『マチネの終わりに』第六章(60)
彼が長らく思い悩んでいたということには、時が経つほどに同情的になっていた。しかし、それを伝えるあのメールの悲愴な口調には、彼がほんの気散じにつきあっていたような女にこそ相応しい類の、そこはかとない安っぽさがあった。
“芸術家としての苦悩”などという物珍しい理由をあんなふうに切り出されたならば、大抵の女は面喰らって、彼との関係を諦める気になるだろう。
しかし、自分に対しては、もっと違った打ち明け方があったのではなかったか? そんな、相手が誰であろうと怯むような、散々使