銀河の塵となれ

「あのさ、どうして柊ちゃんはわきの毛を剃らないの。」

隣りで小説を読んでいる彼女に問いかけると、ほんのわずかな時間、瞬きする間もないほど短い刹那、空気の流れが止まった。彼女はゆっくりとこちらに顔を向け、長い睫毛に縁取られた色素の薄い瞳で僕を捉えるとこう言った。

「洋ちゃんは私に剃ってほしいの。」

穏やかな彼女の投げかけは僕の胸の奥にある何かにこつんと響いた。なぜか僕は黙った。何も返す言葉が出てこない。


わきの毛があると興奮が萎む、かというと実際にはそんなことは全くない。彼女の白く柔らかで艶めかしい肢体に僕はいつも無我夢中で没頭してしまう。もう出会って数ヶ月が経つというのに、飽きもせずに。我に返り、羽根布団を手繰り寄せる彼女のわきが目に入ると僕はぼんやり自省してしまうのだ。白いわきにしなりと垂れ重なる毛もまた彼女の一部で、いつだって美しいのだった。その様を見ていると、僕は自分が成人して十数年経つ、社会に責任を持った大人の男であることを忘れてしまう。

僕は彼女の前でいつも一人の丸裸な少年になった。彼女は僕の虚勢を簡単に剥ぎ落してしまう。柊と二人で身を寄せ合っていると、僕はジェンダーという鎧を脱ぎ捨て、ただ一人のヒトに、オスになるのだった。いつも僕は、僕と彼女とこの世の何もかもが溶け合って塵となり、銀河の彼方に漂っているような心持ちにさせられてしまうのだ。

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