『マチネの終わりに』第五章(30)
しかし、決心は変わらなかった。何度か涙ぐみそうになったが、その権利があるのは彼の方であり、最後まで堪え通した。
リチャードは、納得せぬまま、来週また来ると言い残して、一旦ニューヨークに戻った。洋子は空港まで見送らず、彼に会うのも、最後にするつもりだった。
自宅で独りになると、さすがに呆然となった。罪悪感に浸ることさえどこか醜悪で、縋るように、ただ蒔野のことを考えようとした。リチャードに非はなかった。それでも確かに、彼女にとっても、傷は傷だった。
蒔野の腕の中で、