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『マチネの終わりに』 × クリエイター

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『マチネの終わりに』とクリエイターがコラボします。9名のクリエイターのみなさんの作品に関するマガジンです。
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2015年6月の記事一覧

『マチネの終わりに』第五章(22)

『マチネの終わりに』第五章(22)

 顔を上げると、果たしてジャリーラは、満面に笑みを湛えていた。感激したように拍手をして、動悸を押さえるように胸に手を当てた。洋子も、うれしそうに彼女を見守っていた。

「すごくきれいな曲ですね。何ていう曲なんですか?」

 蒔野は、洋子に紙とペンを借りてタイトルを書き、ジュリアン・ブリームのレコードを勧めておいた。

「蒔野さんは、レコーディングしてるの、この曲?」

 と、洋子が尋ねた。

「し

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『マチネの終わりに』投稿企画についてのお知らせ

『マチネの終わりに』投稿企画についてのお知らせ

いよいよ第5章に突入した、小説『マチネの終わりに』。

日本からマドリードでの演奏会へ向かう道中、パリを訪れた蒔野。イラクで取材中にテロに遭い、九死に一生を得てパリに戻った洋子。二人は半年ぶりの再会を果たします。再会後、婚約者がいる洋子は、ある決断を下すことに……。

また、9名のクリエイターによる、『マチネの終わりに』に着想を得た作品をnote上で発表していきます。できあがった作品は、新聞の挿画

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いまは見えない眺め。『マチネの終わりに』

いまは見えない眺め。『マチネの終わりに』

人形を作り、それをつかった写真作品を作っているサイトウタカヒコです。最近、人形じゃない写真が多いですが…。(Portfolio Website:http://saitotakahiko.strikingly.com

3月のはじめから毎日新聞そしてnote上で連載されている
平野啓一郎さんの新作小説「マチネの終わりに」との連動企画に参加しています。

3月から始まった小説も第五章に変わりまし

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作品紹介②「空間」

作品紹介②「空間」

hitchです!

前回は作品について書きました。

2人の作家が如何に1枚の絵画を描くのか、についてでした。それは言わばキャンバスに対峙した、[作家+作家⇄作品]の関係です。作家が2人である事を除けば他の作家がやっている事と何も変わらないですね。

今回触れようとしているのはその制作環境[作家+作家⇄空間]についてです。

想像してください。美術館に飾られている作品を観て、その作家の制作環境

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もうひとつの「ヴェニスに死す」『マチネの終わりに』

もうひとつの「ヴェニスに死す」『マチネの終わりに』

人形を作り、それをつかった写真作品を作っているサイトウタカヒコです。イタリアは好きです。
そして今回のnoteは若干長いです。長いでしょう。(Portfolio Website:http://saitotakahiko.strikingly.com

毎日新聞・note上で連載している平野啓一郎さんの新作小説『マチネの終わりに』との連動企画に参加しています。

表題のトーマス・マンの中編小説「ヴ

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#003 禁じられた遊び

#003 禁じられた遊び

『マチネの終わりに』の登場人物、蒔野聡史はクラシック・ギタリストである。物語冒頭のコンサートで演奏されたというアランフェス協奏曲やセイス・ポル・デレーチョなどを実際に聞いて以来、最近はクラシックギターの曲を流しながら仕事をしたりして、ややハマり中です。

最初にクラシックギターと聞いて思い浮かんだというか、それ以外は知らなかった「禁じられた遊び」という曲があります。ギター初心者が練習する曲とか、昔

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人の顔

人の顔

「observe a portrait」

写真の形式の中でも、特に多義的といえるポートレイトについて考察したいくつかのシリーズのうちの一つです。

ポートレイトには何が写っているのか、何を見るのか、それが曖昧であるなら、何をもってポートレイトと定義するのか。ポートレイトを撮影する行為を通して、ポートレイトという形式について考察しています。

「マチネの終わりに」を読んでいく中で、何度かこの作品の

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