『マチネの終わりに』第五章(8)
何もこんな派手な場所ばかりではない。蒔野は、早くに死んでしまった両親を思い出して、洋子なら、あの二人ともきっと気さくに会話を楽しんでくれただろうと想像した。今はもう人手に渡ってしまった実家の、あの寒々しい、お世辞にもきれいとは言い難かった風呂でも、笑って気にせず入ったんじゃないか。……
洋子を通じて、自分はもう一度、このヨーロッパという世界と出会い直せるのではないかと、蒔野は思った。自分がこれまでに知ってきたこと、これから知るであろうことについての、彼女の意見を聞きたか