながら、なるべく健やかに今後も存在しようと思います。



 「最後に」って言った後に追加の最後にを書かせてもらいます!
 平手ユウが制作した映像作品YouTubeで公開してるので見てください!
 あと!↑には続きがありまして(色んな人が出てるのに全然見せれてなくてすまない)、それの編集終わったのに公開する予定を立てれていません!小さくても良いから会場とか場所とか上映場所とかとにかく場所とタイミングを探っています!良い機会を提供してくださる各位いたら平手ユウまでご連絡ください…ツイッターのDMで全然大丈夫です


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