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青く滲んだインクが海を渡った

かつて”crubhouse”と呼ばれていた(←clubではない)伊藤 しおり による謎のプロジェクトがついにハワイの我が家の郵便受けにも届いた。

僕は玄関に置いてあるハサミを手に取り、庭に座ると近くにいた頭の赤い鳥がパタパタパタと音を立てて飛び立った。雲ひとつない真っ青な空の向こうで、プロペラ機がグォングォンと小さな音を立ててゆっくりと飛んでいた。

手書きのマジックで大きくAIR MAILと書かれた薄い茶色の封筒を開けると、2枚の手書き便箋と日常が描かれた3枚のグラレコが入っていた。

まず便箋を読む。何も感動することなど書いてないのに、読みおえた瞬間に泣いてしまった。

淡々とただそこで起きたこと、思ったことが書かれているだけだ。なんなら思ったことすらほとんど書かれていなかった。それなのにその青いインクで手書きされたお便りから、伊藤しおりという人間がこの世界に存在していることがじわじわと伝わってきた。

なぜこんな感情が込み上げてくるのだろう?
僕は縁側から移動し、コーヒーを淹れて椅子に深く腰掛けると、窓の外のストロベリーグァバの木になっている無数の蕾をぼーっと眺めながら考えた。

誰かが僕のために数十分の時間をつくり、何かを思って手紙を書いた。ただそれだけのことだ。
でも、ある人が今、同じタイムラインに存在することの尊さを、僕はこのかつて「蟹家(クラブハウス)」と呼ばれていた突然届く手紙から静かに感じてしまっていた。

言葉はすごい。彼女のペンが紙の上を行ったり来たりして、インクが滲み、少しして乾いて、その紙が封筒に入って、スタンプが押されて、飛行機に乗ってやってきて、それが今僕の手元にあるこれだ。

信じられないが、この紙の上で数日前(数週間前?)に「今日はかの地の彼に手紙を書こう」と思って手を動かした彼女が山形にいて、その紙を僕は今こうして手に取り、僕なりの意味をそこに見つけてしまった。

そのあまりにも当たり前すぎて見過ごされがちなことの中に、とても大切な小さな奇跡が含まれている壮大さに、僕は今とても驚き、感動しているのだ。

すごい、しおりん。びっくりした。
こんな遊びふっかけてきやがって。もうっ!

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