見出し画像

【1】地域ボードゲームってなに?

いたばしの地域ボードゲーム会・松本です。最新作「アラカワスイモンバン」の制作を進めながら、「地域ボードゲーム会」の活動、その裏舞台となるゲーム制作のプロセスや考え方を記事に残しておきたいな〜との思いで書き始めます。


まず、地域ボードゲームとは?

そもそも地域ボードゲームって言葉が何なのか。はい。「地域ボードゲーム 」とは特定の地域ネタを中心につくったボードゲームです。通常の「ボードゲーム」という言葉と同様に、必ずしも盤面の「ボード」を必要とせず、カードゲームなども含め、アナログゲーム全般で呼んでます。

僕らがこの活動を始める前から、地域ネタのカルタやスゴロクはたくさん存在していました。カルタやスゴロクよりも複雑な地域ネタボードゲーム作品も存在しています。僕自身も「いたばしカルタ」持ってますし。

いたばしカルタ

なので、僕らは言葉を発明したつもりはなく、ただシンプルに、地元ネタ満載だよって意味で「地域ボードゲーム」の会を名乗っていたのです。

ところがnoteに記事投稿を始めてしばらく、ある日、タグで「#地域ボードゲーム」が自分たちの記事しか存在しないことにビックリ。マジか? 今度はグーグル検索したら自分らの記事がヒットして2度ビックリ。

どうも、地域振興の活動で単発的に地元ネタのボードゲームを作ることはあっても、恒常的な創作活動を続ける団体は非常に少なかった(ていうか無かった?)ようです。おもしろいのに。

地域ボードゲームは、普通のボードゲームと比べて、その可能性の豊かさや楽しさに根本的な違いはありません。ただ、実際の使用シーンを考えると、普通のボドゲ以上に「対象と用途が限定的」とは言えそうです。

また、ちょっと掘り下げると、根本的に違うと言えそうかもしれないなーと思う特徴も1つあります。順番に行きましょう。まず「対象と用途が限定的である」とは。


ターゲットがせまい非売品

対象が限定的ってのは明らかですよね。地域ネタなので、基本的にはその地域に住んでいたり関心が高い方がターゲットです。うーん、限定的。

次に用途。お店で買える一般流通のボードゲームというのは、おもに個人が購入します。商品は、何千・何万という生産量で初めて数千円以下の値段になりますから、何千個も売れるよう、より多くの人が楽しめるよう作らなくてはいけません。

名作「スコットランドヤード」のように特定の地域がモチーフの作品も存在しますが、そのゲーム内容を理解する上で、スコットランドに関する知識や土地勘はまったく必要ありません。

でも地域ボードゲームでは、せっかく地域ネタなので地元ネタや土地勘が加わることで楽しみが深まり、ときにはゲームが有利になる構造を持ちます。持ちますっていうか、僕らは持たせています。たとえば「イタバシ防衛隊」というゲームでは、板橋に対する知識と勘がゲームの中心になります。全国市場で売れるワケがないのです

画像2

ニッチな存在だからこそ売り物にない特別な楽しさがあります。が、量産販売はムリなので、イベントで遊んでもらうなど、モノより体験を売る形が安定します。つまり用途はイベント活用に偏りがちです。

また、限定的とはいえ「地元」という空間的な区切りのおかげで、ほかのニッチ、マニアックなイベントよりは集客しすいという有利さもあります。

売れるワケがない、という決めつけで話を展開しましたが、マーケティングやコストをきちんと工夫すれば流通品も制作可能だとは思います。でも、とても戦略的に計画しないと難しいでしょう。そもそもの「ボードゲームで地域交流してみよう」って出発点からすると、イベント活用はとても自然な方針だろうと思います。


変化していく生きたゲーム

さて、根本的な違いと言えるかもしれないって要素も、市場品でないことに関与します。地元ネタだからこそ、遊んでくれた地元民が「ここにアレも違和感ないよね?」とネタ提供してくれる場合があります。

それがゲームに有効と思えるなら、デザインを追加したり、特殊ルールを作ったり。すべてが自作ですから、自由にアップデートできます

名作ゲーム「スコットランドヤード」を基盤にして作った「いたばしケイサツ」では、板橋ネタを込めた「エックスカード」というオリジナル要素が、ゲームの流れを大きく左右します。最初は6種類でしたが、何回か遊ぶ中で、板橋の「縁切り榎」と「ニリンソウ」のカードアイデアが飛び出し、新たに追加されました。

エックスカード

ワンセット、あるいは数セットしか作っていないので、追加カードの発行やガイドブックの更新も簡単です。

この先、長期的に活動していく中で、そうやってときどき変化を加えつつ、遊んでくれている人をゆっくり作る側にも取り込んでいけたらイイなーと思っていたり。流通品にはない特性として「地域といっしょに変わる、生きたボードゲーム」って感じになれたら素敵じゃないか、と期待しています。


地域「活性化」ボードゲームと何がちがう?

ところで、グーグル検索すると「地域活性化ボードゲーム」って呼称はそこそこ出てきます。ボードゲームを通じて、地域の課題を解決。まちを元気にしようという内容です。もう、超グッドだし、心から応援したいですよね。

でも、僕らは「活性化」と付けませんでした。差別化を狙ったんではなく、単純に「活性化するぞー!」という発想がなかった(笑)。ただ、ただ、地元ネタで遊びたかったのです。地元民の笑いあえる交流ツールをつくることが主眼。それは結果的に「活性化」にもなりそうだけど、副作用です。

このささいな違いも、微妙にゲーム体験を変化させます。

課題解決型のゲームは、イベントやワークショップでのゲーム体験を通じて、その課題に目を向けてもらうことが目的です。1度の体験でゴール(課題に目を向けさせる)に到達しなければなりませんから、必然的に、1回遊べばまず目的を果たせる構造が求められます。
ボードゲームはあくまできっかけ。その後は、ゲームではなく課題解決に向けた行動をしほしい。だから、ゲームに繰り返し遊べる構造を持たせる必要がありません。こうしたワークショップ型には、1回ネタバレすると次は遊べないタイプや、プレイ時にファシリテーターといった進行役がいないと成立しないタイプもありますが、それで全然イイのです。

でも、地域ボードゲームは、地元民で集まってプレイすること自体が目的です。だから、むしろ何度も遊べてほしい。何度もワイワイ遊ぶのに、1回しか楽しめないゲームや、進行役がいないと成立しないゲームは、あまり相性が良くありません。

とはいえ、学ぶことだって楽しいのですから、ボードゲームの学び重視、遊び重視というのは明確な線引きのない、グラデーション的なもの。「活性化」の文言有無を深く捉える必要はないでしょう。
遊びの領域をせばめず、ときには不謹慎ネタやブラックな笑いも含めて楽しむのが、僕らの「地域ボードゲーム」というイメージです。

制作中の「アラカワスイモンバン」は全員協力型のゲームで、テーマ的には防災教育にも役立ちます。各プレイヤーは座った場所で立ち回りが変わってしまったり、プレイのたびに自分の技術を高められる部分があったりと、何度も楽しめるゲームになるよう調整中です。

画像5


こうした違いは、ゲーム作りにどう影響する?

ここまでに述べた「地域ボードゲーム」の特徴を、遊んでいる側が気にする必要はありません。ただ、ゲームを作る側にはとても重要です。どんなゲームを作るべきか、それぞれが制約となってきます。

実際的な制作のプロセスは、別の話にまとめますが、何がどう制約になるのか、イメージがわかないと思いますので、いくつか具体例をあげます。

ゲーム会の参加人数と時間を考慮
・なるべく、いろんな人数でプレイできる内容が好ましい
・可能ならば、遅れてきた参加者や途中で帰る人に対応できる設計を
・20分くらい、長くても60分程度で終わるよう調整したい
・数分で終わることができるミニゲームも1つは用意があるといい

ゲーム会の会場環境を考慮
・机のサイズを考慮し、あまり大きすぎない方が扱いやすい
・細々としたパーツがある場合は、数を確認しやすい工夫がほしい
・カードが机から取れない!を防ぐゲームマットを用意するとか

初参加と常連参加の混在
・ゲーム固有の事前知識が、勝敗を大きく決めないようにつくる
・ゲームのルール上で個人攻撃や集中攻撃が起こりづらいようにする
・声のでかい人が自己主張だけでゲームを支配できないよう設計する

いずれも「絶対に」ではありません。が、地域ボードゲームでは共通しやすい制約なので意識しておくと「ベター」です。ゲーム制作では、できるだけ実際のプレイ状況を想像して、仮説を立てたり、紙の切り貼りで検証したりと、地道に作り込んでいくことが大切だと思います。

画像4

今回はこんなところで、また次回、よろしくお願いします。

この記事が参加している募集

ゲームの作り方

板橋区内に、レーザーカッターや3Dプリンターを使って何かを作ったり届けたりしています。また、そうした道具を使える人を増やしたいという思いで、講座などもちょいちょい開催しています。サポートいただけた場合は、こうした機材費や会場費などに利用させていただきます。